第29話 直属騎士

「あ、そうだ。イズナ将軍にはやってもらいたいことがあります」

「何でしょう」

「王都から山賊の砦までの道のりを記した地図を入手してほしいのです。それに加えて山賊の砦内の見取り図もあると尚良いです」

「かしこまりました。早急に準備致します」


 イズナは返事をした後、直ちに準備に取り掛かった。


「……さて、僕も準備しよう」




 数十分後、旅支度をしている最中のラグナの部屋の扉を叩く音が聞こえた。


「はい」


 ラグナが扉を開けると、そこにはリーンの姿があった。


「姉上、いかがなされましたか」

「あなたに伝言があります」

「伝言?」

「ええ。あの後王からお伺いしたのですが、この国にはヴィクリード帝国の直属騎士が来ているようです」

「直属騎士が!?」


 ヴィクリード帝国には階級が大きく分けて7つある。最下層となる一般兵、その上の階級である師団長、さらに上の階級である軍団長、そして、なれるのはごく一部であると言われている聖騎士、その聖騎士を束ね、皇帝に次ぐ権限を持つ聖騎士長、最上級位として国を統べる皇帝となっている。


 それとは別に、皇帝によって編成された直属の騎士団、通称【直属騎士】が存在する。この騎士団は少数によって編成されており、その基準は高い戦闘力となっている。他の兵士や隊長格よりも圧倒的に高い戦闘力を持ったものが選ばれるようになっており、その力は小国程度ならたった一人で滅亡させることができるほどと噂されている。直属騎士は他の階級と違い、皇帝の命令しか受けないことになっている。ただし現在は皇帝が隠居の身となっているため、実質国を統べている聖騎士長のフリードが、主に彼らを指揮している。


 原則、直属騎士には位が存在していない。よって一般兵と同格になることもあれば聖騎士と同格になることもあるのだが、多くの場合は直属騎士は聖騎士と同格として扱われることが多く、ヴィクリード帝国の兵士たちもそれについては何の不満もない。人々の認識では、軍団長よりも上の位については、主に国の政治に対して意見を出す役割である聖騎士と、戦いのエキスパートとして戦場に赴く直属騎士、といった具合になっている。


 ちなみに、現在の直属騎士は男女5名ずつの合計10名によって構成されている。彼らは聖騎士長フリードの命を受けて世界中の大陸で暗躍しているのだが、そのうちの二人がこのラゼルド王国に訪れているという。


 というのも、リント王がヴィクリード帝国に援助を依頼した際に、偶々ラゼルド王国近辺にいた二人の直属騎士を貸し出す、という話になっていたのだ。その二人にはヴィクリード帝国からラゼルド王国に力を貸すようにという連絡がいっている。


「はい。王は直属騎士にあなたの監視をしてもらうとおっしゃっていました。彼らの前でどれほどの指揮能力を発揮するのか、直属騎士に見定めてもらうようです」

「直属騎士が……」

「はい。その直属騎士の名前は……」




「……ようやく城下町についた」

「すごい、これが王都と城下町なんですね」


 その頃、リクトとミソラは初めてみる城下町に感嘆の声を上げていた。二人にとっては貴重な経験となったことだろう。


「二人とも、城下町を見るのは初めてか」

「はい。リングルートの街みたいに賑わっているんですね。お城にも行ってみたいなあ」

「気持ちはわかるけど、俺たち一般平民じゃ入れないだろ」

「特に今は厳戒態勢になっているし、素性もわからない人間を入れることはできないだろうな」


 そういわれてリクトたちは改めて城下町を見渡してみると、一見賑わっているように見えるが、どこか緊張の糸が張り巡らされているようにも見える。商業共和国が制圧されていよいよラゼルド王国も戦争が始まるかもしれないという事実がせまってきているのだから無理もない。


「もう開戦間近とも言われているから、国を出るなら早い方がいいぞ」

「どうするの、お兄ちゃん」

「……」


 リクトは今後の自分たちについて考えた。

 リクトたちの故郷は既に山賊によって滅ぼされている。加えて現在の住処であるリングルートには帰ることができない。さらに商業共和国はオラシオン、シルフ連合軍によって制圧されており、ラゼルド王国は開戦間近となっている。となるとリクトたちの行先は残りの東方大陸の国であるヴィクリード帝国ということになる。ひたすら旅を続けるか、そこで新たに住処を見つけるかの選択となるだろう。


 そしてリクトは、ラグナのことについても考えていた。せっかく亡命としてラゼルド王国までやってきたのに、ここでも戦争が起きるという状況になってしまった。これでは亡命した意味がなくなってしまうとリクトは考えていたが、だからといってリクトが出来ることなど現状では何もなかった。

 心配するだけ無駄か、と思っていたリクトの耳に、懐かしい声が聞こえてきた。


「あ、見つけた!」

「え?」


 リクトが振り向くと、そこにはリコとラグナの姿があった。

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