第187話 森の次は山へ

「はいというわけで、やってきました森の次は山でーす!」

「いや、なんでそんなにテンション高いんだよ」

「そりゃテンションも上がるでしょ。今日の依頼が終わったらランクアップなんだから。討伐できる魔物も強くなって私はウキウキ、さらに報酬もウマウマ。テンション上がらない理由がないわ」


 手をワキワキさせながらそう言うリリアにリントはもはや何度目からわからないため息を吐く。


「まぁそういうやつだよなぁお前は。普通は戦う魔物が強くなるって嫌なんだけどな」

「強い魔物と戦えればそれだけ実力をつけることができる。それの何が嫌なのかしら」

「強い魔物と戦うってことはそれだけ命を懸けることになるからだろ。まともな神経してたら好き好んで命かけたいと思わねーよ」

「まるで私がまともじゃないみたいな言い方ね。私はただハル君のために強くなりたいだけなのに」

「いや、今でも十分強いだろ。これ以上強さを求めてどうするんだよ」

「何言ってるのよ。上には上がいる。最強に至ったわけでもないのに慢心するのは愚か者のすることよ。あなたの方こそ強くならなくていいの? もっと魔法の研鑽とかすることいくらでもあるでしょ」

「いやまぁそうなんだけどな」

「はぁ、やる気のないことね。そんなんじゃいつか後悔することになるわよ。私はできることもせずに後悔したくない。そのためにも最強を目指す。一番を目指す。それに」

「それに?」

「こう……嫌な予感がするのよ。確信があるわけじゃないけど……姉の知らせってやつかしら」

「姉の知らせってなんだよ。そこは虫の知らせだろ」

「虫嫌いだもの。それに私は姉だから。姉の知らせで合ってるの」

「わけわかんねぇ……」

「そんなことはどうでもいいの。それよりちゃんと探してるわけ?」

「ちゃんと探してるよ。ヒカリゴケだろ。この山にしか生えてないらしいけど」

「早くしてよね。夕方までには終わらせたいから」

「なんかあるのか?」

「今日はハル君とご飯食べに行く約束してるの♪ だからほらキリキリ働け」

「ムカつくなぁお前……」

「ふふん♪ 褒め言葉として受け取っておくわ」

「全然褒めてねぇよ!」


 リリアが受けた七つの依頼のうち、討伐が三つ、採取が四つだった。

 依頼において、危険度が高いのは討伐依頼。時間がかかるのは採取依頼だ。しかし、リリアにはリントがいる。リントの持つ魔法の力があれば、採取対象を容易く見つけることができる。

 そして討伐依頼はリリアがいる。少なくともD級程度の依頼であれば、リリアに負ける要素は無かった。

 この山に来るまでの道中で討伐依頼三つのうち、二つはこなした。

 そして採取対象は全てこの山の中にあり、最後の討伐対象もこの山にいる。後はリントが見つけるのも待つだけというイージーモード。

 だからこそリリアはお気楽に山の中の散歩を楽しんでいた。


「それにしてもいい天気ねー。サンドイッチとか欲しくなるくらい」

「サンドイッチってお前、完全にピクニック気分かよ」

「ねぇあなたの魔法でなんとかできないの? 持ち運びとか」

「まぁできなくはない……というかできるけど。それが?」

「じゃあ決まりね。次は食事の用意もしましょう。荷物持ちは任せるわね」

「なんかお前の中でどんどん俺の立ち位置が悪くなってる気がする」

「失礼ね、そんなことないわよ。大事な友人だと思ってるわ」

「お前の態度が友人に対するソレじゃねぇんだよ」

「こーんな美少女に友人に認定されて不満だなんて。我儘ねぇ」

「自分で美少女言うな」

「事実でしょう? ハル君の姉として相応しくあるために容姿には気を遣っているもの。肌も髪も体も、全てを完璧に。ほら、やっぱり綺麗なお姉ちゃんの方が嬉しいじゃない?」

「お前は容姿の前に正確なんとかしろよ。その性格じゃ容姿がいくら良くても意味ないだろ」

「へぇ」

「なんだよ」

「私の容姿が良いことは認めるのね」

「んなっ!?」

「まぁ、あなたにどう思われてもどうでもいいんだけど。童貞みたいな反応ね」

「ど、童貞言うな! お前なぁ、なんか最初の頃と性格変わってねーか? どんどん下品になってるぞ」

「下品とはまた失礼な……んー、でもそうね。あなたといると少しだけ言葉が緩くなってるのかもしれないわ。少し気を付けるわ」


 リントといるとつい前世の高校生男子の時のノリを思い出してしまう。その結果普段のリリアであれば言わないようなことを言ってしまうのだ。


「ところでどうなの? 最近妹さんは」

「アキラか? んー、まぁ頑張ってるよ。そもそもこっちの世界に呼ばれたのはあいつだからな。元の世界に帰るために必死で頑張ってる。そのおかげか知らないけど成長も早い。前にあのガドとか言う魔族と戦ったのもでかいかもな。あの時何もできなかったって後悔してたから。前以上に真剣に取り組んでるよ」

「へぇいい傾向じゃない。命の危機を感じてようやく真剣になったってわけね」

「まぁそういうことだな。俺にも経験があるからわかるよ」

「でも一度そういう経験をしたら成長は早いものよ。これからが楽しみね」

「あぁそうなんだがなぁ」

「何か問題があるの?」

「お前、何も聞いてないのか?」

「何もって?」

「あぁ、その分じゃマジで聞いてないみたいだな。いや、俺もつい先日聞いたばっかなんだけど」

「だから何よ」

「帝国。お前弟が行くんだろ?」

「えぇ。明日出発の予定よ。だから今日ハル君とご飯食べに行くんだけど」

「その帝国行きに、妹も……アキラも同行することになった」

「……はい?」


 思わぬ言葉に、リリアは目を点にした。




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