第28話 王都にて

 一方、リクトはカムイと刀の鍛錬を行っていた。


「だんだん刀の扱いには慣れてきたようだな」

「ああ。斧とは違った使い方で新鮮だ」


 リクトは刀を振りながら答える。


「じゃあこれからは刀を中心で使っていくか?」

「というかお前に斧の柄を切られたせいで、今は刀を使わざるを得ない状況になっているんだが」


 リクトは使い物にならなくなった斧を指差した。


「それは済まなかったって。町に戻ったら弁償するよ。それにその刀もやるって」

「まあ、それは感謝してるよ」


 リクトたち三人は、遺跡で数日過ごした後、ラゼルド王国の王都目指して歩を進めていた。

 カムイがリクトの斧を弁償するため、武器屋がある城下町を目指しているのだ。


「カムイさん、あとどれくらいで着くんですか?」


 ミソラが王都への道のりについて尋ねる。


「早ければ後半日で着くぞ」

「もうそんな近いんですね」

「とりあえず、王都についたらまずはリクトに武器を買ってやらなきゃな」


 カムイがリクトを見て言った。


「それより、カムイはその後どうするんだ?」

「特には決まってないな」


 淡々と答える。


「仕事とかしてないんですか?」

「一応してるけど、現在は休暇中なんだよ」

「へー。傭兵なんじゃないのか」


 休暇中ということは、どこかの国に仕えている騎士なのだろうか。


「ま、そんなもんだよ」

「でも、カムイさん相当強いですよね。一体どうやってそんな技術を身につけたんですか」

「修行すればリクトでもミソラでも強くなれるさ」


 カムイはリクトとミソラの怒涛の質問に答える。


「というか、リクトは装備品一式揃えないのか? ラゼルド王国は生糸の産地で有名だし、ラゼルド王国の生糸で作られた衣服は丈夫で伸縮性もあって利便性が高いぞ」

「そうなのか。じゃあ王都についたら見てみようかな」

「ついでにミソラも買うか? それぐらいなら出してやるよ」

「いいんですか? でも流石にカムイさんに悪い気が……」

「心配すんなよ。金には大分余裕があるしな。それにリクトにだけ斧を買ってやるというのも不公平だし」

「ほんと、お前って何者なんだ」

「……まあ時期にわかるさ」


 こうしてカムイとリクトたちは仲良く王都を目指していた。




 その頃のラゼルド王城では、ヴィクリード帝国へと出向いていたリント王が帰ってきていた。

 王の帰国の報告を受け、ラグナはリント王に挨拶をするためにリコを引き連れて王の間で待ち受けていた。


「リーン、ただいま帰ったよ」

「お帰りなさいませ、リント様」

「リント様、お久しぶりです」


 ラグナは久方ぶりに会うリントに挨拶をする。


「これはラグナ王子。君も大変な思いをしたようだね」

「はい。しかし、こうして無事に生き延びることができました」

「お初にお目にかかります。私はリコと申します」


 リコも丁寧に挨拶をする。


「君は?」

「彼女はリコ。私の友人で逃亡の旅を助けてくれた者です」


 ラグナはシルフ王国からの逃亡からラゼルド王国に辿り着くまでの出来事をリントに話した。


「なるほど。ずいぶんと苦労をしてきたんだね」

「はい。しかし、そのおかげで様々な経験をすることができました。その経験は私の人生の糧となることでしょう」

「君は僕にとっても義弟なんだ。困ったことがあったらいつでも言ってくれ」

「ありがとうございます」


 ラグナは感謝を述べる。そして一呼吸置いた後、


「ではさっそくお願いがあるのですが……」


 と切り出した。

 ラグナは以前リーンに話した内容を伝えた。


「……なるほどね。シルフ王国を取り戻すために軍を貸してほしいと」

「現在のラゼルド王国が切羽詰まっている状況なのは理解しています。しかし、私にはもう他に頼れる人がいないのです」


 ラグナは深々と頭を下げた。その必死さはリントに伝わっているのだろうか。


「……とりあえず顔を上げてくれ」

「はい」

「私の意見は、基本的にはリーンと同じだ。現在ラゼルド王国は軍を貸すだけの余裕がないということと、仮に貸す余裕があったとしても指揮経験のない君に軍を預けるのは不安がある」

