第2話 悪夢

「貴方ではこの国を変えることはできない。故に私が成り代わる。ただそれだけのことだ」


 あの男が言う。

 手に持った剣は父上の首筋にあり、今にも切り裂いてしまいそうだった。


「無論、王族は皆処刑する。今後は私がこの国を統治し、民がより良い暮らしを過ごせるように改革するのだ」


 矛先がこちらに向かう。

 その冷たい目は、視線だけで人を突き刺すことができそうだった。


「まずはこの男から……」


 彼は剣を高く掲げ、それを振り下ろした。

 僕はその光景を直視することはできず、思わず目を逸らした。次の瞬間、僕の視界に、朱い液体が流れ込んだ。


 「次はお前だ……」


 そう言いながら近づき、彼は手に持った剣を僕に……。




「はあっ、はあっ」


 そこまで見て、ラグナは目を覚ました。

 未だにあの時のことを夢に見てしまう。

 父親が目の前で処刑される様を。

 そして、何もできずにただ見ているだけしか出来なかった無様な自分を。


「……」


 ラグナは、そんな無力な自分に心底腹が立っていた。

 しかし、今のラグナには拳を握りしめて悔いることしかできない。


「大丈夫か、ラグナ」


 と、そこにリクトがラグナの様子を見に来ていた。青ざめたラグナの姿を見て、どうやら心配しているようだ。


「酷い汗だぞ。悪夢でも見たのか」

「ああ。悪夢なんてものじゃないよ」


 ラグナの顔は強張っていた。

 どのような悪夢だったのか、ラグナに問おうとしたが、リクトは自分の用件を思い出し、踏みとどまった。


「ところでラグナ、さっき君の連れが目を覚ましたぞ。顔を見に行ってやったらどうだ?」

「! 本当か」


 その報せを聞いたラグナは、布団から飛び起きて様子を見に行った。

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