第197話 魔物といえど
「せぁっ!!」
「グォオオオオオオオ……」
リリアの強烈な蹴撃でオーガが完全に沈黙する。
帝国へ向かったハルト達を追いかけるために、多くの依頼を受ける必要があった。
そのためにリリアは少しでも難易度の高い依頼を受ける必要があった。そして受けたのがオーガ討伐。C級に昇格したばかりのリリアにとっては厳しい相手……のはずだった。
「うーん。なんかやっぱりもの足りないのよね」
「オーガを蹴り倒しといて物足りないって……マジかよお前」
リントの魔法でオーガを見つけたリリアは、罠を仕掛けようというリントの言葉を無視して正面から攻撃を仕掛けた。
オーガは頭脳こそ劣っているものの、その力については魔物の中でも上位に分類される。
普通であればC級に上がりたての冒険者が相手にする魔物ではない。しかし、リリアは決して普通の冒険者ではなかった。
オーガの驚異的な膂力から繰り出される一撃を正面から受けきり、逆に殴り返す。
三メートルは超えようかという巨体との真正面からの殴り合い。
正気の人間に行える所業ではなかった。
そしてたった今、唖然とするリントの目の前でリリアはオーガを蹴り倒した。
あっという間の出来事だった。
「オーガって普通殴り合うような相手じゃねーだろ。それこそ魔法で一気に焼くとか、隙をついて剣で急所を斬るとか。そういうもんだ」
「そんな普通なんて知らないわ。私は私のやり方で倒す。それに前に戦ったカイザーコングほどじゃないもの。あのカイザーコングの一撃はオーガの比なんかじゃないくらい重かったわ」
「カイザーコングってお前……あぁ、ダメだ。お前といると常識ってものが崩れる気がする」
「……というか、こっちこそ不思議なんだけど」
「あ? なにがだよ」
「あなたがこの世界に来てから日が浅いのに魔物の倒し方を知ってたりすること。前まであんまり意識してなかったけど、普通に考えておかしくない? 日本にいたらそんなの知る機会はないし」
「あぁそのことな。うーん、前にもチラッと言った気がするけど、俺にとってこれは初めての異世界転移じゃないんだ。むしろ何度か巻き込まれてるくらいで。んで、その時魔物と戦う必要があったから覚えたんだ。そんで、いくつか世界を回ってるうちに知ったんだけどな、魔物って細かい違いはあるけどどの世界も基本的には一緒にみたいなんだよ」
「へぇ、そうなのね。地球には魔物なんていなかったのに」
「それは俺も気になるけどな。案外俺らが知らなかっただけでいたりしてな」
「それこそまさかよ。そんな漫画みたいなことがあるはずないでしょう」
「いや、こうやって異世界に転移してきてるのもお前みたいに転生してるのも十分漫画みたいなんだが」
「それはそれ。これはこれ」
「都合の良い言葉だなおい」
「まぁでもそういう事情ならとりあえず納得しとくわ。使えるならそれで問題ないし。今日はオーガを倒したし、後は適当に片付けましょうか」
「あぁ、そうだなって……ん?」
何かが木々をなぎ倒しながら近づいて来る気配を察知したリントはその方向へ目を向ける。
同じくリリアもその気配をすでに察したようで、注意深く目を向けている。
「この気配……オーガ?」
「おいおい。依頼のオーガは一体じゃなかったのか?」
「私もそう聞いてたけど……っ、来るわよ」
「グルォオオオオオオッッ!!」
空気をビリビリと震わせる咆哮と共に、木をなぎ倒してオーガが姿を見せる。しかしそのオーガは尋常ではない様子で、殺気に満ちていた。
「怒り狂ってるって感じね」
「しかもさっきのオーガより一回りはでかいぞ」
「…………」
オーガの様子が普通ではないと感じたリリアは【姉眼】を発動してオーガを見る。
「あ……」
「どうした?」
オーガの頭上にあったのは『オーガ (姉)』の表記。
それを見た瞬間にリリアはオーガが怒り狂う理由を全て理解した。
「なるほど、種族は違っても姉弟愛は同じってわけね。そういう理由ならあなたが怒り狂うのもわからないでもないわ」
「なに言ってんだ?」
「なんでもないわ。あのオーガの相手は私がする」
「連戦だけど大丈夫なのか?」
「問題ないわ。それになにより、あのオーガは私が相手をしないといけないから」
「どういうことだよ」
「こっちの話よ。まぁ、それが魔物相手であっても筋というものでしょうし。大丈夫よ。すぐに終わるから」
同じ姉として、たとえ魔物でもその怒りは自身が受け止めるべきだとリリアは判断した。
「魔物にも姉弟の情がある。そのことはしっかり覚えておくわ。そして安心しなさい。あなたもすぐに弟と再会させてあげる。この私がね」
「事情はよくわからんけど、思いっきり悪役の台詞だからな、それ」
「ふふ、誰かの正義は誰かの悪。そういうものよ。人間でも魔物でもね。そういうことなんでしょ」
そしてリリアは再びオーガに戦いを挑んだ。
その結果は言うまでもなく、リリア達は依頼を完遂するのだった。
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