第196話 二人が召喚された理由

「あぁうああああああああぁぁっ!」

「…………」

「ハルぐぅぅうううん!! どうじてぇ、どうしてここにいないのぉおおおおっっ!!」

「…………」

「どうして目の前にいるのがこんな可愛げもない男なのぉ!」

「可愛げがないは余計だろうが!」


 ついに耐え切れなくなったリントが叫ぶ。その目の前にいるのは人目も気にせず大泣きしているリリアだ。

 今、リリア達がいるのは王都にある喫茶店の中。

 大事な話があるからと言われてやって来てみれば、話始めるなり大泣きするリリア。

 何事かといった様子でかなり注目を集めている。正直リントは全力で他人のふりをして逃げ出したかったが、そんなことをすれば後が恐ろしい。

 だからこうしてジッとリリアが落ち着くまで耐えていたのだ。結局最後まで耐えきることはできなかったが。


「だってあんたに可愛げがないのは事実でしょ。私に認められたいならせめてハル君と同じ容姿になってから出直すことね! それでも魂が違うから私は認めないけどね!」

「いやもうこえーよ。魂とか言い出すお前が俺は怖くてしょうがねぇよ」

「うぅ……助けてハル君、シスコン男が私をイジメる……」

「誰がシスコン男だ。っていうかやめろ。風評被害やめろ」


 周囲で聞き耳を立ててる他の客たちが、ひそひそと話ながらリントに厳しい目を送っている。

 「シスコンなんだって」「シスコンなのか……」「女性泣かせて、しかもシスコンだなんて……」「最低」「クズ」「もげればいいのに」

 などなど。聞こえてくる言葉の一部を抜粋するだけでこれだ。


「お前のせいで滅茶苦茶言われてるんだが」

「ふん、事実じゃない」

「事実じゃねーよ! ふざけんな!」

「怒った……私、怖ぃ」


 と、リリアが少し涙目を見せてみれば周囲にいる客の目がさらにきつくなる。


「それやめろ。お前、見た目は整ってるからそういうことすると効果が半端ないんだよ」

「ふっ、使えるものは何でも使うのが私の主義」

「見た目に反して性格最悪だけどな」

「失礼ね。私は性格も良いわよ」

「本当に性格良い奴はそんなこと言わねーよ」

「ふふ、女なんてみんなこんなものよ。腹の中では何を考えてるかなんてわからない。私なんてマシなほうよ」

「やめろ。夢が無くなるようなことを言うな」

「女性に夢を抱いていいのは童貞だけよ。って、あぁ、ごめんなさい。あなたは童貞だったわね」

「殺すぞてめぇ!」

「怖い怖い」

「ちっ、あぁもう。お前をまともに相手してたらキリがねぇ。いいからさっさと用件話せよ」

「用件?」

「大事な話があるって言って呼び出したのおまえだろうが」

「あぁ、そう言えばそんなこと言ったわね」

「そんなことってなぁ……」

「別に特にこれと言って用はなかったんだけど、こういえば来てくれるかと思って」

「はぁ!?」

「まぁ悪かったと思ってるわよ」


 まったく悪びれる様子もなく謝るリリア。

 そんなリリアにリントはあんぐり口を開けることしかできなかった。


「お前……マジか」

「女の我儘を笑って受け入れるのも良い男の条件よ」

「それでこの理不尽が許されると思うなよお前……」

「だから謝ってるじゃない。ここも私が奢るから安心なさいな」

「そういう問題でもねぇんだけどな。え、マジでなんの話もないのか?」

「ないわけでもないわよ」

「どっちなんだよ」

「まぁ、もちろん話の内容はハル君に関することなわけだけど」

「だろうな」

「あなたの妹に関することでもあるわ」

「アキラに?」

「えぇ。まさに今日の朝ハル君達が帝国へと旅立ったわけなんだけど、少し引っかかってることがあるのよ」

「?」

「まぁ、考えすぎってこともあるかもしれないけど。なんであなたの妹が一緒に行かなきゃいけないのかって話。《勇者》に選ばれたのはハル君だったのに」

「それはだから、あいつも《勇者》に選ばれたからで」

「あの子はこの世界の子じゃない。召喚されて《勇者》の職業が与えられた。あなたも職業を貰ったでしょ?」

「まぁ、いちおうな」

「そもそもの話。なんであなた達をこの世界に召喚する必要があったのか。私はそれがわからない。この世界には差し迫った危機なんてありはしない。むしろ平和な方よ」


 《魔王》が生まれれば《勇者》が生まれる。この世界はそういうシステムが組み込まれている。つまり、順当にいけば今回生まれた《魔王》はハルトだけで対処できるのだ。

 そのうえ、他の《勇者》の存在もある。今の世界で何かを起こすのはそう簡単なことではない。


「ま、そうは言っても前回みたいな王都襲撃はあったりするからなんとも言えないけど」

「確かにな。でもお前の言いたいこともなんとなくわかる。この世界は根本的に……俺達を必要としていない」


 極端な話、リントもアキラもいなくて困るということはないのだ。ましてやそれで世界が滅ぶなんて言うこともあり得ない。


「ミスラの話を聞く限り、私が知らない聞きがこの国に、世界に迫っているとも思えない。他の王族にそこまでの危機感があるとは思えない」

「自分の国の王に対して酷い言いようだなおい」

「でも事実よ。この国の王ははっきり言って頼りにならない。ミスラみたいな子がいるのが奇跡ね」

「俺からはノーコメントで。でも、とりあえずお前の言いたいことはなんとなく理解した。つまり、俺達が召喚されたのは何か他の目的があるんじゃないかってことだな」

「そういうこと。そこに合わせて今回の帝国行きへの同行の話。疑うなという方が無理でしょう」

「んー、でも何があるってんだよ」

「それは知らないわ。言ったでしょ。考えすぎかもしれないって。でも、帝国とこの国の王族が何か企んでる可能性はある」

「……何か、ねぇ」

「ま、今の私達が気にしてもしょうがないことだけど」

「おい」

「事実でしょ。あなたも私も帝国には行けない。あの子達の後を追いかけれない。私が冒険者としてのランクを上げない限りはね」

「……つまり、気になるならもっと手伝えってことか?」

「そう聞こえた?」

「そうとしか聞こえねーよ。でもまぁ、わかった。俺もそこまで言われたら気になるしな。やってやるよ」

「よく言ったわ。そうと決まれば、行きましょうか。実はもう依頼は見つくろってあるのよ」

「俺が協力することは織り込み済みかよ」

「どうあっても協力はしてもらうつもりだったもの。私もなんか胸騒ぎがするの。だから急いでランクを上げたい。今日から受ける依頼は前までよりもさらに難しくなってるらしいから、覚悟しときなさい」

「へいへい。できるだけ努力はするよ」


 こうしてリリアとリントも、帝国行きへ向けて急ぎ始めるのだった。


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