第16話 山賊との戦闘②

 夜も更け、本日の蛮行も終わりを告げた山賊の砦では、それぞれが就寝の準備に入っていた。

 本日も周辺の村から食糧や金品などを大量に強奪した。

 山賊の頭であるロクスは、強奪してきた品々を眺めて呟いた。


「今日の稼ぎはこんなもんか」

「もうここ周辺は荒らしつくしましたから、品も少なくなってきてますよ」

「ちっ。そろそろ遠征の頃合いか」

「そうですなあ」

「まあ、そこらは明日考えるか。もう俺は寝るから、これらを整理しとけよ」

「了解です!」


 ロクスが就寝の準備を始めたそのとき、


「た、大変です、頭!」


 扉を強く開けて、下っ端が部屋の中に入ってきた。


「何だ、こんな夜中に」


 眠気眼をこすりながら、ロクスが鬱陶しそうに尋ねる。


「敵襲です!!」

「あ!? こんな時間にだと!!」


 ロクスは飛び上がり、状況を確認しに向かおうとドアを開けた瞬間、人間が吹っ飛んできた。飛んできた方向を見ると、二人の男が武器を持って走り出してきた。


「お前が頭だな。悪いがその首を貰うぞ!」

「ちっ、これから寝ようと思ってたのによお!!」


 ロクスは腰から剣を取り出し、戦闘態勢に入った。




 アジトに入ってからは、二手に分かれて山賊たちを殲滅することになっている。

 チーム分けはリクトとアカネ、ラグナとシュウだ。それぞれタイプが違う組み合わせで、戦力バランスも悪くない。

 山賊のボスがどこにいるのかはわからないが、おおよその人数は事前に仕入れた情報で把握していた。その数はおよそ50人。対するリクトたちは4人なので、約13倍の戦力差があるということになる。


 そんなリクトたちがまともに戦っても厳しいので、ヒット&アウェイ戦法をとることにした。基本的にシュウとアカネが敵を誘き出し、リクトとラグナで敵を倒す。その流れを繰り返すだけだ。この戦法なら、比較的安全にリクトたちに経験を与えることができる。

 ヒット&アウェイをやりながら、リクトたちはアジトにある部屋を一つずつ確認していた。山賊のボスがどこにいるのかを確認するためだ。目標がいなかった場合は、目印を残しておくことにしている。こうすることで、別チームが無意味に部屋を調べるロスを防ぐことができる。


「というか、このアジト結構広いわね」

「一体どこにいるんだ……」


 山賊との戦闘よりも、探索の方で体力を消耗するほどだ。


「いたぞ、侵入者だ!」

「おっと、また見つかっちゃったわね」

「俺に任せてくれ」


 リクトは前に出て、山賊と対峙する。

 斧を構え、山賊に向かって走り出した。そして力いっぱい斧を振る。山賊はその攻撃を軽々とかわした。


「そんな攻撃が当たるわけないだろうが」


 そういって山賊は反撃を行おうとした。しかし、それはリクトの罠だった。隙だらけの攻撃をして相手を油断させ、相手の隙を作る。

 来るとわかっている攻撃なら、よけるのは比較的容易。リクトは攻撃をかわし、素早く斧で切り付ける。


「ぐっ……」


 相手が怯んだところで、渾身の一撃を食らわした。リクトほどの力があれば、たった一撃で人間の肉体を一刀両断することができる。


「よし、終わりだ。面白いように引っかかってくれるな」

「それにしても、よく何のためらいもなく殺しができるわね。私が戦いを始めた頃は少し躊躇したこともあったのに」

「一度死にかけてるから、死に対して鈍感になってるのかもな。まあそれよりも先に進もう」


 ボスを探すため、リクトたちは歩を進めた。




 時は数刻前、ラグナとシュウは効率よく敵を狩っていた。


「おらっ!」


 シュウの重たい一撃で相手が怯む。その隙を狙って、ラグナは的確に急所を突いた。ラグナが使用している武器は細剣で、主に突き攻撃を得意としている。


「見事なもんだな。急所のほぼ的確についている。ズレはほとんどない」

「アカネに毎日しごかれているからね。これくらいはできるようになったよ。最も、まだ自分より弱い相手にしかできないだろうけどね」

「これなら、俺の手助けは必要ないかもな」

「そんなことはない。まだまだ僕はひよっこだよ」


 ラグナはそう言うが、彼はこの戦いで急成長を遂げていた。最初はヒット&アウェイ戦法で適を倒していたものの、そう何度も闇討ちが通用するほど山賊も馬鹿ではないので向こうも学習してきており、誘いだすことができなくなってきた。そこで一対一で戦っていたのだが、山賊が大した強さではないので、今のラグナでも十分に勝利できていた。

