第207話 vsベヒーモス

「ほら、シャキッとしなさいリント! さっさと魔法の準備しなさい!」

「うおぉおおお、とりあえずいったん落ち着いてくれぇえええっ!!」


 ロウが呼び出したベヒーモスへ向けて、リントの首根っこを掴んで突進していく。

 その様子をロウとライは離れた位置から二人の様子を観察していた。


「兄さん、大丈夫?」

「あぁ、ちょっと疲れたぐらいだな。全然問題はねぇよ」

「ならいいけど……あの二人にベヒーモスを見せる必要があったの?」

「あいつらの実力を計るには持って来いだろ。まぁ、向こうから見抜かれたのはさすがに予想外だったけどな」

「でも、ベヒーモスを召喚するのは兄さんも少なからず消耗するのに」

「これくらいなら問題ねぇよ。それよりもあいつがあれからどれだけ成長してるのか、それを見極める方が大事だ。違うか?」

「…………」

「ま、大丈夫だ。もしなんかありそうなら止めるつもりだしな。俺らの本当の目的にも、もしかしたら近づけるかもしれないしな」

「それは……」


 ロウの言葉にライは押し黙る。ロウの言葉を理解はできるが納得はしていない、そんな雰囲気だった。

 そんな優しい妹であるライの頭をロウは優しく撫でる。ライは目を逸らしながらもされるがままになっている。


「さ、始まるぞ」


 ロウがそう言うのとほぼ同時に、リリアがベヒーモスと正面から衝突した。


「あいつ相手に正面からとか正気かよ」

「常人の神経ならあり得ない」


 リリアの身長は約170cm。それに対してベヒーモスは10メートルは優に超えるほどの巨躯だ。

 自身の十倍近い大きさの相手に正面から挑むなど、常人にできることではない。

 しかしロウとライの目の前にいるのは常人ではなかった。


「はぁあああああっっ!!」

「ガルァアアアアアアアッッ!!」


 リリアが右腕に溜めを作り、ベヒーモスはそんなリリアのことを振り払おうと右前脚を振り下ろした。

 そしてリリアとベヒーモス、互いの初撃がぶつかりあったその瞬間。周囲一帯に轟くような衝撃波が起こった。


「っ、これは……」

「おいおい、マジかよ」


 容易く踏みつぶされてもおかしくないほどのベヒーモスの一撃を前にリリアの攻撃は一切引けをとっていなかった。

 それどころかリリアはそこにさらに力を込めて、ベヒーモスの右腕を弾き飛ばした。

 予想外の反撃に、ベヒーモスの巨躯が若干後ろに後退する。

 しかし地面に着地したリリアもまた若干顔をしかめて右腕をひらひらと振っていた。


「リント」

「ん? どうした?」

「回復して。折れた。ついでにいくつかバフかけて」

「はぁっ?!」

「いやぁ、さすがに滅茶苦茶力強いわね。まさか『姉障壁』ぶち破ってくるなんて思いもしなかった」

「いや、だからってお前なぁ……あぁもうわかったよ、とりあえず回復とバフかけりゃいいんだろ」


 折れたなどという割にはそれほど驚いていないリリア。

ベヒーモスの力量を測るための初撃。もちろん遠慮など一切していない。最初から全力だ。神話の怪物相手に様子を伺うような真似などするわけがない。そんなことをしていたらベヒーモスに一方的に攻め切られるのは目に見えていた。


「まさか一撃を受けただけで右腕持って行かれるとは思わなかったけど」

「無茶し過ぎだろ。確かに俺の魔法で治せるのは治せるが、だからって痛みがないわけじゃないだろ」

「確かに痛いけど……でも、だからこそやりがいがあるんじゃない。私が求めるのは力。ハル君を守るための力。そのためには強い存在と戦う必要があるの。ベヒーモスなんて恰好の獲物じゃない」

「あれを獲物って言えるお前の精神が恐ろしいよ俺は」

「あなたも男の子なら強者との戦いに心震わせてみなさい」

「そんなことできるのはバトルジャンキーだけだ。お前と一緒にすんな」

「残念。でも無理やりでも付き合ってもらうから」

「わかってるよ。どのみちこの状況じゃやるしかないんだしな」

「それでこそ。私とペアを組む相手ならそうじゃないとね」

「頼むからやり過ぎだけは止めてくれよ」

「それはこの先の状況次第ね。それじゃあ適宜バフと回復をお願い。私はそういうの一切気にせずに攻めるから」

「はぁ、わかった。俺も腹くくるしかねぇな」


 リリアとリント、互いにやることは決まった。

 そしてリリアは【弟想姉念】を発動し、リントはスマホで魔法を幾重にもリリアに魔法をかける。

 そして、それを見たベヒーモスもバチバチと放電し始めた。


「こんな早い段階でベヒーモスがやる気になるとはな」

「それだけの強者ってこと?」

「そいつは今から見定めるとしようぜ」


 そして勝負を見つめるロウとライの視線の先で、本気になったリリアとベヒーモスが轟音とともにぶつかり合った。

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