第201話 樹宝石の依頼
依頼を完了したリリアとリントはギルドへと戻り、依頼後の事務処理が完了するのを待っていた。
「へぇ、こんな依頼まであるのね」
「依頼も多種多様なもんだなぁ」
時間を潰すため、そして次の依頼を決めるため、リリア達は依頼ボードを物色していた。
「ん、何の依頼。『樹宝石』の採取? 『樹宝石』って初めて聞く名前だけど」
「あぁ、『樹宝石』か。その依頼もしかして、うちの学園の研究室から出てる依頼じゃないか?」
「……ホントだ。知ってるのリント」
「まぁ学園にいる間は授業だけじゃなくて色んな人の手伝いさせられてるからな。その中でもとくに変わり者で、面倒な頼み事をしてくる人がいるんだよ。フェリスって人なんだけどな。魔法研究一筋って感じの人で、それしか見てないっていうかなぁ……正直俺はかなり苦手だ部類の人だ」
「へぇ……で、その人と『樹宝石』に何の関係があるわけ? 大体察しはついたけど」
「まぁその予想通りだと思うぞ。前にやたらと欲しがってたんだよ『樹宝石』をな。ただまぁその『樹宝石』ってのがやたらと面倒な場所にあるから行ける奴がいないんだよ。っていうか、そういうの考えたらD級レベルの依頼じゃないと思うんだけどな」
「そんなに難しいの?」
「あぁ。この『樹宝石』ってのがあるのがここから離れた場所にある、『帰らずの森』っていうんだけどな」
「『帰らずの森』?」
「あぁ。かなり危険な場所だってことで有名だぞ。アースドラゴンとか、カイザーコングとか。A級やらB級の魔物がゴロゴロいるらしいからな。ま、なんの準備もなしに踏み込んだらまず生きて帰れないって場所だ。ユニコーンがいるなんて伝説まであるらしいぞ。眉唾だけどな」
「…………」
「どうした? 急に不機嫌な顔して」
「ううん、別になんでもないわこのシスコン」
「なんでいきなりシスコン呼ばわりされんだよ!」
まさにその『帰らずの森』に何の準備も無しに、その場のノリとテンションで踏み込んで死にかけたリリアは若干不機嫌になりながら依頼を手に取る。
「『帰らずの森』か……あそこに『樹宝石』なんてものがあったんだ」
「おいリリア、お前まさか」
「ちょっとに気ならない?」
「いや、さすがに無茶苦茶すぎんだろ! 二人で挑むような場所じゃねぇぞ!」
「まぁその辺りのことは後々考えるとして。結局のところこの『樹宝石』ってのは何に使うの?」
「なんだったかな……確か、魔力の通りがいいとかで、何かに埋め込む素材にするとかなんとか……悪い、覚えてねぇ」
「はぁ、使えない」
「その言い方は酷くねぇか!?」
「とにかく、この依頼が受けれるかどうか一度レフィールさんに聞いてみましょうか」
「本気かよお前……」
「もちろん本気よ」
リリアは依頼ボードから依頼の紙をはがすと、それをもってレフィールの元まで向かう。
「レフィールさん」
「なんですかオーネスさん。まだ先ほどの依頼の処理は終わってませんが」
「新しくこの依頼を受けたいんですけど」
「この依頼? って、これ『樹宝石』の採取依頼じゃないですか! なんであなたがこれを!」
「なんでも何も、このD級の依頼ボードに貼ってありましたけど?」
「そんなバカな……アカネ! 依頼の整理をしたのはあなたでしょ、ちゃんと確認したの!」
「ひぃ、ちゃ、ちゃんとしました……たぶん」
「たぶんじゃないでしょ! 依頼の確認はあれほどちゃんとしろと……はぁ、申し訳ありませんオーネスさん。この依頼は最低でもB級以上のランクになってから受けれるレベルの依頼です。すみませんがこれは……えっと、何をしているので?」
レフィールが回収しようとした依頼用紙をリリアはひょいと上にあげてその手をすかす。
そして笑顔で言った。
「この依頼受けたいんですけど」
「えっと……ですから、この依頼は受けれないと」
「この依頼受けたいんですけど」
「この依頼はB級以上のランクでないと」
「この依頼受けたいんですけど」
「あの……」
「この依頼受けたいんですけど」
「ですから……」
「この依頼受けたいんですけど」
「話を聞いて……」
「この依頼受けたいんですけど」
それはそれは綺麗な笑顔を浮かべ、同じ言葉を繰り返すリリア。
「ですから、無理です!」
「でもこの依頼はD級ボードに貼られていました。つまりそれはD級に向けた依頼ってことですよね?」
「ですからそれはこちらの手違いで……とにかく、どれだけ粘られても無理なものは無理ですから!」
「どうしてもですか?」
「どうしてもです。こればっかりは認めることは——」
「いいんじゃない?」
「え?」
「あ……」
話し合いを続けるリリアとレフィールの間に割って入ったのはギルドマスターのドラインだった。
「ギルドマスター……ですが、この依頼はB級以上のもので」
「でもそれを承知でリリアは受けたいって言ってるんだよね」
「はい」
「君はできないことをできるっていうほど愚かじゃないと思ってる。つまり、できる自信があるんだろう?」
「はい、もちろんです。私とリントが力を合わせれば不可能ではないかと」
「いいねぇ、その自信に満ちた瞳。いいよ、認めてあげる」
「ギルドマスター!? いったい何を言ってるんですか!」
「だから、この依頼をリリアに任せようって言ってるんだ。ギルドマスター権限で認めてあげる。特例としてね」
「本当ですか!」
「そんな、無茶です! オーネスさんはまだB級冒険者ではないんですよ!」
「だからこその特例だよ。ただし、条件が一つある」
「条件ですか?」
「この依頼に失敗したら君の冒険者ライセンスを剥奪する。それだけのリスクを受け入れる覚悟はある?」
「その程度ですか? だったら何も問題ありません。そんなの私にとってはリスクにもなりませんから」
「オーネスさん、あなたは……」
「ふはははっ! いいねぇ、いい度胸だ!」
「あぁもう……わかりました。ですが、私からも一つ条件があります」
完全に乗り気になったギルドマスターのドラインとリリアを見て、最早止められないと悟ったレフィールはリリアに一つの条件を突きつける。
「条件?」
「最低四名以上です。後二人仲間を見つけてください。これが条件です」
「ま、そのあたりが妥協点かな」
「不本意ですけど……わかりました。後二人見つければいいんですね」
「はい。そうじゃないと認めません。たとえギルドマスター権限でもです」
レフィールの言葉に強い意思を感じたリリアはドラインの言う通り妥協することを決めた。これ以上粘ってまた認めないなどと言われたら面倒だからだ。
こうしてリリアは『樹宝石』の採取依頼を受けるために新たに二人の仲間を探すこととなった。
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