第24話 手合わせと遺跡
(なんだか変なことになったな……)
そう心の中で思いながらも、リクトは斧を構えて対峙する。
「お兄ちゃんがんばれー!」
ミソラは無邪気に応援していた。
先手は譲るとのことなので、早速攻撃を仕掛けるためにカムイに近づく。リクトが接近する間も、カムイは全く動かずに佇んでいた。やる気があるのかと思ったリクトだが、お構いなしに斧を振り下ろした。手加減する気など一切なく、実戦のように殺意を持っての攻撃だ。
斧が振り下ろされる瞬間、何故かカムイは笑っていた。そして次の瞬間には、目の前にカムイは存在していなかった。
「えっ……!」
何が起こったのか理解できていないリクトは、どこに消えたのかを確認するために辺りを探そうとして首を動かそうとしたが、その瞬間には喉元に刀が突きつけられていた。カムイが後ろから回り込み、刀身を喉元に当てているのだ。
「っ……」
あまりの素早さと正確さに、身動き一つとることができない。
「お兄ちゃん!」
「一歩でも動いたら首切れちまうぞ。どうする?」
「……」
通常なら、この状況になってしまっては降参するしかない。だがリクトは通常ではなかった。
「賭けてみるか?」
「は?」
突然のリクトの言葉をカムイは理解できなかったが、その意味がすぐにわかった。
リクトは喉元に突き付けられた刀を顎で挟み、そのまま後ろに思い切り倒れた。
「なっ……」
予想外の行動に焦りを出すカムイ。そのままリクトの下敷きになってしまった。
倒れる最中に、カムイの刀がリクトの喉元に食い込む。そこから血が噴き出るが、リクトはまるで気にしていない。
倒れた後、リクトはすぐさまカムイの刀を掴み、力任せに剥ぎ取った。それを遠くに捨てると、カムイに馬乗りになってただちに斧を持ち直し、頭上目がけて振り下ろす。
「俺の勝ちだ」
勝負が決まったと思った瞬間、カムイは脇差を素早く抜き、リクトの手元めがけて高速の斬撃を繰り出す。さすがにリクトの攻撃を防ぐことが出来なかったので、斧の柄を切ってリクトの手から斧を離させたのだ。
「え……」
「はっ!」
カムイは馬乗りになっているリクトを強引におろし、体勢を整えなおした。
「……ったく、信じらんねえ奴だ。さすがに驚いたぞ」
「お前こそ、あの斬撃は何なんだよ」
「あれぐらいは別に大したことじゃねえよ。まあここら辺で止めとくか」
「……そうだな」
お互いに武器をしまった。
「お兄ちゃん、無茶しすぎだよ!」
そう言いながらミソラはリクトのもとに駆け寄り、首の手当を始める。
「ありがとう、ミソラ」
「まったくもう」
「中断して悪かったな。じゃあ改めて目的地までいこうか。それとその怪我大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
「そうか。ならいい」
無事を確認するとカムイは再び歩き出した。
リクトたちもその後についていく。
「引き分けかー。もう少しだったね」
「……ああ」
ミソラはそう言うが、リクトはもう少しなどとは思っていなかった。
先ほど見せたカムイの斬撃は一朝一夕で手に入る技術ではないことは一目でわかる。相当の時間をかけて練り上げた剣技なのだろう。カムイが力を加減していたのはわかっていた。
(……もっと強くならなきゃな)
改めて心の中で決心するのだった。
「ついたぜ。ここが遺跡だ」
カムイに案内された場所には、古くなって所々崩れ落ちている城があった。
「わあーすごい! ロマンがあるなぁ」
ミソラは城をみて目を輝かせている。
「これは城か?」
「ああ。昔ここには国があったんだ。だがある日、その国は滅びてしまった。土地に関してはラゼルド王国が統治権を得て現在は遺跡になっているが、あまり手入れはしていないみたいだな」
「……どうしてこの国は滅びてしまったんだ?」
「……さあな」
カムイはこれ以上語らなかった。
「お前、やけにこの遺跡に詳しいけど、学者か何かなのか?」
「学者が刀持ってるわけないだろう。……まあちょっとな」
カムイは言葉をはぐらかした。
「そうか」
「それより、お前たちはこれからどうするんだ?」
「いや、特に考えてなかったな。どうする、ミソラ」
「うーん、とりあえずもう日も暮れてきちゃったし、泊まれるところを探したいかなぁ」
「そうだな。どこか近くにないものか……」
「だったら、この遺跡に泊まったらどうだ?」
カムイが提案する。
「いや、流石にそれはダメだろう。そもそも国が管理している土地に無断で入っているのも問題なんだし」
「いいよいいよ、俺が許す」
「俺が許すって、どんな権限があるんだよお前に」
「大丈夫だって。何かあったら俺のせいにしていいし。一緒に泊まろうぜ」
そういってカムイは遠慮なく遺跡に入っていった。
「……大丈夫なの? お兄ちゃん」
「……わからん」
二人は困惑している。
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