第203話 二人の【眼】

「俺はロウ、こっちは妹のライってんだ。仲間探してるってなら、話くらいは聞くぜ?」


 仲間を探していたリリアとリントの前に現れたのは、ロウとライという兄妹だった。

 ロウは二十代半ばほどの青年、妹のライはリリア達と同じくらいの十代後半の少女だった。


(この二人……兄妹? 妹って言ってたから兄妹だと思うんだけど、いや、でも……)


ロウ達にどこか妙な気配を感じて【姉眼】を発動して二人のことを観察するリリア。しかし、そこに表示されたのはリリアにとって想定外のものだった。


『???』


 ロウとライの頭上に表示されるのは本来ならば『兄』と『妹』の表記。しかし、表示されたのは?の文字だけ。つまり【姉眼】では読み取ることはできなかったのだ。

 今までには無かったことにリリアは二人に対する警戒を高める。


「おっと、どうかしたか?」

「あなた達……何者?」

「? 何者も何も、俺達も冒険者さ。あんたらと同じな」

「お、おいリリア?」


 あっけらかんと言い放つロウだったが、その言葉を鵜呑みにするほどリリアは能天気ではない。この二人には何かある。リリアは半ばそう確信していた。

 隣にいるリントはリリアが何をそんなに警戒しているのかわからず、リリアとロウ達の間に流れる微妙な空気だけ感じ取って戸惑っていた。

 そしてロウの隣に立つライはリリアのことをジッと見つめていた。


「……兄、この人、私達のこと視たよ」

「お、マジか」

「っ!」


 リリアは自分が見ていたということに気づかれたことに驚愕する。今までは【姉眼】で見ても気付かれることはなかった。表示がされなかった事実も含めて、リリアの中で何が起きているのはまるで理解が追い付いていなかった。


(何かしらの特殊能力? 私が『姉力』を持ってるみたいに、この二人も何かしらの能力を持ってるの?)


「あぁ、別に視られたことに関しちゃ気にしてねぇから大丈夫だ。ただいきなり無遠慮に見てくるのはどうかと思うぜ?」

「……そうね。悪かったわ」

「うん、私も別に気にしてない。どうせ見れなかっただろうし」

「む……」


 見れなかったことは事実とはいえ、それを相手に指摘されるとリリアとしては妙に腹が立つ。『姉力』をさらに行使して【姉眼】の力を高めようかとも思ったリリアだったが、再び見れなかった場合のリスクを考えてギリギリでおし留まる。


「あ、解除した」

「悪いな。別に秘密ってわけじゃないんだが、見られるのはどうにも苦手なんだ」

「そう。でもそう言う割には、そっちのあなたも私達のこと勝手に見てるみたいだけど。それもそれで無遠慮じゃないかしら?」

「「っ!」」


 意趣返しをするように指摘するリリア。

 リリアが【姉眼】で二人のことを観察していたように、ライもまた何かしらの【眼】にまつわる能力でリリアとリントのことを見ていた。

 そして普段【姉眼】を使って観察しているからこそ、見られている感覚にも人一倍鋭敏だった。


「驚いた。まさかロウの眼に気付くとはな」

「不覚。こっちも思う様に見れなかったし」

「そう」

「いや、さっきから何の話してるんだよ」


 その場の流れに唯一置いていかれてたリントはわけかわからず戸惑うしかない。


「わからないのならわからないままでいいけど。こっちの話だし。大丈夫。一応リントの方も防いでおいたから」

「防ぐって、この短時間に何してたんだよお前らは」

「それで? 結局何が目的だったわけ? 無遠慮に視てきたってことは何か目的があったんでしょう?」

「無遠慮に視てきたのはそっちも同じだけど」

「落ち着けライ。防がれてムカついてるんだろうけどな。悪いな。別に悪気があったわけじゃねぇんだ。信じてもらえねぇかもしれないけどな」

「そうね。いきなり無遠慮に視てきた人のことを信じるなんてできるわけがないわ」


 自分のことは完全に棚に上げて言い放つリリア。

 しかしリリアは視れなったこと、そしてライが視てきたこと以上に気になることがあった。


(この二人の気配……どこかで……)


 ロウとライの気配にどこか覚えがあったリリアは、記憶を探る。しかし明確な答えをすぐに思い出すことはできなかった。


「まぁここはお互い様ってことで、どうだ? 仕切りなおして話すとしねぇか? 今度はお互い無遠慮は無しだ」

「どうすんだリリア」

「……そうね。いいでしょう。このまま終わってしまっても消化不良だし。あなた達の誘いに乗ってあげる」

「よしきた」


 そしてリリア達は、ロウ達との話し合いの場を設けることになったのだった。


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