第37話 単独行動

 ラグナたちが罠に気づく一時間ほど前、別館にいたリクトたちは一羽の鳥を見つけた。


「あれ、あの鳥って……」

「連絡用の鳥だ」


 ラグナたちと事前に決めておいた連絡用の鳥が、リクトたちの所に飛んできたのだ。


「手紙を持っているな」


 鳥の足についていた手紙を取り外し、内容を見る。


「カムイからだ」

「なんて書いてあるんだ?」

「……俺たちが戦うはずの山賊たちが、今王都に向かっているらしい」

「なんだって!? ラグナ様たちと入れ替わりになったってことかよ」

「じゃあここで待ってても敵は一向に来ないってことね」


 カムイの情報が確かなら、ここにいる意味はなくなってしまう。


「どうする、戻るか?」


 シュウに促されたリクトは少し考え、


「……よし、二人はここに残って俺だけ戻ろう」


 と答えた。


「どうしてリクトくんだけ?」

「もしかしたら、カムイの情報が間違っている可能性もあるからな。それっぽい奴を見つけただけで、単なる見間違いかもしれない。そうだった場合、ここを手放してしまったら敵の思うつぼだ。だからここに見張りをたてておきたい」

「ここに二人残る理由は?」


 シュウたちはまるでリクトを試すかのように聞いてくる。


「カムイの情報が本当だとして、王都に向かった賊たちは多くて200人くらい。それなら城にいる兵士たちだけでも十分に対処できると思う。俺が行く必要もないと思うけど、城の人間だけで対処してしまったらラグナの評価も落ちてしまうかもしれないから、念のため俺も行く、って考えた」

「なるほどな、悪くないと思うぜ」


 シュウにそう言われたリクトはほっとした。

 このように頭を使って状況を判断したことがないため、正しい行いなのかわからなかったからだ。


「というわけで早速俺は戻るよ。この小舟を使って下流まで行けばそう時間もかからずに王都まで戻れると思う」

「そうだな、川を下れば一時間くらいで着くんじゃないか」

「じゃあ行ってくる。もしラグナたちが来たら俺は先に行ったと伝えてくれ」


 そう言い残し、リクトは小舟に乗って川を下り始めた。


 川を下り王都近郊まで着いたリクトは、小舟を近くに隠して陸路を歩き始めた。

 ここからなら王都までかなり近いので、予想通り一時間ほどでたどり着けそうだった。


「着いたらまずはカムイに会わないとな……」


 しばらく走って城下町に入ったリクトは周りの雰囲気を見て少し違和感を覚えた。


「普段と何も変わらないな……。特に町が混乱している様子はなさそうだ」


 カムイの手紙によると賊たちが王都に押し寄せてきているとの話だったが、それにしてはやけにいつも通りだった。

 王城の門まで着いたリクトは門番に事情を説明し中に入ろうとしたが、


「申し訳ありませんが、陛下から誰も入れるなと言われていますので」


 と断られてしまった。


「いや、その王様に頼まれて賊討伐に行っていた軍の一人なんです、俺は。そこでちょっと報せが入ったから戻ってきたんですよ」


 リクトはカムイの手紙を門番に見せた。


「申し訳ありません。それでも入れるなと言われているので」


 しかし門番は頑なに入れようとはしなかった。

 流石に怪訝に思ったリクトは、王城の中で何が起きているのかを考える。


(町はいつも通りだが、城の中には入れない。これはつまり、賊たちが城の中に潜入しているから迂闊に誰も入れないようにしているのか?)


 これ以上増援を呼ばれる前に封鎖して、城の中にいる兵力のみで侵入した賊を討伐する。そうリクトは考えていた。


(だとしたら、ここでいくら問答しても埒が明かないな。さてどうするか……)


 顔を天に上げて考え始めたリクト。

 そこでふととある木が目に映った。


(あそこにある木、枝の先が城の窓に近いな。もしかしたらあそこから侵入できるかもしれない)


 思い立ったが吉日、早速リクトはこの場を離れて窓から侵入する算段を付けた。

 見張りに気づかれぬよう木に登り、枝に移る。

 枝は少し細いが、素早く移動すれば折れる前に何とかなりそうだ。

 問題は窓だが、軽く確認したところ鍵がかかっていた。


「開かないか。……仕方ない」


 覚悟を決めたリクトは、刀を投げ槍のように窓に向かって投げ、破壊した。

 当然窓の割れる音は周りに聞こえてしまう。事態に気づかれる前に、リクトは割れた窓から素早く部屋の中に入った。


「すみません、後でどうにかします!」


 誰に謝っているのかわからないが、とりあえず謝罪し城内でカムイを探し始めた。

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