鳴神裁と人工の雷 Ep.4

 外に出た鳴神は、四駆と装甲車の列にぶつかった。

 病院前の道路を、ゆっくりと横切っている。タイヤの大きな装甲車の切り抜かれた天井から、機銃と迷彩のメットが覗く。サングラスをかけた自衛軍が、小刻みに揺れていた。バーチャル自警団の次は、バーチャル自衛軍の出番である。初めは小さな火元が、だんだんと大きくなってゆくのを鳴神は感じた。


「物騒になってきやがった」

 鳴神は、空き席のあるジープに、走りながら声をかけた。

「おい、どこへ行くんだ、ケリン追ってるんだろ!」

「そうだ! 我々はエルフの森へ向かう。お前は?」

「俺は、ケリンの・・・・・・」

 口が動いても、声は出なかった。

「・・・・・・知り合いだ。乗せてくれ!」


「いいだろう。来い!」

 自衛軍はジープのドアを開く。腕を伸ばし、鳴神はその手を掴む。

 鳴神は身体を突っ込み、なんとか乗ることができた。

「大丈夫か」

「・・・・・・ああ」

「いいのか? 俺達はケリンの敵になるぞ」

「お前らがドンパチやる前に、説得するさ」

 それだけ聞いて、鳴神を引っ張ったサングラスの自衛軍は笑う。

「カルフォ小隊へようこそ。前の席のこいつらがブレイン、マック、ケツ見せてる装甲車に居るのはリックとビリーだ(彼等もコードネームで呼び合う)」

「いきなり登場人物増えても困るわ」

「それなら俺だけ覚えておけよ。シェイファーだ、よろしく」

 普段会わないタイプの奴等だな。

 改めて握手を求めるので、鳴神はとりあえず応じた。


 ジープと装甲車の行列は、昼頃にエルフの森の入り口へ到着した。

 ここから先は車が役に立たないので、鳴神含め全員が降車する。

 いちいちGOGOGO! とうるさく追い立てられるので落ち着かない。

 周囲の警戒を始めたり、機材を出したり、どこかに通信したり。自衛軍は何かしていないと落ち着かないのかという、忙しい集団だった。

「生活リズムが合わねえな・・・・・・」

 自衛軍の一人、ビリーが鳴神の肩をばんばん叩く。

「痛ぇな、何だよ」

「しっ!」

 指で声を制止した。シェイファーが尋ねる。

「どうした、ビリー?」


「・・・・・・木の上に何か居ます」

 指差した先、森の始まりに生えた、木のひとつ。

 枝の上に小さな何かがいる。こちら向きの視線が、はっきり分かる。

 鳴神は、目を凝らした。灰色なことだけは判別できた。

(よく分かるな)

(ビリーは勘が鋭いんだ。待て、動くぞ!)

 こちらが気付くなり、灰色の何かはするすると木を降り、こちらへ近づいてきた。かなりの速さだ。自衛軍は銃を向けたが、照準が定まらないかもしれない。それくらいの素早さだった。

(少なくともケリンじゃない)

(なるほど、待ってみるか)

 それは、鳴神の足下で急停止した。

 灰色の毛並みの、リスだった。


「鳴神、鳴神。鳴神裁。会えたな!」

「・・・・・・?」

 何故、俺の名前を。それより、喋るリス自体、初めてだ。

「なんだ、知ってるのか?」

 毒気を抜かれたシェイファーが尋ねる。

「いや。何者だ、お前」

 リスの知り合いは居ない筈だ。

 魔法で姿を変えられた、などという話でなければ。

「おれは、“VTuber界を見守るリス”だ。お前達を永らく見つめてきた」

「もしかして、VTuberなのか? リスなのに?」

 ワケが分からない。


「鳴神、鳴神。お前、ケリンを追うんだろ。はっきり言うが、お前、あいつと交渉するにはかなり、分が悪い、ゾォ。だから、おれを連れて行け。森で暮らすおれが、お前の感覚器センサーになってやる」

「ちょっ、おい!」

 リスは鳴神の足下をぐるぐると周り、らせん状に昇り始めた。そして、鳴神の左肩の上にちょこんと座る。

「こらっ、降りろ!」

「お前のためだ、鳴神」

 払った手を避けるし、揺らしても動かない。

 自衛軍の面々は振り払おうと必死に踊る鳴神を見て、げらげら笑った。


 鳴神はぜぇぜぇと肩で息をする。

「諦めろ、鳴神」

「くそっ・・・・・・、勝手にしろよ。どっちかというと“自己顕示欲が強いリス”か、そうでもなかったら“ひねくれリス”って感じだな・・・・・・」

 他の隊は既に森へと歩きだしている。ケリンを探す、山狩りだ。

「よし、安全なようだ。行くか!」

 リスに敵意がないことを確認して、シェイファー率いるカルフォ小隊もエルフの森へ行進を始めた。

 鳴神も、この流れに任せるしかないのだった。

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