最強のキョウダイ

第191話 一日は一年

　夕方前、リリアとリントは全部の依頼を終えて王都へと戻って来ていた。

　依頼の達成報告を終え、報酬を受け取ったリリアの手には真新しい冒険者カードが握られていた。

「ふふふっ♪」

「ずいぶんと上機嫌だな」

「そりゃそうよ。見て見なさいこの冒険者カードを。私がC級に上がった証。つまり、私の実力がまた一つ認められたってことだもの」

「まぁ確かにそうなのかもしれないけどな。ギルドでも異例の速さでも昇格だって言われてたし」

「実力さえあれば上がるのは簡単らしいわよ」

「その実力を身に着けるのが大変なんだろ。大抵の人は冒険者になってから地道に学んで実力をつけていく。冒険者になる前から死線をくぐるような真似を繰り返す奴なんてほとんどいねーよ」

「確かに。それは言えてるかもしれないわね」

　冒険者でなくとも実力者は多くいる。しかし、そうしたものの大半はどこかに雇われていたり別の仕事をしていたりしてわざわざ危険な冒険者になる者はいないのだ。

　リリアのような例は非常に特殊であると言える。

「まぁでも、私の名が上がること自体はいいことなのよ。指名依頼が来るかもしれないしね」

「あぁ、確かにその可能性があるのか」

　指名依頼とはそのままの意味で、依頼主が冒険者を指定して依頼を出すことだ。

　名を上げている冒険者ほど選ばれやすく、そしてなによりも報酬が普通の依頼よりも豪華なことが多い。

　危険度の高い依頼や後ろ暗い依頼もあるが、その分見返りが大きいのが指名依頼の特徴だ。

「そのうち私にも指名依頼が来たりしてね」

「さすがにそれは……」

　ない、と言いたかったリントだが、今のリリアの勢いを見れば可能性はゼロではなかった。

　美しく、実力もある。すでにリリアは有名になり始めているのだ。決してあり得ないとは言い切れなくなっていた。

「もし万が一指名依頼が来たとしても、変な依頼は受けないことだな」

「もちろんよ。私は綺麗だから狙われる可能性もあるしね」

「それを自分で言うか」

「事実でしょ」

「俺がそれを認めたら負けな気がする」

「ふっ、童貞の意地ってやつね」

「童貞言うな！」

「何度もツッコみして疲れない？」

「じゃあツッコまないといけないようなこと言うなよ！」

「無視すればいいのに。まぁ無視したらしばくけど」

「横暴か！」

「主人公体質って奴よね。どっかにあなたのヒロイン転がってんじゃない？」

「そんな物みたいな言い方するなよ。はぁ、お前といると本当に疲れる」

「あら、私は案外楽しんでるわよ。あなたで遊ぶの」

「そこはあなた“と”であってほしかったな。まぁいいや。それじゃあ俺はもう帰るよ。この後予定あるんだろ？」

「えぇ、ハル君とね。明日からハル君が帝国に行ってしまうわけだし。その前に思い出作っておかないと」

「思い出って、今生の別れってわけでもないだろうに」

「ハル君と一日会えないっていうのはね、他の人と一年会えないに等しいのよ」

「じゃあ一週間会えなかったら七年会えないって感覚なのか？」

「そうね」

「いやあり得ねぇだろ。どんな感覚してんだお前」

「わからないでしょうねこの苦しみは。ハル君と出会って私は一日千秋という言葉の本当の意味がわかったわ」

「どんな理解の仕方だ。ダメだ、これ以上お前の話に付き合ってたら頭が痛くなる」

「むしろ今まで頭が痛くなってなかったのね」

「自覚あるとか最悪だなお前。とにかく、もう俺は帰るからな」

「リント」

「んだよ」

「今日はあなたのおかげで助かったわ。ありがとう」

「……おう」

「またこき使わせてもらうわ」

「その一言が余計なんだよおめーは！」

　ぶつくさと文句を言いながら去って行くリントを見送り、リリアはハルトとの待ち合わせ場所へと向かうのだった。