第21話 入国
ロクスと戦闘をきっかけに、リクトの戦い方は大きく変わっていた。
今まではあくまでも基礎に則って攻撃をしていたものの、現在では命を危険にさらすような戦い方になっていた。しかも意図的に行っている。
今現在も、リクトたちはシルフ兵の追っ手たちと戦闘を繰り広げていた。
「また現れやがった!」
「数は10人くらいか。どうする……」
「俺に任せてくれ」
リクトは自ら前に出て、シルフ兵と相対する。
相手の出方を確認せず、斧も構えずに突進する。それを見たシルフ兵はすかさず上段から攻撃を仕掛けるが、リクトはその攻撃を装備している籠手で受け止め、そのまま刀身に沿って滑らせて相手の膝元に侵入し、足払いをかける。体勢を崩したシルフ兵を上から斧で叩きつけるように攻撃した。
(そう、これだ! この感覚、やはり実戦じゃないと味わえない)
心の中で興奮していたリクトの顔に笑みがこぼれる。
次の敵を始末するために、同じように敵に突っ込んだ。ラグナはシルフ兵と戦いながらも、そのリクトの様子を見ていた。
「……」
ラグナだけではなく、シュウやアカネ、そしてミソラまでもがリクトが変わったことを理解していた。非常に危険な戦い方ではあるが、実際にリクトはその戦い方に変えてから急激に実力を伸ばしていた。
「ふう、こんなものか」
数刻後、リクトたちはシルフ兵を退けていた。
「なあ、リクト。お前最近むやみに突っ込むような戦い方をしてるが、何でだ?」
「ああやって戦う方が集中できるんだよ。何というかさ、相手が俺の命をとろうとすると周りがスローモーションになるんだ。そして何といってもあの高揚感。あれは戦いじゃなきゃ味わえない」
そう語るリクトの目は輝いていた。しかし、その輝きは決して良いものではないとラグナは感じていた。
「だがリクト。あんな風に命を危険にさらすのは……」
「いや、命を危険にさらした方が戦いやすいんだ。普段以上の実力が発揮できるんだよ」
「そうは言ってもな。あまり無茶はするなよ」
「わかってるさ」
シュウの心配を軽く流すリクト。
「ところでさ、最近シルフ兵との遭遇が多い気がするんだが」
「多分、ラゼルド王国との国境が近いからじゃないかしら」
現在、リクトたちはラゼルド王国への関所付近まで来ていた。ここまで来ればラゼルド王国入国まで後少しだ。
「シルフ兵にとっちゃ、ラグナ様がラゼルド王国に行かれると面倒なことになるからな。入国までにどうしても捕まえておきたいんだろう。俺たちがラゼルド王国に入国するにはこの先にある関所を通らなければならない。だから関所付近で待ち構えていれば、ラグナ様に遭遇できる可能性が高くなるというわけだ」
「何でラゼルド王国に入国されると面倒になるんだ? シルフ兵もラゼルド王国に入ってくれば済むことじゃないのか」
「それだと、最悪戦争になりかねないからな。商業共和国は軍隊を持たず、町の警備は自警団が行っているから容易く制圧できたけど、ラゼルド王国はそうはいかない。しっかりとした軍隊を持っているし、隣国であるヴィクリード帝国とは親交も深い。同盟を結んでいるわけじゃないが、オラシオン帝国のバックがある現在のシルフ王国と戦争になれば、ヴィクリード帝国が力を貸す可能性は十分考えられるからな」
「なるほど」
ようやく合点がいった。
「だから、もうすぐ国境を超えるとはいえ、俺たちは戦闘を避けられないだろうな。逆に言えば、国境さえ超えちまえばもう追われることもないだろう」
「なら、急がなければ。もう距離は近いんだし、明日の内にはたどり着いておきたい。それにいつまでもこいつを抱えながら旅するのも嫌だし」
リクトは拘束されているロクスを見ながら言った。
「それはこっちのセリフだ。いつでも逃がしていいんだぞ」
「そのうち地獄に逃がしてやるよ」
「言ってろ、餓鬼が」
長い旅も、ようやく終わりを迎えようとしていた。ラグナはシルフ王国から、リクトはリングルートの街からの旅だ。休んでいる時間すら惜しい。リクトたちは一刻も早く辿り着くために歩を進めていた。
そして翌日、ようやく関所に辿り着いた。
ここを通れば、その先はラゼルド王国。王都までは3日ほど歩けば辿り着くので、この旅も後3日ほどで終わることになる。
「何とか、怪我もなく辿り着けたわね」
「ああ。長い旅だった」
「じゃあ通ろう。ラグナは変装した方がいいんじゃないか?」
「いや、その必要はない」
ラグナは役人の元へ近づき、話しかけた。
「すみません。これを王都にいるリーン王妃に届けてほしいのですが……」
「これをですか」
「はい。ラグナから、と言ってくださればわかると思います」
そう言ってラグナは懐からペンダントを取り出し、役人に渡した。
「よろしくお願いします。私たちはここから一番近い宿に泊まる予定です。連絡がありましたらそちらに寄越してください」
「確かに受け取りました。返答まで1週間ほど時間を頂くことになります」
「構いません」
ラグナは軽く礼をしてリクトたちの元に戻ってきた。
「何をしたんだ?」
「このまま王都に行っても門前払いを食らう可能性があるからね。僕がラゼルド王国に入国したことを知らせるために、僕と姉上にしかわからないものを届けてもらうように頼んだんだ」
「なるほどな」
「それで、ここから一番近い宿で連絡を待つことになったんだけど、ここからならどこが近いかな」
「それなら、数刻歩いたところにある宿が一番だな。今日は疲れたし、さっさと行こうぜ」
「そうね」
こうしてラグナたちは無事ラゼルド王国に入国することができたのだった。
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