第34話 ラグナの策
「よし、後は王の許可を得るだけだ……」
昨日考えた策を実行するためには、いくつかの障害を乗り越えなければならない。
ラグナは朝からその準備をしていた。
今は王の間でリントからとある許可をもらいに行くところだが、その途中の小部屋でふと騎士たちの会話が聞こえてきた。
「……おい、お前あの話についてどう思うんだ?」
「……正直、俺も納得できていないところはある。だからこそ以前からお伺いを立てているが、未だにはぐらかされてばかりだ」
「お前もだったのか。……俺もそうだったんだ。疑うのはよくないと思っているが、こうも先延ばしにされてばかりだと俺たちのことなどどうでもいいとお考えなのだろうか」
「だからといって、奴の話に乗るのも危険な気がするがな……」
内容は詳しくはわからなかったが、どうやら何かしらの問題に悩まされているようだ。
「……」
ラグナは気になりながらも自身の予定をこなすために王の間へと向かった。
そして昼頃、ラグナは皆を集めて自身が考えた作戦の内容を伝えた。
「昨日一晩考えて思いついた作戦を説明したいと思う」
ラグナは地図を広げて説明を始める。
「まず、王から借り受けた小隊を率いて山賊のアジト本館に行く。行く日は今から二日後だ」
「どうして二日後?」
「山賊たちが村を襲撃する計画を立てているのが三日後だからだ。王都からこのアジトまで一日もあればたどり着けるから、出発するのは二日後でもいい。僕の予定では山賊たちが村を襲う日の昼頃にアジトに到着できればと思う」
「山賊たちが村を襲うのは夜更けだという情報が入っています。故に当日の昼には戦力が集まっているかと」
イズナが補足する。
「そう、その戦力が集中している時に一網打尽にする。できれば一人も逃がさないようにしたい」
「で、具体的にどのように攻めるんだ?」
肝心な部分が知りたいリクトが急かす。
「まずイズナ将軍に小隊を率いてもらい、正面から山賊と戦う。当然数では劣っているが、ロクスの話を参考にすると兵の練度ではこちらの方が上だと思うから、何とか戦えるはずだ。それで肝心の戦い方ですが、山賊たちの注意を引くようにしてください。こちらからは無理に攻めずに、守備に徹するような戦い方で大丈夫です」
「わかりました」
「イズナ将軍が引き付けている間、僕は砦の裏口から中に侵入し、倉庫にある物資を処分します。これにより敵の動揺を狙って連携を崩し、その隙を突いて一気に片付ける、という算段です」
「裏口って、そんなのどうやって見つけるんだ? 第一何でそんなもの知ってるんだ」
リクトが尋ねると、ラグナは待ってましたと言わんばかりに答えた。
「それはロクスから聞いたんだ。彼の情報とイズナ将軍の情報を元に砦内の見取り図も作成し、裏口と倉庫の場所も記した。これを元に行動していく。それに実際の現場にはロクスも連れていくつもりだ」
その言葉を聞いてリクト、シュウ、アカネが驚愕する。
「あいつを連れていくのか!? あいつ今牢獄にいるんだろう?」
「そのことは既にリント王と話がついている。今回の作戦に同行させる代わりに罪を減刑させることでロクスは納得させた。リント王については追加の戦力補強を受けることについてはリクトたちのこともあって許可をもらえた」
「いや、それ以前にあいつは元々敵だろう。いつ裏切ってお前を殺すか、あるいは仲間と通じて罠にはめるかわからないぞ。あいつを信用できないって言っているんだ」
リクトの心配は尤もだが、ラグナはそれも考慮していた。
「それについても対策済みだ。僕の傍には常にジハード殿に同行してもらう」
ラグナがジハードに視線を向けると、彼はゆっくりと頷いた。
「これも既に話は通してあって、もし彼が裏切ったら即座にジハード殿が始末することになっている。直属騎士の彼ならロクスを一瞬で葬ることなど容易だ。だから彼は生きたいのなら素直に従うしかないんだ」
「でも、罠で多人数のところに連れ出されたらどうするんだ?」
「問題ない。例え敵が想定の100倍以上いようが傷一つ負わずに片付けるぞ」
ジハードが即答した。彼の言葉は全く冗談には聞こえなかったため、リクトも黙ってしまった。
直属騎士というのはそれほど強い騎士なのだろうか。
「まあラグナ様がそこまで言うなら俺たちは何も言わないよ。ところで俺たちはどうすればいい。イズナ将軍に同行すればいいのか?」
シュウが尋ねると、ラグナは次の作戦を話し始めた。
「いや、リクト・シュウ・アカネの三人は別館の方に向かってほしい。万が一敵のボスであるカナメがそちらに逃げた場合、捕らえてほしいからだ。ついでに別館の中を探れるのなら、そこにある財宝を没収しておいてほしい」
「なるほどな」
「できれば君たちは準備が出来次第出発してほしい。ここから別館までは距離も結構近いし、急げば数時間でたどり着けるはずだ」
「わかった。早速準備するが、他に伝えておきたいことはあるか?」
「もしカナメがそちらに逃げてきたら殺さずに生かして捕らえてほしい。他の者に関しても出来れば殺さないでほしいかな。もちろん自分の命を優先して無理そうだったら構わない」
「了解! じゃあいくぞ」
「あ! 最後に一つ」
ラグナは一呼吸置いた後、
「そっちの指揮はリクトに任せたい」
と言った。
「……何で俺?」
「いい機会だし、君も指揮することを経験しておいた方がいいかなと思って」
「まあ確かに、一回くらいはやってみたいと思うかな」
「だろう? 今回は少人数だし、もし判断に迷ったらシュウたちから意見を聞けばいいし、試しにやってみてほしい」
「……わかった。チャレンジしてみるよ」
最後に連絡手段の確認をした後、リクトたちは部屋から出ていった。
「あのー、私はどうすればいいの?」
最後に残ったリコが尋ねた。
「君は僕と一緒に物資の処分を手伝ってほしい。一人でやるよりもリスクは減らせるだろうし」
「わかったわ」
「そしてカムイ殿はこの城に残ってリント王と姉上の警護をしてください。僕の監視役はジハード殿一人で十分でしょう」
「承知しました」
「それともう一つ、カムイ殿にお話ししておくことがあります」
ラグナはカムイの耳元に口を寄せ、話した。
「……よろしくお願いします」
「お安い御用です。何かあったら先ほどの連絡手段で伝えましょう」
「お願いします。では各自準備に入ってください!」
ここからが作戦開始だ。
ラグナの試練が今始まった。
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