鳴神裁と人工の雷 Ep.7

 鳴神が言う。

「せめて俺をぶち飛ばすなら、言葉を使えよ」

 ケリンは航空機の胴体に触れて、ミサイルを形成した。

「スティンガー。これが俺の“言葉”だ、鳴神!」

 神父は、建物から飛び降りて、身を隠した。

 撃ち出されたミサイルが壁を砕く。

「結局逃げるだけか?」


 やがて、ひとつ、ふたつ、次々と。雨が降りだした。

 このフィールドの局地的な消火だ。

 鳴神は現れない。

「俺は、お前とは違う。言葉で戦う」

 どこからともなく、声が響く。


「どこまで行ってもラッパーか。ペンは剣より強しというが、言葉は兵器より強いと本気で思っているのか?」

「・・・・・・言葉の使い方次第だ」

「そうかよ!」

 手を前に向け、ケリンは再びスティンガーを発射した。近くの建物が爆散する。

「言葉の使い方を、お前は知らないな」

「出てこいよ」

「エルフのあの娘が振り向かないわけだ」

 ケリンが青筋を立てて叫ぶ。

「関係ねえだろうがああ!」

 再び、幾つものミサイルを生成し、上下左右、目につく物に飛ばす。

 次々と爆炎が上がり、蔦と鉄をまき散らした。


「八つ当たり同然だ。無駄無駄、可笑しいぜ。俺はここだぞ?」

「鳴神ィイイ!」

 声を張り上げて怒声を散らすが、鳴神は出てこない。

 何か、どうしても違和感があった。

 ケリンは押し黙る。


「どうしたどうした、ケリン?」

「叫ぶだけが取り柄か? 何やってんだよ、おい」

「俺はここだって言ってんじゃん。お前本当、ダメだなあ」

 鳴神は一方的に喋り続けていた。

 ケリンは目を瞑る尖った耳に、意識を集中する。

 続く雨音。彼の長い黒髪を、水滴が滴った。


「ほらほら、探してみろよ、ここまでおーいで・・・・・・」

 腕を伸ばし、もう一度呪文を唱えた。

「ミストラル」

 鉄の矢が空を裂き、右方の建物が弾ける。

 吹き飛んだ破片に紛れて、見たことのある物が飛んだ。ひしゃげて壊れたラジカセだ。年代物の、鳴神が持っていた品。


 鳴神はそれきり、言葉を継がなくなった。

 今までのは、会話ではなかった。ただの録音だ。

 奴は。鳴神は、何処に。

 そう思うケリンの背中へ、影が不意に飛びかかった。気が付くのが遅れた。

「俺、鳴神裁と――」

 交差から広げた腕が、不可触の糸を引く。絡め、ケリンの腕に巻いた。

 着地する鳴神が、次の句を言う。

「っとぉ。ヤミクモケリンは、リスペクトを抱いている!」


 鳴神が用いた“関係性を可視化する能力”。糸と糸で結ばれた両者の論理的な軽重を、バーチャルの基底部分が物理的な軽重に変換し、定める。

 この場合、リスペクトをより“重く”抱いているのは、鳴神の方であった。

「おおおっ!」

 鳴神が、ケリンを思い切り引っ張る。

「これがお前の・・・・・・!?」

 ケリンが抵抗する。そのまま引きずられた。

 雨の水気を含んだ蔦に、膝が埋まる。

 軽い側は、重い側に自由に振り回されるのだ。


 だが、咄嗟に組んだ論理式は、弱い。ケリンの側にも、確かにリスペクトがあったのだ。お互いの重量差は、決定的ではない。

 そして、彼は既に手を打っていた。姿勢を崩したケリンだが、鳴神の手足が届く前に、ひとつ予言する。

「・・・・・・ミサイルの軌道は様々だ。真上に飛ぶものもある」

「なにっ」

 跪くケリンは、地面に手を置いた。すかさず蔦が伸び、それは幾重にもなる檻となって、彼を隙間無く囲む。

 対する鳴神は無防備だ。

 まずい。


「今の繋がりは、“打ち切る”!」

 糸を切った鳴神は、その場から逃れようとした。

 蔦の球体となりつつあるケリンが言う。

「爆ぜろ。トマホーク」

 あらかじめ、高空を飛ぶ物があったのだ。

 頭上から降ってきたミサイルを、鳴神は知覚すらできなかった。

 視界が、白く飛んだ。

 聴覚も失われた。

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