 戦いに慣れてきた今のラグナは、もはや山賊程度なら簡単にあしらうことができるほど成長していた。


「おい、ラグナ様見てみろ」


 シュウが向けた目線の先には、扉の前で何やら慌てている山賊たちの姿があった。


「何か騒ぎたてているようだな。俺らの存在に慌てふためいているみたいだぜ」

「敵の都合なんか知ったことではない。さっさと倒そう」


 ラグナは素早く移動し、山賊の喉元目がけて突きを放つ。山賊が気づいた頃にはすでに遅く、喉を貫通していた。


「あいつ、この戦いで成長しすぎだろ……」


 軽口をたたきながらも、シュウも後に続いて山賊を切り倒す。その勢いで、ついでに扉もけ破った。

 扉の先には、慌てふためいている山賊たちの姿があった。


「奥にいるやつ、手配書で見たことあるな。確か名前はロクスだったか」

「じゃあ、あいつが山賊のボスなのか?」

「恐らくな」

「……リクトには悪いが、先に僕が見つけたんだし、手柄は頂こうか」


 ラグナは剣を構え、ロクスに対峙する。


「お前が頭だな。悪いがその首を貰うぞ!」

「ちっ、これから寝ようと思ってたのによお!!」


 ラグナは地面を大きく蹴って敵に向かって突進をした。


(さて、どう切り崩そうか……)


 ロクスに接近しながら、ラグナは攻略法を考えていた。

 相手の力量を把握していないので、まずはそれを知ることから始めるのが基本だ。今までの山賊たちは如何にもならず者といった感じで、実力も大したことはなかった。しかしロクスは山賊とはいえ頭である。ならば少なくとも下っ端たちよりは実力は上と考えるのが普通だ。

 ラグナはまず、得意の突き連撃を放った。これをどう捌くかで、相手の実力を測るためだ。


「おっと」

「なっ……」


 ロクスはまるで剣の軌道が見えているかのように軽々とかわす。この対処にはラグナも流石に驚いていた。


「ふん」


 攻撃をかわした後、ロクスは山賊とは思えないほど綺麗な太刀筋でラグナに攻撃を繰り出す。その滑らかさに、ラグナはかわすことも出来なかった。


「その程度の実力で俺に勝とうとしてたのか?」

「くっ、強い……!」

「これでも一応元騎士だからな。お前程度に後れを取るほど弱くねえよ」

「元騎士?」


 何故騎士だった男が山賊などをやっているのだろうか。ラグナは疑問に思った。


「ああ。ラゼルド王国という国で仕えていた。ま、今となっては昔の話だけどな」

「ラゼルド王国!?」


 その言葉は、更にラグナを驚かせた。


「あの国は本当に屑だよ。騎士として仕えてた頃もあまりいい気分ではなかったが、東西戦争でボロを出しやがった」

「どういうことだ」

「……喋りすぎたな。これ以上はお前に語ることもない」


 そう言い捨てたロクスの目は一層鋭くなった。敵を倒すための殺気立った眼に睨まれただけで怯みそうになる。

 ロクスはラグナに向かって斬撃を放つ。何の変哲もない斬撃だが、技のキレと精度は確かなものだった。少なくとも、今のラグナでは対処することは出来ないだろう。


(斬撃の質が高い……! 今の僕では、これは防げない……?)


 攻撃を食らいながら、ラグナは自分と相手の実力差に絶望していた。


「ラグナ様!」

「次はお前か、兄ちゃん」

「ったく、お前思ったよりやるようだな。今度は俺が相手になるぜ」


 シュウは大剣を背から抜いて構える。


「お前はなかなかやるようだな。構えだけである程度わかるぜ」

「そりゃどうも」


 そう言いながらシュウはロクスに接近し、大剣を振った。大きさと重量からは想像できないほど早いスピードで繰り出される斬撃は、元騎士のロクスをも驚かせる。


「ぐっ……」

「ちっ、かすり傷かよ」

「おいおい、何でそんな馬鹿でかい剣をそのスピードで振れるんだ」

「努力の賜物だよ。お前も騎士をやめてなければこれくらいできたかもしれんぞ」

「ふん、大きなお世話だ」


 そう言いながらも、ロクスはシュウとの戦闘を内心楽しんでいた。ラグナとは違い、久しぶりに手ごたえのある敵と戦えたからだろう。元騎士の血が騒ぐのだろうか。


「まだまだ行くぜ!」

「こいつ、急に活気づきやがって!」


 ロクスとシュウの剣が激しくぶつかり合う音が周囲に響いた。

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