第22話 敵を見ずして、突っ込むべし-その2

ついに開戦したセレティア・ペールマン連合軍のエールランド侵攻戦。ホーセンを筆頭とした先鋒隊は、破竹の勢いで次々と敵城を落としていった。



-セレティア領内。エールランド国境から約10kmに位置する街

「好調だね!」

「まぁね、将軍めっちゃ強いからね」

「ニコテス様からお手紙です」

朝からホーセンの戦果に盛り上がる二人であったが、手紙を読んだケロルの見解は違った。

「モモさん、アヤカさん。安心出来ないかもしれません」

「ケロちゃん、なんで?」

「勝ってんだろ?」

「はい。それはそうなんですが」

ケロルの疑いはやがて、この街さえも戦火を飛び火させることとなる。



-エールランド領内

「将軍、どうしたんです?」

「なんか“軽い”」

「え?」

ホーセン将軍率いる先鋒隊は、落とした敵城下でつかの間の休息をとっていた。ニコテスはホーセンの脳筋感情がとても苦手だった。

「わからんのか、賢者の孫よ。敵兵に覇気がない。しかし、それにしては上手く時間を稼いでいる」

「結局、裏に誰か操ってるやつがいるってことだな」

「そうかもしれぬ」

「敵襲です!数は約2000!!」

現在のホーセン軍は約2500人ほどとなっている。ホーセンはフッと息を吹き、愛馬アカウサギに飛び乗った。

「さて、大将のお出ましか」



-エールランド領内、どこかの森の中

「大将が出てきたとでも思っているのだろうな。あの獣は」

「獣っていうかバケモノでしょ。トリのだんな、一人で良いの?」

「安心しろ、マリン。別に、ここで仕留めるわけじゃない。ましては、トリステンは滅多にしくじらないからな」

そう話す彼らの後ろには、一万にもおよぶ騎兵が備えていた。



-ホーセン率いる先鋒隊

「やはり、バケモノだな」

「貴様は誰だ?」

恐怖におののく、兵士たちを横目に敵将が出てきた。黒髪の長髪をたなびかせた敵将は、女性のような美しい顔をしている。

「私の名はトリステン。よろしく頼むよ、バケモノ将軍さん」

「我が名乗る必要はなさそうだな」

そう言ってホーセンは手に持った薙刀を振りかざした。対するトリステンの手には細長いレイピアが一本。

「失せろ!」

「危ないなぁ」

薙刀の一撃は軽く、レイピアで止められる。トリステンは悪そうに微笑み、

「お返し致しまーす」

その言葉とともにレイピアの柄を叩くと、ホーセンの体は突然後方に吹っ飛んだ。

「流石にバケモノも、自分の力には勝てんわな」

「我の力を利用するとはな。良いだろう」

ホーセンは薙刀を両手持ちに変え、突きの姿勢をとった。

「突きとは考えたもんだねぇ。これが武術なら良かったね」

「ここだ」

突風を纏いながら放たれた一突きは確実にトリステンを貫いたはずだった。

「これは魔術と武術。武術だけではどうにも出来ないんだよ」

トリステンが微笑んだと同時に、ホーセンの姿は逆風となった砂煙にまぎれ消えた。

「将軍が負けたのか?」

「あいつヤバいぞ」

「逃げるか?」

煙の中が明らかになるまで、両軍の兵士達は思い思いの言葉を発した。砂煙はなかなか消えなかったが、やがて巨漢が姿を現した。腕の血管から、ちろちろ血が垂れている。酷く充血した目をしっかりと開いて、

「さっきの自分を超えてこそ、男ってもんだろ。なぁ」

ホーセンは目の前にいる好敵えものに武者震いが止まらなくなってきた。

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