第208話 力と力
「らぁああああああああっっ!!」
「グルアァアアアアアアッッ!!」
【弟想姉念】を発動したことにより、爆発的に膨れ上がった『姉力』を纏ってベヒーモスに肉薄する。
近づいて来る煩わしい人間を振り払おうと右前脚をリリアに向けて振り下ろす。しかしその威力は先ほどリリアの右腕を容易く折ったことからも明白だ。
技でもなんでもない、ただ純粋な火力をもっての一撃。そんな必殺の一撃を前にしてもリリアは一切臆することなく、それどころからさらに加速して突進する。
「『姉鋼脚』!!」
右足に『姉力』を収斂させたリリアが真っ向からベヒーモスの右前脚とぶつかり合う。拮抗したのは一瞬、その軍配はリリアの方に上がった。
リリアに蹴りによってのけぞることになったベヒーモスは大きな隙をリリアに晒してしまう。そしてリリアはそのまま懐に潜りこみ、このまま勝負を決めてしまおうと一気に連撃を叩き込む。
腹を中心に攻撃を仕掛けるリリアだが、想像以上の硬さにリリアは顔をしかめる。
(あんまり聞いてない……伝説の魔物とはいえ、若干猫っぽいから腹が弱点かと思ったんだけど。この硬さ……まるで鉄の塊でも殴ってるみたいな感じだし。『姉力』で拳を強化してなかったら拳の方が砕けるレベル。硬いってレベルの話じゃないんだけど。なるほど。これがベヒーモス)
今のリリアは『姉力』で身体を強化しているだけでなく、リントからの魔法でそれ以上にバフを授けられている。耐火、耐雷、脚力向上、腕力向上、身体硬化などなど全部で十以上の魔法によって強化されていた。
もしそれがなければ今もベヒーモスがその体から放っている炎と雷でその身を焼かれていたはずだった。
「『姉破槌』!!」
「ッッ!!」
今度は右腕に『姉力』を収斂させベヒーモスの腹を打ち抜く。リリアの放った渾身の一撃はしかし、僅かにベヒーモスの体を浮かせるだけにとどまった。
トンを軽く超える質量を誇るベヒーモスの体を浮かせられるというだけで脅威的な威力なのだが、ベヒーモスにはそれほどダメージが入っているようには見えなかった。
だが、最初の一撃のその後の連撃はベヒーモスにリリアのことを脅威として認めさせるには十分だった。
攻撃体勢に入ったベヒーモスのことをいち早く察知したのは離れた位置で戦いを見ていたリントだった。
「おいリリアっ、そこから離れろ!」
「っ!」
リントの声を聞いたリリアがベヒーモスの懐から離れた次の瞬間だった、体の下にいたリリアを押しつぶそうとしたベヒーモスが地面に体を叩きつける。
「きゃぁっ!」
なんとか直撃こそ躱したものの、地面に体を叩きつけた際に発生した衝撃と、そして撒き散らされた炎と雷がリリアのことを襲う。
「っぅ、衝撃だけでこの威力なんて」
リリアが喰らったのはあくまで攻撃の余波。それだけでも脅威を感じ取れるほどにベヒーモスの内包する力は大きかった。
「大丈夫かリリア」
「問題ないわ。直撃はしてないし、余波だけであれだけの威力っていうのはさすがにびっくりしたけど」
「それも確かにビックリしたんだが、それよりも俺はお前に驚いてるよ」
「? なにがよ」
「いや、まさかベヒーモスの前脚を蹴り飛ばすし拳で体を浮かせるし、お前の方がとんでもないなって思っただけだ」
「これくらいやろうと思えばできるでしょ」
「いやできねーよ!」
「そんなことはどうでもいいの。それよりもあの鋼よりも硬い肉体、どうにかできない? 本気で力を込めたら多少のダメージは与えられそうだけど、それじゃ倒せないし、なによりもさすがにガス欠になりそう」
「確かにそうだが……本気で倒すつもりなのか」
「当たり前でしょ。じゃなきゃ最初から戦わない」
「……はぁ、わかった。とにかく硬ささえなんとかできればいいんだろ」
「えぇ、攻撃さえ通せるようになったら後は私がなんとかする」
「上等だ。俺もできるだけのことはやってやるよ。どこまで効くかはわからないけどな」
そう言ってリントは魔法の起動準備に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます