第204話 リリア達の話合い

「…………」

「…………」

「さーて、何食おっかなー」

「えーと……」


 ギルド内に併設してある飲食スペース。そこにリリア達の姿はあった。

 リリアとリントの向かいに座るのはロウとライ。

 リリアとライは無言のまま睨み合い、ロウはそんな二人のことなどまるで気にせずにメニューを見て何を食べるかを考えている。

 一人気まずい思いをしてるのは流されるがままに付き合わされているリントだけだ。

 

「よし決めた。ライは何がいい?」

「いつもの」

「わかった超ビッグマウンテンベリーパフェだな。そっちの二人はどうするよ。せっかくだし奢るぞ」

「私はコーヒーでいいわ」

「俺もそんなにお腹空いてないから水で」

「そうか? 二人とも遠慮しなくていいんだがな。お姉さん、注文したいんだけど!」

「あ、はーいっ、すぐ行きまーす!」


 ほどなくして注文を取りに来たウェイターにロウは次々と注文していく。

 そしてずらっと並べられる料理の山。そのあまりの多さにリリアもリントも思わず目を丸くした。

 中でも一番目を引いたのは超ビッグマウンテンベリーパフェ。机上の三分の一は埋めようかという巨大なパフェだった。


「これ……食べるの?」

「食べる。一日一回は」

「どんな食事よそれは」

「あはは、まぁ俺もそう思うけどな。最初は普通のパフェだったんだが……それを大盛りにして、さらに大盛りにして……気付いたらこのサイズになってたんだ。さすがにこれ以上は器がないってことでな」

「逆にこれ以上いけるのね」

「余裕」

「俺だったら十分の一も食えねぇぞこれ。っていうか、大きさはともかく、量で言うならそっちの方も大概だろ。何人前だよそれ」

「あははっ、まぁ確かにな。でもこれぐらい食わねぇと力が出ねぇんだ。しょうがないだろ」

「いっぱい食べればいっぱい力を使える。これは道理」

「だからって食べ過ぎでしょ」

「なんか俺見てるだけでお腹いっぱいになってきた……」

「私もよ」


 こうして話している間にも、尋常ならざる速度で二人は食事を進めていく。それはまるで食事というより、吸い込んでいるという表現が正しいのではないかと思うほどに。

 山のように大きなパフェが消えていく様はまさに圧巻というほかなかった。

 そして、それからほどなくして机を埋め尽くさんばかりに並べられていた料理は全て二人の胃の中へとおさまった。


「はぁ食った食った……」

「満足した」

「ホントに二人で食べきったのね」

「マジか……」

「悪いな、食べ終わるの待ってもらっちまって」

「別にいいけど。そんなに待ってないし。それより本当に食べてるのよね?」

「? 当たり前だろ。じゃなきゃこの料理はどこに消えたって言うんだよ」

「それはそうなんだけど……胃が異界にでも通じてるんじゃないあなた達」

「あははっ、そんなわけねぇだろ。ちょっと人より食えるってだけだ」

「右に同じ」

「ちょっとどころじゃない気もするけどな」

「はぁ、まぁいいわ。別にあなた達の体のことについて知った所でどうこうなるわけでもないし。それよりも、話し合うんでしょう?」

「あぁ、そうだな。腹もちょうどいい感じになったし。まずは自己紹介だ。あらためて、俺はロウ・ファークラ。こっちは妹のライ・ファークラだ。二人で組んで冒険者やってる。ランクはD級だ。まだまだ駆け出しだな」

「よろしく」

「こっちも改めて、リリア・オーネスよ。私もD級冒険者よ」

「俺はリント・ヒナタだ。俺は冒険者ってわけじゃないんだが……こいつに半ば無理やり付き合わされて一緒に依頼を受けてる形だな」

「ははっ、そりゃ災難だな。彼女の尻に敷かれてるって感じか」

「変な勘違いしないで。リントは私の彼氏じゃないわ」

「え、違うのか? ギルドに居る時だいたい一緒にいるからてっきり……」

「私には弟がいるもの、彼氏なんて作るはずないでしょ? それにリントも妹がいるんだから」

「えっと……どういうことだ?」

「あぁ、こいつの言うことはあんまり気にしないでくれ。というか気にしたら負けだ。まぁでも確かにこいつと付き合ってるわけじゃないよ。ただいいように利用されてるって感じだな」

「よくわからんが……まぁいいか。細かいこと気にしてたらキリがねぇしな」

「そんなことより、私達の仲間になりたいと言うなら。どんな能力を持ってるか教えて欲しいんだけど。あなたの妹が持ってるその【眼】についてとか」

「薄々察してるくせに」

「まぁね」

「だからなんで二人はさっきからバチバチしてんだよ!」


 またも睨み合いを始めた二人にたまらずリントが突っ込む。

 しかしリリアもライもただ睨み合ってるわけじゃない。互いの【眼】を駆使して、裏をかこうと探りあっていた。


「ライ、その辺にしとけ」

「向こうが仕掛けてきただけ」

「そっちだって隙を探ってみようとしてたでしょ」

「否定はしない」

「でもそうね。あなたに関してはその【眼】以外にも色々とありそうだけど。問題はあなたの方よ」

「ん、俺か?」

「えぇ。妹の方が邪魔してるから見えないけど……あなた、中に何を飼ってるの?」

「……へぇ」

「驚いた」

「か、飼ってる? どういうことだよリリア」

「そのままの意味だけど。こいつは体の中に何かを飼ってる。それも生半可じゃない何かを。その正体まではわからないけどね」

「ははっ、正解だ。いや、まさか気付かれるとは思わなかった」

「っ!」

「こいつは……」


 ロウの背からゆらゆらと揺らめくオーラが溢れ出る。リリア達のいる場所だけが切り取られたかのように、先ほどまでとは空気が一変していた。


「獣……魔獣のオーラ?」

「半分正解だな」


 ニッと笑みを浮かべてロウは言う。


「【凶獣ベヒーモス】それが俺の飼ってる獣の名だ」

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