第20話 新たな目標

「……さて、もう話すことはない。さっさと殺したらどうだ」


 ロクスは挑発するかのように言葉を放つ。


「言われなくてもそうしてやるよ」


 山賊という存在自体が嫌悪の対象であるリクトは、迷いなく手に持った斧を振ろうとした。


「待ってくれ」


 そのリクトをラグナが静止する。


「まだ何かあるのか?」

「この男を捕縛して、ラゼルド王国へ連れて行くことはできないか?」

「何だって?」


 突然のラグナの発言に、ラグナ以外の全員が驚愕する。


「彼はまだラゼルド王国との確執がある。殺すのはそれを晴らしてからでも遅くはないんじゃないか」

「ラグナ、そこまでしてやる義理がどこにある? そもそもこいつが言っていることが本当かどうかなんで誰にもわからないんだ。俺はその場にいなかったからわからないけど、ラゼルド王国の騎士だっていう話も戦闘中にラグナに隙を作るためのものじゃないのか」

「それはありえないよ」


 ラグナははっきりと答える。


「何故?」

「ロクスはまだ、僕とラゼルド王国に繋がりがあることを知らないからだ。もし僕に隙を作るのが彼の作戦だとしたら、僕とラゼルド王国との繋がりを知っていなければおかしい。だが彼は知らないはずだ、そうだろう?」


 ロクスに尋ねる。


「……まさかお前、ラゼルドの王族なのか?」

「いや、違う。少し知り合いがいるだけだ」


 ラグナはそれでも身分を伏せる。


「彼の言っていることは嘘ではないと思う。だからそれをラゼルド王国に問い質してみたいと僕は思っている」

「だから、今は殺すなってことか?」


 リクトは不服そうに尋ねる。


「それだけではない。もしかしたら、ロクスや彼の仲間が君の村を襲った犯人を知っているかもしれないだろう。それを聞き出すことだってできるし、彼らのアジトの場所を判明させてそこを襲撃することだってできるはずだ」

「……確かに、その通りかもな。」


 ラグナの尤もな説明に納得するリクト。


「わかった。俺はこいつを連行することに賛成するよ」

「なら決まりだな。とりあえず身動きを取れないように拘束して、ラゼルドに着くまでは俺とアカネが見張っておく。お前たちに危害を加えないようにな。というわけだロクス、これからよろしくな」

「……ふん。隙を見て逃げ出してやる」

「なら殺すまでだ。お前を生かしているのは俺たちの温情だということを忘れないようにな」

「……ちっ」


 こうして山賊退治は幕を下ろした。

 その後リクトたちは山賊たちのアジトを制圧した。

 部屋を一つずつ確認しているときに、山賊たちが貯めこんだ財宝が保管されている部屋を見つけた。


「すごいな、これ。一体いくらあるんだ」

「金だけじゃなく、高価な宝石まであるな。全て換金すれば相当な額になるぜ」

「これはどうするべきなんだ?」

「これらはこの山賊どもが襲った村々から奪ったものだから、返すべき村はもう存在しないだろうな。だから俺たちが貰うか、ここに置いていくかだな」

「これを貰うのはちょっと……。犠牲になった人々に申し訳がない」


 ラグナはイマイチ乗り気ではないようだ。


「だが、ここに置いておいても勿体ないだろう」

「確かにそうだが……」

「少しだけならいいんじゃないか? 俺の村の分から奪われたものは取り返すって感じで。こいつらが襲ったかどうかはまだわからないけどさ」


 リクトが提案する。


「……それなら、まあ」

「じゃあ決まりだな。少しだけもらっていこう」


 財宝の前で、ラグナは合掌する。


「すみません。少々ですが、頂いていきます」




 リクトたちがミソラが待つ村に帰る頃には、日はすっかり登っていた。

 ミソラの部屋に戻ると、彼女は起きてリクトたちを待っていた。


「お兄ちゃん、皆おかえり!」

「ただいま。無事戻ってきたぞ」

「うん! 私ずっと待ってたよ」


 そう言ってミソラはリクトに抱き着く。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「ごめんな」

「……ううん大丈夫」

「今日は疲れたし、明日出発するか」

「そうだね」


 ラグナとシュウはベッドについた。


「アカネは寝ないのか?」

「私は全然疲れてないし、ロクスの見張りでもしてるわ」

「そうか」

「リクトくんはどうするの?」


 アカネが尋ねる。


「俺はもうちょっと鍛錬してくる。今日の戦いでの感覚を忘れたくないんだ」

「……そう。あまり無理しないでね」

「ああ。じゃあ行ってくる」




「ふっ、ふっ」


 街外れで、リクトは斧の素振りをしている。


「あの感覚を自分のものにできれば、俺はもっと強くなれる!」


 ロクスとの戦いで得たあの感覚。

 周りのものすべてがスローモーションのように感じ、的確にカウンターをすることができた。

 あの感覚をいつでも使いこなせるようになれば、自分の実力は格段に上がるだろう。

 そう信じてリクトは斧を振り続ける。

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