第181話 地球での話

 レストランに入ったリリアとリントはそれぞれ料理を注文した後、本題に入ろうとしていた。


「というわけで、お互いに料理の注文もし終わったわけだし。来るまで時間かかるでしょうからあなたの話を聞いてあげる」

「聞いてあげるってなぁ……ずいぶん上からだな」

「じゃあ下手に出ればいい? 私の話をどうぞ聞いてくださいって?」

「極端な奴だなほんとに……はぁ。まぁいいや。それじゃあもう面倒だから直球で聞くけど、お前俺達の世界のこと……地球のこと知ってるよな」


 それこそがリントがずっと聞きたかったこと。スマホのことを知っていたり、ゲームや映画の話を持ち出したりなど疑わせる素養はいくらでもあった。

 もしリリアが本気で隠そうとしてたのならばリントも直接聞くような真似は控えたのかもしれないが、今日の態度でリントは確信した。

 最早リリアは隠そうとしていないと。

 そしてそんなリントの考えは正しかった。


「えぇ。知っているわ。だって、私も昔は地球に住んでいたもの」

「やっぱりか……」

「本当に久しぶりにスマホを見て、反応してしまったのが最大の過ちだったわね。まぁあれだけならいくらでも誤魔化すことはできたし、最初はそうしようと思ってたんだけど」

「なんで急に気が変わったんだよ」

「別に深い理由はないわよ。ただ別に積極的に隠す必要のある秘密ではないと思っただけ。バレないならそれでよし。バレたとしたら、あなただけで抑えればそれでよし。逆に下手に隠そうとして詮索されて他の人にバレたりする方が面倒だと思ったのよ。それならさっさとあなたの質問に答えて、詮索されないようにした方がいいでしょう?」

「まぁそれは確かに……って、その言い方だと俺が滅茶苦茶嫌な奴じゃねぇか。別に話さないなら話さないで無茶に詮索しようとはしねーよ」

「そう? じゃあ今日はこれで」

「いやいや待て待て! ここで終わりは無しだろ!」

「でももう話したじゃない。昔は地球に住んでたって。あなたの疑問はそれで解消されたはずでしょ」

「そうとも言えるけど。他にもっと色々あるだろ。ほら、その……色々と!」

「その色々の内容が出てこないあたり語彙の無さが如実に表れてるわね」

「うぐ、悪かったな」

「ふふ、冗談よ。さすがにここまで言ってはい終わり、なんてことはしないわ。私も聞きたいことはあるわけだし」

「なんだよ聞きたいことって」

「それはあなたの話が終わってからでいいわ。それで、あなたの聞きたいことの続きは?」

「いやまぁ、大したことじゃないけど。俺とアキラはいわゆる転移ってやつだけど、お前はどうなんだ?」

「そのたぐいで言うなら私は転生ね。地球で死んだときの記憶もばっちり残ってるし」

「死んだ記憶ってお前……」

「別にもう昔のことだから気にしてないわよ。今はこうしてここで生きてるわけだし。まぁなんでこの世界に来たかなんて全くわからないわけだけど」

「そうなのか?」

「普通そういうものじゃないの?」

「いや、転生のことはよくわからないけど……俺達みたいな転移の場合はこっちに来る前に確実に神様……なのか? あれは。あれを神様だとは思いたくないけど。そんな感じの存在に会うからな」

「神様だと思いたくない神様って何よそれ」

「あれは神の皮を被った悪魔だ。性格最悪の。なんでも母さんにも昔ちょっかい出してたらしいけど……まぁ詳しくは知らない。母さんもその時のことは話したがらないし。んで、今は俺が最悪なことに気に入られて、玩具にされてるってわけだ」

「それはまぁなんというか……災難ね」

「災難なんてレベルじゃねぇよ。早いとこ俺に飽きて欲しい。そんで平穏な生活送りたい」

「この現状を見る限りしばらくは無理そうね」

「言うな。痛感してることだから」

「それはごめんなさい。それにやっぱりいるのね。神様って」

「あぁ。普通にいるぞ。この世界にもな。普通に会ったし」

「……あなた今さらっととんでもないこと言ったわね。その神ってやっぱり職業神カミナ様?」

「そんな感じの名前だったぞ」

「そう……会ったのね。カミナ様に」

「苦労人って感じの女神様だったけど……それがどうかしたのか?」

「別に。ただ一言文句言ってやりたいだけよ」

「文句?」

「いえ、気にしないで。あなたに会うまで私の人生は波乱万丈だと思ってたけど、あなたの方がよっぽどすごそうね」

「代わって欲しいなら代わってやるぞ」

「それは結構です。こういうのは傍目で見てるのが一番面白いのよ」

「あの神と同じようなこと言うなよ。って、俺の話はどうでもいいんだよ。ちなみに前世の名前とかは……」

「それは言う必要を感じないわね。たとえ地球で住んでた記憶があったって、今の私はリリア・オーネス。それ以外の何者でもないんだから」

「まぁそうだよな。悪い」

「ううん。気にしないで。それで、他に聞きたいことは?」

「そうだな……一つある」

「どうぞ」

「帰りたいとは思わないのか?」

「それは地球にってこと?」

「あぁ。こうやって俺がこっちの世界に来れるくらいだし、たぶん帰ろうと思えば帰れると思うぞ。安易なことは言えないけど」

「……それはないわね。帰りたいって気持ちはないわ。この世界には家族もいる。何よりハル君がいるから。でも……」


 そこでいったんリリアは言葉を区切った。

 今さら地球に帰ろうとは思わない。その気持ちに嘘はない。帰ったところで家族もいない。姿も違う。まともに生活ができるとは思えないからだ。

 ただ気にかかることが一つだけあった。


「姉さんの……家族のお墓に、最後に一度だけ行きたいかもしれない。別れを告げるために。その余裕すらないままに、こっちの世界に来てしまったから」

「家族の……」

「ごめんなさい。変なことを言ったわ。とにかく、帰るつもりはないわ。それが私の答え」

「そうか。ならいいんだけどな」

「あなたはいずれ帰るんでしょう?」

「あぁ。この世界での目的を果たしたらな。それがいつになるかはわからないけど」

「早く終わるといいわね」

「そうだな」

「彼女でもいるの?」

「ぶっ!! ゴホッゴホッ、な、何言い出すんだよ急に!」

「いないの?」

「いねぇよ! 悪いか!」

「別に悪いとは言ってないけど。まぁそりゃそうよね。あなたシスコンだし」

「だからシスコンじゃねぇ!」


 予想通りの反応を返してくれるリントを見てリリアはクスクスと笑う。

 それとほぼ同じタイミングで、二人の料理が運ばれてきた。


「お待たせいたしました」

「ありがとう。それじゃあ食べましょうか」

「ほんとがっつり肉だなお前」

「お腹空いてるもの。それより、せっかくだから地球での話でも聞かせてよ」

「はぁ、別にいいけどよ。何が聞きたいんだよ」

「そうね、それじゃあアニメとか漫画の話でもしましょうか」


 そして、それから二人はしばらくの間地球での話に花を咲かせるのだった。




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