第25話 修行

 日も暮れてきたので、リクトたちは夕食の準備に取り掛かった。


「じゃあ俺は食料をとってくるわ。火の準備は任せたぞ」


 そう言ってカムイは森へと入っていった。


「どうやって食料を持ってくるんだろう、カムイさん」

「さあ。とりあえず、俺たちは火の準備をやろう」


 リクトとミソラが火を起こし終えると、タイミングよくカムイも帰ってきた。数匹の獣を引きずりながら。


「ほら、オオカミを狩ってきたぞ」

「オオカミ!? 私食べたことないよ」


 予想外の食材に動揺するミソラ。


「……うまいのか、それ」

「まあ食ってみればわかるって」


 カムイは手持ちのナイフできれいに毛皮や臓器を取り出し、肉を火で炙る。


「しかし、よくオオカミなんて連れてこれたな。すばしっこくて攻撃も当たらなそうだし、そもそも戦う前に逃げられそうだけど」

「fight or flightってやつだよ。動物は恐怖に反応して戦うか逃げるかを選択するんだ。それでこのオオカミたちは戦うことを選んだってわけ。ま、それが間違いだったわけだが」

「なるほどな」

「そういうお前も、このfight or flightに多少は当てはまっているんだぜ」

「え?」


 カムイの言葉にリクトは反応した。


「俺と手合わせしたときに、命をとられてもおかしくない状況だったにもかかわらず、お前は逃げることじゃなく戦うことを選んだだろ。普通はあそこで降参するはずだけどな」

「ああ、あれか」

「なあ、何でお前はあんな戦い方をするんだ?」

「……何故かはわからないけど、死を間近に感じると集中力が増すんだよ。これまでの戦いでもそうだった。死にそうになると周りの動きがスローモーションになったり、やれば何でもできるという精神状態になって実際に出来るようになったりした。何度も命を危険にさらしたけど、その度に生きて勝っている」

「……」


 リクトの話を真剣に聞くカムイ。


「でも、そのおかげで俺は大分強くなった。この感覚が、ここまで俺を強くしてくれたんだ」

「……なあリクト。お前は強くなってどうするんだ?」

「え?」

「強くなって、その先の目標は何かあるのか?」

「……目標は特にないかな。単純に強くなるのが楽しいって感じだし。それで戦いに勝てたら嬉しいってだけだな」


 リクトは自分の心中を素直に語る。


「なるほどな、今は目標もなく戦っているというわけか。まあ今はそれでもいいかもな。その時期が一番楽しいと思うぞ」

「カムイにもその時期があったのか?」

「もちろん。まあ懐かしい思い出だな……」

「懐かしいって、お前俺とあまり変わらない歳なんじゃないのか」

「さあな」


 はぐらかすカムイ。


「それより、飯食ったらもう寝ようぜ。俺は朝早くから起きてたから眠くて仕方ないんだ」

「寝るって言ったって、見張りとかはどうするんだ。誰か入って来たり、野生動物が襲ってくることだってあるだろう」

「大丈夫だよ。この遺跡は神聖なものだからそういう類のものは受け付けないんだ。だから安心して眠れるってわけだ。じゃあそういうわけでおやすみ」


 そう言ってカムイは眠りについた。


「……不思議な人だね、カムイさんって」

「ああ。今まで出会ったことのない人間だ」


 リクトたちも眠りにつくことにした。




 翌日、リクトが目を覚ますと既にカムイは朝食の準備をしていた。


「お、起きたか」

「カムイ、もう起きていたのか。早いな」

「昔っから早寝早起きでね。もう食事もできているぞ」

「起きて早々は食べられないよ」

「まあそうだな。それよりお前に話があるんだが」

「話?」


 話の内容を尋ねる。


「お前、俺の元で修行してみないか?」

「え?」


 突然の提案に驚くリクト。


「昨日手合わせしてみてお前には筋があるって思ったんだ。けど我流のままじゃ伸びが悪い。だから俺が鍛えようと思ってな」

「そりゃこっちからしたらありがたいけど、お前のメリットは何なんだ? 流石に何もなしでそんなことをしてくれるわけじゃないだろう」

「今は、な。お前が俺の期待通りに強くなったら、一緒にやってもらいたいことがあるんだ」

「やってもらいたいこと?」

「今はまだいいよ。その時が来たらまた話したいと思う。それよりどうだ、修行するか?」


 リクトは少し考える。


「俺が約束を守るとは限らないぞ。ここで了承したとして、いざその時が来たら断ることだって普通にあり得る。それでもいいのか?」

「俺はそうは思えないけどな。お前は多分約束通り俺と一緒に来ると思う。お前はそういう人間だ」

「……たった一日で何でそんなに俺のことを知った気になっているんだ」


 そのカムイの自信はどこからきているのかわからなかったが、リクトからしてもありがたい話であることは事実だ。


「……わかった、ぜひお願いしたい」

「よし、じゃあ早速だがお前に提案があるんだ」


 カムイは刀を抜き出し、リクトに差し出す。


「お前、刀を使ってみる気はないか?」

「え、刀?」


 唐突に言われたことに驚くリクト。


「斧で戦うのもいいけど、刀で戦うのもまた面白さがあるぜ、斧とは役割も違うから戦い方も変わってくるし、いい勉強になると思うが」

「でも、俺はまだ満足に斧も扱えないしなあ……」

「今のご時世、武器が一つしか使えないってのは少し辛いぜ。斧が壊れて他にストックがなかったら丸腰になってしまうだろ。そんな時のためにサブで使える武器は用意した方が良い」


 以前共に旅をしていたシュウも剣の他に斧の扱いにも長けていた。それを考えると、確かにカムイの言っていることにも納得ができる。


「……まあ、確かに一理あるか」

「そうだろ。じゃあ早速食後にやるか」

「ああ。よろしくな」

「じゃあ飯食おうぜ。ミソラも丁度起きたようだし」


 そう言われて目を向けると、ミソラが起き上がってきた。


「おはよう二人とも。もうご飯できてるの?」

「ああ。起きたばかりだけど食べるか?」

「うーん、まだいいかな」

「そっか、俺たちは先にいただいておくよ」


リクトとカムイは先に食事を始めた。

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