第35話 カナメの動向
「どう思う、カムイ。ラグナ様の作戦は」
会議が終わった後、ジハードがカムイに話しかける。
「まあ悪くはないんじゃないか。後は敵の練度とカナメの統率力の問題だろう。これらが想定以上に優れていたら、今回の策は無意味と化す」
「敵に頼った作戦か。確実性には欠けるが……」
「まだ彼は指揮官としては未経験で未熟だ。それにしては結構考えたと思うけどな」
「中々あまい採点だな、お前は」
「まあいいじゃないか。俺としてはラグナ様に軍を率いてもらってシルフ王国を取り戻してくれた方がいいんだ。明らかにダメだったらともかく、多少の贔屓くらいはな」
「そうかい」
「そんなことより、お前は出発の準備をしなくていいのかよ。俺は王の護衛を任されているから気楽なものだが、お前は監査役も務めるんだろう」
「そうだな、お前も気を抜かずに務めろよ」
そう言ってジハードは部屋から出ていった。
「……さて、俺も準備しておくか」
先ほどラグナから忠告されたことが気掛かりなカムイ。
単純に物事が運ばないような、そんな予感がしていた。
会議を終えたリクトはラグナの作戦通りに準備を進めていた。
「お兄ちゃん、どこか行くの?」
準備をしているリクトを見ていたミソラが尋ねる。
「ああ、今日会議して作戦が決まったんだ。俺は準備が出来次第出発することになっている。ミソラ、その間お前はこの城で待っているんだ」
「……うん」
ミソラはどこか寂しそうな表情を浮かべている。
話をしながらも順調に準備を進めていく。
「こんなものでいいかな。じゃあ行ってくる、遅くとも一週間後には帰ってくるから、それまでまたな」
「うん、早く帰ってきてね」
ミソラの声を聴いた後、リクトは部屋を後にした。
「……私も皆みたいに戦えるようになればいいのに。そうすれば、皆やお兄ちゃんを守ることもできるのに……」
一人寂しく、ぽつりと呟いた。
一方、山賊の砦本館では大勢の賊たちがうごめいていた。
「……着々と兵力は整いつつあるな」
カナメは砦に集められた賊たちを見て呟いた。
「今回の村はそこそこ蓄えがあるみたいですね。偵察隊がそう言っていましたよ」
「ああ、それを狙っているからな。あの村はこの時期になると作物が豊富に育つんだ。それを売りさばいて莫大な利益を上げている。とはいえ、今は商業共和国が連合軍によって制圧されている影響で商売も上手くいっていないみたいだがな……」
「じゃあ、期待しているほど手に入らないってことですかね」
「だろうな。とはいえ、十分に物資は手に入るだろう。それを仕入れたら次はいよいよラゼルドに攻め入る時だ」
カナメは以前からラゼルド王国を制圧するために動き出していた。
そのために山賊たちを引き入れて兵力を増強したり、近隣の村々を襲って物資を蓄えていたのだ。
そしてもう一つカナメはあることを仕掛けていた。
「ところでラゼルドの様子はどうだ?」
「今入った情報ですが、何やら怪しい動きがあるようです」
部下の一人がカナメに報告をする。
「怪しい動き?」
「なんでも、この砦に攻め入る小隊を編成しているとか……」
「ラゼルドから? 俺たちを討伐しようとでも考えているのか……。敵は何人くらいなんだ」
「報告によると、およそ50です」
「50? そんな少数で攻め落とそうとしているのか」
カナメは少し考えこむ。
「もう少し敵の情報がほしいな。他に何かわかっていることはないのか?」
「情報によると、その小隊にはあのヴィクリードの直属騎士がいるとか」
「直属騎士だと!?」
ヴィクリード帝国の直属騎士といえば、かつて国に仕えていたカナメたちなら誰もが知っている存在だ。
「なるほどな。直属騎士がいるならば50名の少数部隊でも十分だ」
「どうします?」
「……いくら数では勝るとはいえ、さすがに直属騎士と戦り合うのは部が悪い。下手すれば全滅も免れんな」
「じゃあ、一刻も早く逃げなければ……」
部下が不安そうな表情を浮かべる。
「……俺たちの戦力の内訳はどうなっている?」
「というと?」
「俺たちは元々、ラゼルド王国の元兵士たちが集まってできた集団だったはずだ。だがラゼルド王国に反乱をするためには戦力が必要になったから、賊や同じくラゼルド王国に対して反感を持っている者たちを集めた。その内訳はどうなっているんだ?」
「ええと、我々元ラゼルドの兵が100名、山賊たちが50名、その他ラゼルド王国に対して反感を持っている者たちが150名となっています」
「……なるほど」
カナメは頭を必死に巡らせる。そして一つの策を思いついた。
「……仕方ない。少し早いが、種を使う時か。お前、耳を貸せ」
カナメは部下に思いついた策を話す。
「理解したな? その通りに準備しろ」
「わかりました」
部下は部屋から出ていき、カナメの策通りに準備を始めた。
「さて、俺たちとお前たち、どちらが勝つかな」
一人になった部屋で、カナメはポツリとつぶやいた。
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