第31話 もう一人の直属騎士

 カムイに連れられてやってきたのは、城下町にある酒場だった。


「ここに二人がいるのか?」

「ああ。じゃあ中に入ろう」


 カムイは扉を開けると、中を見渡してとある人物を見つけた。


「お、いたな」


 カムイはその人物の元へと駆け寄った。


「よお、やっぱりここにいたか」

「ん? お前カムイか」


 その男はカムイの声に反応して振り向いた。

 非常に大柄な男だ。身長は2m以上あるのではないかというほど高く、体つきも屈強に見える。正に筋骨隆々という言葉が似合う男といっても過言ではない。


「あなたはジハード殿!」

「ジハード、仕事だぞ」

「ん、じゃあこの方がラグナ王子か」


 ジハードと呼ばれた男は立ち上がり、ラグナに向き合った。


「ラグナ王子、リント王から既に話は伺っています。あなたの力になりましょうぞ」

「ありがとうございます、ジハード殿」

「この人は?」


 リクトがリコに耳打ちをする。


「この人はジハード。カムイと同じく直属騎士の一人よ。世界最強の斧使いとして名が知られているわ」

「世界最強の斧使い……」


 同じ斧を使うリクトにとって、その存在は大きかった。


「お待たせしました、団長……ってラグナ様!?」


 と、そこにシュウとアカネもやってきた。


「シュウ、アカネ!」

「ラグナ様、それにリクトとミソラも。何で二人が団長と一緒にいるんだ?」

「団長?」

「ええ。ジハードさんが作った傭兵団のことよ。私とシュウは昔お世話になっていたことがあったから、今でも団長って呼んでるの」


 どうやら、ジハードとシュウ・アカネは長い付き合いがあるようだ。


「それで、この組み合わせは一体何なんだ?」

「ああ、それは……」


 ラグナはこれまでにあった出来事を説明した。


「なるほどね。それで私たちの力を借りたいと」

「ああ。お願いできないだろうか」

「団長も力を貸すって言ったんだろ? だったら俺たちも手伝わないわけにはいかないよな」

「まあ、団長がいなくても力は貸すつもりだけど」


 シュウとアカネは喜んで力を貸してくれるようだ。


「ありがとう、二人とも」

「どういたしまして。それより……」


 アカネはリコの方へと視線を向けた。


「彼女の紹介をしてもらってもいいかしら?」

「ああ、彼女はリコ。リクトの幼馴染で、僕がリングルートの街を脱出するときに手伝ってくれたんだ。彼女も傭兵で実力はピカイチだよ」

「初めまして、リコです。よろしく」


 リコは手を差し出した。


「よろしく。私はアカネで、こっちがシュウ」

「よろしくな」

「ええ。二人の名前は知ってるわ。風神・雷神って呼ばれてるんでしょう」

「……その名前は出来ればやめてほしいんだよね」


 アカネは恥ずかしそうに答えた。


「二人とも、そんな名前で呼ばれてたのか」

「何でそんな呼び名が?」

「何でも、アカネが戦っている姿が風のように素早くて、シュウの攻撃が雷に打たれたように鋭いから、らしいけど」

「ああ、言われてみれば」


 リクトとラグナは納得した、という表情を浮かべる。


「まあその話は置いといて、とりあえずこれで面子は8人そろったな」

「というか、この人数で山賊の砦に乗りこむのか?」

「ちなみに、相手はどのくらいの数なんだ」

「それは今イズナ将軍に調べてもらっている。二週間以内に決着をつけなくてはならないから、三日以内に情報を集めて作戦を決めて、その後すぐにでも砦まで乗り込みたい」

「まあ、とりあえず今は準備をしておけってことか」

「そうだね」


 ラグナは頷く。


「ならイズナ将軍の情報が届き次第、また連絡をくれ。俺たちはその間酒場にいるから」

「了解」

「じゃあ早速俺らも準備するか」

「そうね」


 そういってシュウとアカネは酒場から飛び出した。


「ならリクト。俺たちは武器屋にでも行こうか」

「ああ。斧を弁償してもらわないとな」

「私も行くよー!」


 リクトとミソラとカムイは武器屋へと向かった。


「ジハード殿はどうするのですか?」

「私はもうしばらくここにいます。他の用事もありますから」

「わかりました」

「じゃあ私たちも出ようか。街で山賊の情報を少しでも集めようよ」

「そうだね」


 リコはラグナの手を引いて酒場を抜け出した。

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