第186話 依頼の取り方

 リリアが冒険者になってから一週間が過ぎていた。

 この一週間の間、リリアはハルトとの訓練の傍ら冒険者としての依頼を淡々とこなし続けていた。

 その依頼は実に多岐にわたる。初日に行った薬草採取やオーク討伐はもちろんのこと、王都の住人の失せ物探し。ペット探しなどなど。

 何でも屋、という冒険者の別名に違わないほど多種多様な依頼をリリアは受けていた。

 冒険者とは低級であれば低級であるほど依頼の量が多い。しかしそれと同時に、冒険者の人数も多い。

 つまり、依頼は基本的に奪い合いになる。

 その熾烈な奪い合いが行われるのは基本的に朝。つまり朝の段階で良い依頼を手に入れることができなければ必然的に残るのは報酬の旨味が少ない依頼か、逆に冒険者のランクに見合わない危険な物。そのどちらかになる。

 依頼事態は随時追加されるのだが、常に目を光らせている冒険者がいるために手に入れられる可能性は低い。

 そして当然リリアも未だ低級冒険者として多くの冒険者と依頼を奪い合う立場にある。

 しかし、リリアの依頼の奪い方は一風変わった方法だった。


「“ひれ伏しなさい”」

「「「うぎゃぁああああああっっ!」」」


 リリアの前方にいた冒険者達が軒並み倒れ伏す。

 もちろんリリアの『姉力』を使ったスキルの効果だ。ゴブリン達を押しつぶした【姉圧壊】よりも一段壊威力を落とした【姉圧】。

 この数日間でリリアが会得したものだった。


「やっぱり便利ね、これ」

「便利ね、じゃないだろ。何してるか知らんけど、明らかに大丈夫じゃないだろこれ」


 魔法学園が休日ということもあって、リリアの手伝いをすることになったリントは一緒に冒険者ギルドにやってきていた。

 容赦なく冒険者を押しつぶしたリリアのことを呆れた目で見つめる。


「大丈夫よ。いつもやってることだもの」

「いつもって、お前いつもこんなに乱暴なことしてんのかよ」

「冒険者は依頼が命。奪い合うところから勝負は始まってるのよ」

「だからってなぁ」

「うだうだ言ってないでさっさと依頼見なさいよ。あ、これなんかいいんじゃない? ゴブリンの——」

「ゴブリンは止めてくれ」


 以前のトラウマがまだ若干残っているリントは即座にゴブリンの依頼を却下する。


「はぁ、我儘ね。こっちはハル君と一緒にいるのも我慢してあんたと一緒にいるのに」

「我慢ってなぁ……」

「じゃあ適当に報酬が良さそうなものだけ見繕いましょうか」

「うぐぐ……この竜撃娘がぁ……」

「邪魔」

「うがっ!」

「踏むなよ!」

「大丈夫よ。これもいつものことだから」

「それならだいじょ——ぶなわけあるか!!」


 リントがよく見れば、リリアに踏まれた男は若干嬉しそうな表情をしている。

 まさかリリアに踏まれるためにわざと……と、そこまで考えてリントは止めた。


「まぁなんでもいいけど。とりあえず一日でこなせそうな量を……今日はリントもいるし、倍……いや、三倍はいける?」

「お前マジで言ってるのか?」

「マジもマジ。大マジ。今日の依頼をこなせばランクが上がるはずだもの」

「そうなのか?」

「そうでしょレフィールさん」

「……えぇ。そうですね。確かにD級からC級に上がります」

「あれ、リリアってE級なんじゃ」

「あぁ、言ってなかったわね。最初の依頼で私のランク上がってたのよ」

「最初って、あの初日の依頼で?」

「はい。オーネスさんにはそれだけの力量があると、ギルドマスターが判断されました」

「へぇ、一日で昇格とかすごいじゃないか」

「力量を認めてくれるならもっと上に上げてくれればいいのに」

「そこまでさすがにできません。飛び級は無しです。EからDになっただけでも異例なんですから」

「はぁ、まぁ私もそこまで我儘を言うつもりはないけど。はい、とにかく今日はこの依頼を受けるわ」

「……オーネスさん。数を間違えていませんか? 私の目には依頼が七つあるように見えるんですけど」

「目には問題ないわね。私の目にも七つに見えてるから」

「……俺の目にもそう見える」


 レフィールは差し出された七つの依頼を前に、頭痛がしたのかこめかみを押さえる。


「あのですねオーネスさん。普通の冒険者は、一日に二つの依頼をこなすのが限界です。それを七つだなんて」

「あら、おかしいわね。初日に冒険者初心者の私に三つの依頼を押し付けて来た受付嬢さんがいるんだけど」

「うぐっ……」

「とにかく、私はこなせる依頼しか選んでないわ。今日はリントもいるし。何一つ問題ないわ」

「はぁ、わかりました。処理はします。ですが、無茶はしないことです。いいですね。もし危ないと判断したらすぐに諦めること。功績を急くあまり死んでしまう人は多いんです」

「えぇ、もちろんです。命を無駄にはしません。死ぬときはハル君の腕の中と決めてるので」

「なんですかそれは……まぁ、命を大事にするというならなんでも構いませんが」

「それじゃあ……“もういいわよ”」


 リリアの言葉と共に、それまで地に伏していた冒険者達が解放される。


「それじゃあみなさん、頑張ってくださいね」

「「「うるせーーーーっっ!!」」」

「あはははははは!」


 冒険者達の怒りの言葉を高らかに笑い飛ばしながら、リリアはリントと共に依頼へと向かうのだった。


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