第33話 作戦会議
それから数日後、リクトたちはイズナが集めてきた情報を会議室で確認していた。
本拠地の砦にいる山賊はおよそ200。しかしそれが全てではなく、他の拠点にまだ多数の賊が潜んでいるらしい。手に入れた情報によると、4日後に物資補給のために近隣の村を襲う準備をしているため、現在は戦力をまとめているとのこと。
イズナの報告では、ロクスがラグナに教えた別館は確かに地図の場所に存在した。木々に囲まれて建物の色合いも周りに合わせて擬態されていたので、きちんと確認しないと気づくこともできないほど巧妙に隠されていたという。
「これをピンチとみるか、チャンスとみるか……」
兵力が集まっているうちに攻撃を仕掛けられれば、山賊たちを一網打尽にできるかもしれない。しかしこちらの兵力は非常に少ない。個々の力では勝っていると仮定しても、正面からぶつかれば過酷な戦いになることは避けられないだろう。
「ここは山賊が村を襲いにいった隙をついて攻め入るのが得策なんじゃないか?」
リクトが提案する。
「さすがに砦にいる全員で村を攻めるとは考えづらいし、戦力が分散したところを各個撃破すればいけると思うが……」
「いや、それだといたずらに村を危険にさらしてしまう。結果的に山賊問題を解決できたとしても、それでは目的の達成のために犠牲を厭わないという評価になってしまう。今後君主になるためには、そのような考えは捨てなければならない」
「だが、どうする? 俺たちの戦力は王から借り受けた小部隊を併せてもせいぜい50くらいで、向こうの戦力がわかっている範囲で200。増援を多く見積もって100としたら計300を相手にしなきゃならないんだぞ。並大抵の戦い方じゃ全滅になるだけだぜ」
シュウが現状の戦力を示しながら問いかける。
「……そうだね」
「直属騎士の二人の力を借りることはできないのよね?」
「別に俺たちが力を貸してもいいが、ラグナ様の評価が相当落ちるのは間違いないな。王としても山賊問題を解決したいと思っているから、ラグナ様が失敗したら最終的には俺たちが出ることもあるだろうが、少なくとも俺たちが力を貸す事態になった時点で試験は失格と考えてもいいだろう」
カムイが厳しい現実を突きつける。
「その通りだ。今回の山賊問題はリント王が僕の資質を確かめるために与えた試練なのに、直属騎士の二人に何とかしてもらいました、では評価はされないだろう」
「とはいえ、どうするか……」
「……僕に少し時間をください。今の僕では確実に成功する策を立てられるとは思えませんが、僕なりに成功する策を立ててみせます」
「……ま、この小部隊の指揮官はラグナ様なんだし、あなたが決めた作戦に従うわよ」
「そうだな。俺たちは作戦が成功するように従うだけだ」
リコ、リクトが同意した。
二人はラグナを信じて全てを託したようだ。
「リクト、リコ、ありがとう。とりあえず一晩考えますので、明日またここに集まってください。今日のところは解散とします」
ラグナの号令で、今回は解散となった。
その夜、ラグナは集めた情報たちを眺めながら作戦を考えていた。
(約6倍差のある戦力を、どうにかして崩す方法はないものか……)
ラグナはこれまで自身が学んできた兵法を頭の中で思い出していた。
(野戦を仕掛けて包囲攻め……流石に兵の数に差があってやるのは困難か。では兵糧攻めは……悪くはないが時間がかかるため、期限までに終わらせられるかわからないし、そもそも敵側の物資がどれほどあるのかも不明だ)
頭をひねらせていたが、あることを思い出した。
(待てよ、確か山賊たちは4日後に物資補給のために村を襲う計画を立てているんだったな。ということは現状の物資はそこまで多くないということだ。そこに更に物資を減らすようなことをすれば、敵は動揺して統率が取れなくなるかもしれない)
ロクスも今の山賊たちは首領のカナメの指導力で保たれているところがある、と言っていた。
つまり、敵は不測の事態が起こるとパニックを引き起こし、カナメの統率力も発揮しなくなって瓦解するかもしれない、ということだ。
(現状の僕たちが勝つには、向こう側に何かしらのアクシデントが起きないと厳しいだろう。それを引き起こすための策を考えるんだ……)
しばらく思考を巡らせ、ある作戦を思いついた。
(そうだ、これならどうだろうか。でもこの作戦を実現するには解決しなければならない問題がたくさんある……)
他に良い作戦がないものか考えてみたが、自分の閃きを信じてみたいという気持ちもあり、この作戦を決行することにした。
「よし、早速準備に取り掛かろう」
ラグナは片付けるべき問題点をまとめ上げ、一つずつ解決へと踏み出し始めた。
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