第200話 リリア自身の『姉道』

 姉とはなんであるか。

 関係性だけで言うならば『同じ親から生まれた年上の女』というのが姉という存在。

 弟とはなんであるか。

 関係性だけで言うならば『同じ親から生まれた年下の男』というのが弟という存在。

 姉も弟も、言葉にしてしまえばそれだけの関係性でしかない。

 しかし、姉弟というものはそれだけで語れるほどに容易い関係ではないのだ。

 仲の良い姉弟がいれば、仲の悪い姉弟もいる。

 姉より優秀な弟もいれば、優秀な姉に劣等感を覚える弟もいる。

 姉弟の数だけその関係性は存在するのだ。それは姉妹でも、兄弟でも兄妹でもありうる話ではあるのだが。

 しかし、一般的に弟妹は生まれた時から弟妹であるのに対し、姉兄は生まれた時から姉兄であるわけではない。

 弟妹が母体の中で成長している期間があるのだから。

 その間にどんな姉兄になりたいのかということを自分自身の意思で思い描くことができるのだ。







 しかしその事情はリリア・オーネスには当てはまるものでは無かった。

 彼女は元々別の世界にいた男であり、この世界にやって来た時はちょうどハルトが生まれるタイミングだった。

 だからこそ、リリアには姉になることに対しての心構えなど何一つしてなかった。

 しかしリリアには……否、宗司にはただ一人絶対とも言える存在がいた。それは両親のことではない。

 月花。宗司にとってただ一人の姉で、この世で最も尊敬していると言っても過言ではない存在。

 宗司が突然リリアとなり、そして姉となったとしても。姉がどんな存在であるのかは知っている。

 リリアにとって姉とは、月花の在り方そのもの。

 月花と同じ姉となったリリアにとって、目指すべき姉の姿は月花以外に想像することもできなかった。

 そうしてリリアの姉としての生活は始まったのだ。

 最初はなにもかも模倣だった。

 記憶の中にある月花の姿をなぞり続ける日々。

 何もかも手探りの生活の中で、少しずつリリアは姉としての在り方を学んでいった。

 月花の語ってくれた『姉道』だけを心に刻んで。

 そんな生活も十年以上続けば様になるというものだ。

 誰よりも姉から遠かった存在であるはずのリリアは、気付けば誰よりも姉らしいと言われるようになっていた。

 そしてそのことをリリアは誇らしく思っていた。

 リリアが姉らしいと言われると言うことは、月花の姉としての在り方が正しかったと褒められているようなものなのだから。

 ……だが、ある時からリリアはそんな自分の在り方に一抹の疑問を覚えるようになってしまった。

 本当にこのままでいいのか、という疑問を。

 リリアの姉としての在り方はあくまで月花ならばこうする、という考えに基づいての行動ばかりだ。

 しかし姉としての行動を極めていけばいくほど、月花の偉大さを感じると同時に己の足りなさを痛感してしまうのだ。


『本当に私はこのまま姉さんの後を追い続けるだけでいいの?』


 そんな考えは無くなるどころか、膨れ上がるばかりで。

 しかし、どうすればいいのかもわからない。

 そんなどうしようもないサイクルの中にリリアはあった。

 こんな時に月花ならばなんと言ってくれるのか。そんな無意味な答えばかり探しながら。

 今のリリアの『姉道』は月花の模造。

 リリア自身としての『姉道』は未だ見つかってはいない。


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