「……重々承知しています」

「とはいえ、私としては君に国を取り戻してほしいという気持ちもあるんだ。君が国を取り戻して王として即位すれば、シルフ王国と有効な関係が結べると思うが」

「それはもちろんです」

「つまり、他国の王としては軍を貸すことは難しいが、君の義兄としては軍を貸したいという気持ちもあるんだ。そこで一つ提案がある」


 リントは地図を取り出し、ラグナに見せた。


「最近、国境沿いに巣食う山賊団による被害が多発している。彼らの鎮圧に向かいたいのだが、現在軍は二つに分けていて、一つの軍はツヴァイ王国との戦いのために北方へと遠征していて、もう一つの軍は王都や城下町などを守るためのものとして残してある。今後は商業共和国からの攻撃も予想されるから、守備を切り崩して山賊の対処に軍を割くことができない状況になっているんだ。そこでラグナ王子にこの山賊の対処を依頼したい」

「僕がですか?」

「ああ。一軍を貸すことはできないが、小隊程度なら辛うじて貸すことは出来るだろう。君はそれを率いて山賊の対処をしてもらいたいんだ。もしこれが成功すれば君には最低限の指揮能力はあるとみなして軍を貸すこともやぶさかではない」

「なるほど……」

「……」


 ラグナは少しの間考え込む。リコも先ほどのリントの言葉を聞いて何かを考えているようだ。


「どうだい、引き受けてくれるだろうか」

「わかりました、お引き受けしましょう」


 千載一遇とも言うべきチャンスを、ラグナは引き受けることにした。


「ありがとう、感謝する」

「早速ですが、この山賊の詳細を聞かせてください」


 おおよその想像はついているが、正確な情報を知るために尋ねた。


「彼らは元ラゼルド王国の騎士や兵士たちだ。ラゼルド王国に対して不満を積もらせていた者たちが一致団結し、山賊となってラゼルド王国や商業共和国の村や町を無差別に襲っている。しかし最近では同じくラゼルド王国に対して反感を持っている人々や、ラゼルドの国境沿いに巣食う賊どもも引き入れ始めたようで、戦力は年々増えてきている」

「なるほど。しかし何故そのようなことに? 彼らの不満とは何なのでしょうか」

「……それは君が山賊の対処を終えた際に話そう」

「リント王、実は大体の予想はついているのです。先日あった出来事なのですが、私はラゼルド王国に入国する前にとある山賊と戦闘しました。その山賊は元ラゼルド王国の騎士と言っていました。名はロクス、現在王国の牢にいるはずです」

「……そうか。申し訳ないが、その件についてはまた後程話したいと思う。そして山賊の対処には2週間という期限を設けるから、それまでに決着をつけてくれ」

「2週間ですか、わかりました」

「では頼んだよ。山賊のアジトの詳しい場所などはイズナ将軍に聞いてくれ。それとリーン、後で私の部屋にきてくれないか」

「はい」


 それだけ言うと、リントは王の間から退出してしまった。


「チャンスを貰えてよかったわね、ラグナ様」

「ああ。しかし……」


 ラグナはリーンをちらりと見る。ラグナは先ほどのリントとのやり取りでリーンが口を挟まなかったことを疑問に思っていた。

 リーンはラグナのことを溺愛している。たった一人の家族になってしまったのだから無理はない。そんなラグナに対し、軍を借りてシルフ王国を取り戻すという考えを彼女は以前否定した。そのときと同じ内容をリントに話した時、今回も口を挟んで否定するかと思ったのだが、意外にも彼女は言葉一つ発することはなかった。


「姉上、あなたは以前僕の意思を否定していましたが、了承してくれたのですか?」

「そんなわけないでしょう。今も山賊討伐に行かせたくないと思っています。しかし私がどんなに否定の言葉を述べたところで、あなたの意思が変わることはない。王も指揮能力さえ証明できれば軍を貸すことに抵抗はないようですし、私が今更口を挟んでも事態を面倒にするだけです。ならばあなたが無事山賊退治や国の奪還を成功できるようにと祈ることにする。そう考えただけのことです」

「姉上……。ありがとうございます」

「必ず、無事に帰ってきてください。それが条件です」

「わかっています。姉上のためにも、リント王のためにも私は決して期待を裏切ったりなどはしません」


 ラグナはリーンに誓った。


「よし、じゃあまずは戦力を補強したいな。リント王から借り受けた軍だけでは今の僕では山賊の対処ができないかもしれない」

「でも、どうやって用意するの?」

「リクトたちを探そう。彼らなら、僕の事情を知ったらきっと力を貸してくれるに違いない。期限は2週間しかないから、少なくとも1週間以内に見つけなければならない。リコ、イズナ将軍、協力してくれますか?」

「協力するのはいいんだけどさ、リクトたちがこの国にいるとは限らないんじゃない?」

「……まあ、そのときはリント王から借り受けた小部隊のみで戦うようにしよう。ではまずは街を探しに行きます」


 ラグナたちは手分けしてリクトたちを探し始めることにした。

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