第182話 生まれる感情

 リリアがリントと食事をしているちょうどその頃、ハルトもリオン、イルの二人と一緒に神殿の食堂へとやって来ていた。


「…………」

「どうしたんだハルト。そんなに周囲をキョロキョロして」

「いや、そういえば姉さんの姿が見えないなーと思って。いつもならいつでもどこでも出てくるから」

「そう言えばそうじゃのー。何やらバタバタと出て行ったらしいが……それ以降姿を見ておらんの」

「うん。どこに行っただろうと思って」

「さぁなー。あいつのことだからそのうちほっといてもひょっこり出てくんだろ。それより早く座らないと席無くなるぞ」

「あ、うん」


 夕食時。神殿の食堂は混む。非常に混む。当たり前のことだが、たとえハルトとイルが《勇者》と《聖女》だからと言って優遇されることはないのだ。

 食事を手に持ったハルト達が、座る席を探していると遠くからハルト達のことを呼ぶ声がした。


「みなさん! こちらへどうぞー!」

「あれは……パールさん!」

「こちらの席が空いてますよー!」

 

 パールの元まで行くと、全員が座れるだけの席が確保してあった。

 どうやらハルト達の姿を見つけたパールが事前に確保しておいてくれたらしい。


「ありがとうございますパールさん」

「いえ。確保していたのが無駄にならなくてよかったです」

「ありがとな」

「助かるのじゃ」

「パールさんはもう仕事が終わったですか?」

「いえ、今は休憩中です。これから本番なので、しっかり食べて元気つけないと! って感じです」

「そうだったんですね。すみません、休憩中なのにこっちに気を回してもらって」

「いえ、私はハルト様のお世話役ですから。最近は仕事が忙しくてなかなか一緒にいることはできてませんけど」

「仕事が忙しいのは仕方のないことですから、気にしないでください

「そう言っていただけると嬉しいです。あ、そういえば今日街の方でリリア様の姿をみかけましたよ」

「え、それいつですか?」

「ついさっき用で外に出ていて。神殿に戻って来る最中のことですよ」

「うむ? あやつ街の方で何をしておるんじゃ?」

「それは私にもわかりませんけど。あ、でも男性の方と一緒でしたよ。同い年くらいの」

「「「男と!?」」」


 思いもよらぬ言葉にハルトもイルもリオンも思わず仰天してしまった。


「そ、それ本当ですか!」

「嘘じゃねぇだろうな!」

「あのリリアじゃぞ!」

「は、はい……ほ、本当です。見間違いじゃないですよ。リリア様ほど目立つ方を見間違えるはずがありません。遠目でしたけど、楽しそうにお話をされながらレストランに入って行くのを見ました」

「あのリリアが……男と楽しそうに話じゃと?」

「ありえねぇ。想像もできねぇぞ。まだそっくりさんだって方が納得できる」

「…………」


 パールの話に衝撃を受けるリリアとイルだが、ハルトの受けた衝撃は二人以上だった。


(あの姉さんが……男の人と?)


「まぁ、リリアも年頃の女子じゃからのう。そういう話があっても不思議ではないが……いやはや、意外じゃのう。いったいどこのどいつじゃ?」

「あんがい普通の男だったりしてな……ん? どうしたんだよハルト」

「う、ううん。なんでも……」


 リリアが知らない男の人と一緒にいる。

 そう聞いた瞬間、胸の内に湧いたモヤモヤとした感情。

 その理由にハルトはまだ気付いていなかった。








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 ちょうどその頃、学園の寮にいたアキラもまたリントの話を聞いて仰天していた。


「えぇ!? 兄さんが女の人と一緒にいたぁ!?」


 クラスメイトが話しているのを聞いたアキラは驚きを隠そうともしなかった。


「う、うん。聞いた話なんだけどね。職員塔の方に女の人が来て、先生と一緒に出て行ったって」

「それでついさっきね、他の子がレストランに入ってく先生の姿を見たって」

「あの兄さん……こっちに来てからは大人しくしてると思ってたのにまた……はぁ」

「どうしたのアキラ?」

「あ、フブキ。兄さんが女の子と一緒に居たらしくて」

「先生が? それがどうかしたの? 先生も十七歳でしょ。普通のことだと思うけど」

「でも兄さんは……いやでもあれほとんど無自覚だしなぁ。また変なことになる前になんとかしないと」

「ねぇ、先生が一緒に居たのってどんな人なの?」

「うーん、私は詳しく聞いてないから」

「あ、金髪の女の人だったよ! チラッと見ただけだったけど、ものすっっっっごく美人な人だった!」

「金髪の美人……先生の知り合い。それって」

「もしかして……」


 アキラとフブキの脳裏に過る一人の女性の姿。

 思い当たる人物など一人しかいなかった。


「「リリアさん?!」」


 二人の驚く声が学園の寮内に響き渡った。


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