第32話 種
「ラグナ様、こちらにおられましたか」
街中で情報収集をしていたラグナたちに、イズナが声をかける。
「イズナ将軍、どうされましたか?」
「実は、ロクスがあなたとお話がしたいと言っているのです」
「ロクスが?」
商業共和国で山賊として活動していたロクスを、ラグナたちはこのラゼルド王国に連れてきた。
その後、国側に身柄を引き渡した後は国境沿いに生息する山賊たちについての情報を聞きこんでいたとラグナはリーンから聞かされていた。
「ロクスは何故僕と話がしたいなどと……」
「それはわかりません。中々情報を吐き出さないと思いきや突如ラグナ様を指名したのです」
「……」
「陛下からもラグナ様がロクスと会話する許可を得ています。後はラグナ様次第ですが……」
「わかった、ロクスが話したいというならば僕が話そう」
ロクスにどのような思惑があるのかはわからないが、自分が対応することで何か進展があるのだとしたら、協力を拒む意味もない。
ラグナは思考を巡らせ、この結論に至った。
「じゃあ私が聞き込みを続けておくよ。ラグナ様はそっちで新しい情報を得ておいて」
「わかった、すまないリコ」
リコと別れ、ラグナはイズナとロクスの元へ向かった。
ロクスが収監されている牢獄に着いたラグナは、早速ロクスと会話することにした。
「僕に何か用か、ロクス」
手錠で拘束されているロクスに話しかける。
「おー、来たか。ラゼルドの騎士とは話したくないが、お前となら話してもいい、ってことだ」
「……なるほど、君のラゼルド王国に対する憎悪はそれほど深いということか」
「その点、お前は俺の命を救ってくれた。その礼と言うわけじゃないが、お前になら情報提供をしてやってもいい」
「それはありがたいが、僕の口からラゼルド王国に伝えたら、結局は変わらないんじゃないか?」
「……別に、俺から与えられた情報をどう扱おうが、お前の勝手だ」
なぜこのような回りくどいことをするのか、イマイチ理解できないラグナ。
「わかった、なら早速情報とやらを聞かせてくれ」
「おいイズナ、予め言っておいた地図は用意しておいたよな?」
「ええ、ここにあるわ」
「よし。まずはアジトの場所を教えてやる」
ロクスは自分の指の皮膚を噛み切り、零れ出た血で地図の一か所を丸つけた。
「ここだ。ここが俺たちのアジトだ」
「ここが……」
しかし、その印を見たイズナが反論した。
「待ちなさい。我々が既に得ている山賊のアジトと場所が違うようだけど」
「ああ、今俺が示したのは別館のようなものだ。お前たちが知っているのは本館だろう。基本的に本館に戦力は集まっているはずだが、この別館には今まで手に入れた金銀財宝などが保管されているんだ」
「別館……」
「そしてこの別館の場所を知っているのはごく少数だ。俺と、後は首領のカナメくらいだろうな」
「カナメ?」
「元ラゼルドの騎士です。かつては軍団長まで登り詰めた男ですが、とある一件で軍をやめ、山賊に堕ちたのです」
「軍団長……、相当に優秀な男だったのですね」
「ああ。あいつは軍を止めて山賊になった後でもその経験を活かして山賊たちをまとめ上げ、権力と財力を築き上げた。あいつがいなけりゃ、俺たちはまとまることすらできないだろうよ」
要するに、ロクスたち山賊団にとってはカナメの存在が全てだということだろう。
「ということは、そのカナメを倒せば山賊団を抑えることができるのか?」
「まあそうだな。それにはこの別館にある財宝たちを没収するのがいい。そうすれば奴らは軍資金を失って武器どころか食糧すらまともに入手することができなくなるからな」
「兵糧攻めができるというわけか。これは使えるかもしれないな……」
「しかしラグナ様、この男が本当のことを言っているかどうかはまだ不明です」
「俺の言うことが信用できないなら偵察部隊を出せばいいだろう。その目で確認すれば嫌でも理解するだろうさ」
「そうですね、イズナ将軍お願いできますか?」
「ただちに」
イズナは部下に偵察の指令を出す。
「ちなみにカナメや一部の元騎士たち以外は大した練度もない有象無象の集まりだ。奴らに不安要素を聞かせれば瞬く間に統率が取れなくなって瓦解するはずだ。そのきっかけに、この別館の財宝たちは使えるんじゃないか?」
「ああ、大いに助けになると思う。ロクスありがとう」
「……はっ、お前に礼を言われるなんてな」
真っすぐに礼を述べるラグナに、驚きながらも苦笑するロクス。
「ついでにお前にだけ教えてやる、耳を貸せ」
ロクスは小声で呟いた。
ラグナは言われた通りに耳を貸す。
「この国に蒔かれた、"種"に気をつけな」
「……種?」
「その種が芽を出せば、この国は一瞬で崩壊するかもしれない。くれぐれも気を付けることだな……」
そこまで言ってロクスは口を閉ざした。
「ラグナ様、今奴と何をしていたのですか?」
「……いや、大したことじゃない。気にしないでください」
ともかく貴重な情報を得ることができた。
後はこれを元にどのような作戦を練るか、だ。
それはラグナの腕次第だろう。
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