第36話 罠
リクト、シュウ、アカネの三人はラグナの指示通り別館に辿りついた。
「ここで俺たちは見張っていればいいんだよな」
リクトが再度作戦を確認する。
「ああ。ラグナ様たちが作戦を開始するのが二日後だから、それまではここで待機だな」
「万が一敵がこっちに来る可能性もあるから、気は抜けないけどね」
そのために早めにここに待機しているのだ。
「でもいきなり来ることはないだろう。それまでこの別館の中を探っておこう」
「そうだな。誰か見張りをやっておいて、残りの二人で探すのがいいだろう」
「じゃあ見張りは私がやっておくわ。その中って如何にも汚そうな廃墟みたいだし、あんまり入りたくないから」
「わかった。じゃあ俺たちで行こう」
リクトとシュウは入り口の扉を壊し、中に入った。
別館はそこまで広くなく、小さな山小屋くらいの大きさだった。
だがそれでも中にあった金銀財宝類の数はリクトたちの予想を超えていた。
「すごいな、これ全部あいつらのものなのか」
「村からかっぱらった分もあるだろうが、それ以外にも貨幣を金や銀に換金したんだろうな」
「どうしてそんなことを?」
「貨幣っていうのはいつ価値が落ちるかわかるものじゃないからな。その分金や銀は古くから貴重なものとして取引されてきた。だからいつの時代でも高値で取引されているのさ」
「なるほど……」
リクトたちはとりあえず中にあった財宝類を一纏めにした。
「よし、こんなものか」
「でもこれをどうやって運べばいいんだ?」
「貨物車か何かに乗せる必要があるだろう。だがここに来るまでの道のりから考えると、そんなものをここまで運ぶことすら難しそうだな……」
リクトたちはこの別館に辿り着くまでに荒れ果てた道を歩いてきた。
この道を徒歩以外で歩むのは一苦労だろう。
「そうだ、確か近くに川があったな。そこから船に乗せて下流まで流すのはどうだ?」
「それはいいな。確かこの下流は王都に近かったし、そこから運べばそれほど大変ではないと思う。ちょっくら近くの村から小舟を借りてくるよ」
「じゃあ俺は今のうちに外に運びだしておくよ」
「なら私はここで待ってるねー」
時間があるリクトたちはそれぞれ出来ることを今のうちにやっておくことにした。
そしてラグナたちが出発する日となった。
事前に準備していたこともあって、移動まではスムーズに事が運んだ。
山賊の砦までの道のりも予めルートを決めていたため、予想よりも早い時間でたどり着けた。
しかし、先行していたイズナからとある報告が届く。
「ラグナ様、少し砦の様子がおかしいようです」
「おかしいとは?」
「以前の報告よりも人数が減っているとのことです。それも数人という規模ではなく100人以上も減っています」
「そんなにですか……。まさか村を襲う計画を予定よりも早めたのか?」
ラグナはしばらく考えてみるが、納得のいく答えは思い浮かばなかった。
「どうしますか?」
「……とりあえず作戦通りに攻めましょう。準備は済んでいますか?」
「いつでも大丈夫です」
「よし、では作戦開始!」
作戦が開始され、ラグナたち別部隊は倉庫に忍び込むために森に身を隠しながら移動する。
その間、イズナは隊を率いて正面で戦闘を繰り広げる。
本来ならば数的不利なので迅速に作戦を遂行しなければならなかったが、敵の数が少なくなっているため、ある程度の余裕はあった。
だがラグナは少しでも消耗を抑えるために予定通り迅速に移動していた。
そして倉庫に着き、中に入るもそこには少々の物資のみがあるだけだった。
「なんだこれは、いくら何でも少なすぎる……」
「ラグナ様、大変です!」
突如大慌てで外で戦っていたはずのイズナが倉庫に入ってきた。
「イズナ将軍、何故ここに……」
「これは罠です。ここに残っていたのはカナメが集めた山賊たちだけ。カナメ率いる元ラゼルド兵士たちは既に王都に向かったと……」
「なんだって!? どうしてそんな情報を……」
「先ほど捕らえた山賊から話を聞き出しました。手応えがなく、戦闘もすぐに終わったので疑問に思ったら情報を吐き出したのです」
「なるほど……」
「でもさ、カナメたちは王都に向かってどうするの?」
これまでの話を聞いていたリコが疑問を口にする。
「ここにいたのが100人くらいだとしたら、カナメが率いているのは残りの200人くらいでしょ。でも王都にはその何十倍以上もの兵力がいる。普通に戦ったら負けるのが目に見えているわ。いくらラゼルド王国が国として大きくないとはいえ、たかが200の兵に遅れをとるわけがないと思うけど」
「ええ、私もそう思いますが……」
二人がそう思うのは当然だったが、ラグナにはある情報があった。
「……いや、そうとも言えないかもしれない」
「どういうこと?」
「実はロクスからある情報を聞いていたんだ。『この国に蒔かれた種に気をつけろ』と」
「種?」
「それが何を意味するのか、はっきりとわかっているわけではない。だが嫌な予感がする」
ラグナの中で答えは一応出てはいるが、それが正しい保証もなかった。
「とにかく、ここを制圧次第隊をまとめて王都へ戻ろう。リクトたちにも伝えないと……」
「それなら連絡と制圧は私たちに任せてください。ラグナ様たちは一足先にお戻りを」
「わかりました。よければジハード殿も一緒に来てください」
「ええ、もちろんです」
ラグナ、リコ、ジハードはすぐさま準備を整え、王都へと戻りだした。
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