第14話 山賊退治
「お兄ちゃん、ここ……」
「ん?」
山道を歩いている途中、突然ミソラがリクトに話しかけてきた。
「どうしたんだ」
「この道、前にも通ったことがあるよね」
「いつだ?」
「……あの、私たちが住んでいた村が襲われたときに、この道を通って近くの村まで行ったんだよ」
「……そうか。そう言われてみれば、確かに見覚えがあるかもな」
リクトは辺りを見渡してみた。
ミソラに言われて初めて気づいた、あの日必死に走って逃げだした道。
五年前、東西戦争のどさくさに紛れて略奪行為を行った山賊たちによって、リクトたちが住んでいた村は襲われてしまった。リクト、ミソラ、リコの三人は命からがら逃げ出すことはできたが、その他の住人の安否はわからない。
恐らくは、リクトたちが想像している通りになっているだろう。
「ということは、この近くにリクトたちが住んでいた村があるのかい?」
「ああ。ここからならそこまで遠くはないかな」
「行ってみるか?」
シュウが提案する。リクトとミソラは顔を見合わせて、互いに頷いた。
「……いや、いいよ。帰るときは三人でって決めてるから」
「……そうか」
シュウもそれ以上は何も言わない。
「先を急ごう」
「いや、待てリクト」
ラゼルド王国へ歩き出そうとしていたリクトを、シュウが静止する。
「何だ」
「村には帰らなくても、敵討ちはしたいだろう?」
「……どういうことだ?」
「東方大陸の、特にラゼルド王国と商業共和国の国境付近は山賊たちがたむろっているんだ。で、この前ギルドの掲示板を見たことを思い出したんだが、この辺に山賊たちのアジトがあるらしい」
「本当か!?」
シュウの話に、身を乗り出して聞くリクト。
「ああ。お前たちが住んでいた村を襲った奴らかはわからないが、仲間である可能性は高い。どちらにしろ、賊というのは生かしておいても碌なことはしないから、蹴散らしておいた方がいいだろう。どうする?」
「決まっている。俺たちでそいつらを倒そう」
愚問だと言わんばかりのリクト。
「ラグナ様はいいの?」
「リクトにはずいぶん世話になった。彼の家族や友人、仲間たちの敵討ちというのなら、僕もできる限りのことはやりたい」
「いや、ラグナが戦うのはまずいんじゃないか? もしものことがあったらどうするんだ」
リクトの懸念は最もだ。シルフ王国の王族であるラグナが山賊退治ごときで命を落としてしまったら、ここにいる誰一人として責任をとることができない。
「リクトの心配はわかるよ。でも、僕はもうシルフ王国には必要ない。クリスがいて国が上手く回っているなら、僕のような王族は必要ないってことだろう?」
「いやそうじゃなくて、俺はノヴァさんからお前を任されたんだ。危険にさらすことなんてできない」
「本来ならば僕を守る役目があるのはノヴァだ。もし僕が今死んでしまったら、僕を野放しにして守り切れなかったノヴァの責任だ。違うかい?」
「そんな横暴な……」
ラグナの暴論に戸惑うリクト。その様子を見たシュウが助け船を出す。
「リクトの言う通り、無駄に命を危機にさらすことはないんじゃないか?」
「無駄なんかじゃない。僕だって、修行してそれなりに強くなったんだ」
「それはそうだが……」
「鍛錬ばかりでは意味がない。実戦で成果を発揮しなければ、真の意味で強くなったとはいえないだろう」
最もなことを言うラグナ。
「……わかったよ。いざとなれば俺たちで守ればいいか。ただし、決して無理をするんじゃないぞ。リクトもだ」
「わかっている」
「じゃあ決まりだな」
「でも、ミソラちゃんはどうするの?」
アカネが当然の疑問を尋ねる。
「近くの村の宿で待ってもらった方がいいだろう。山賊ってのは基本的には昼にはアジトにいないものだから、俺たちの襲撃も夜になるだろうし、都合はいいはずだ」
「でも、私も一緒に行きたい……」
「ダメだ、ミソラ。お前だけは絶対に危険な目に合わせるわけにはいかない」
ついていこうとするミソラを、必死に静止するリクト。
「心配するな。俺たちは必ず帰ってくる。父さんや母さんの敵を討ってな」
「……私が行っても迷惑をかけるだけなんだよね。じゃあ待ってるよ」
「ありがとう」
リクトはミソラを抱きしめた。
「じゃあ村に行って準備を整えよう。日が落ちてからが勝負だ」
今夜のために、リクトたちは念入りに準備を始めた。
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