第175話 仲間集め

「はぁ、今日はいい天気だなぁ……」


 リントは職員塔の一室でゆったりお茶を飲みながら空を眺めていた。


「今日は授業も休み。いつもうるさい生徒達もいない。こんな日は日頃の疲れを癒すために茶菓子食いながらのんびりするに限る」


 魔法学園の非常勤講師として教鞭をとっているリントだが、元は地球の高校生。17歳の少年だ。大学に行って教員になるための授業を受けたわけでもない。

 そんなリントが授業をしろなどと、無茶ぶり以外の何ものでもなかった。


「アキラに巻き込まれてこっちの世界に来たけど、ちょっと魔法使えるからって無茶ぶりが過ぎるよなぁ」


 妹のアキラがこの世界に召喚される際、近くにいたリントも巻き込まれてしまったのだ。

 いわゆる、巻き込まれて異世界召喚である。

 だが、幸いと言えたのはリントにとって異世界召喚は今回が初めてでは無かったということだ。これまでに何度か異世界召喚をされたリントはそのたびに無茶を押し付けられ、なんとか生き抜いてきた。


「まぁ、巻き込まれての召喚は初めてだったけどな。それに、いまいちこの世界に呼ばれた目的も見えないしなぁ。《勇者》はリリアの弟がいるみたいだし。アキラは本当に必要だったのか? うーん、わからん! 考えてもわかんないことは考えない! 父さんも細かいことは考えるなって言ってたし。なるようになるだろ。それより今はのんびりゆっくりと——」

「お邪魔します!」

「ぶっ!」


 不意に聞こえた声にリントは思わず口の中に含んでいたお茶を吹き出す。

 しかし部屋に入って来た当人はそんなことも気にせずズカズカとリントに近づいて来る。


「あ、リントいた」

「リ、リリア? お前なんでここに」

「何って、用があったからだけど。あなたに」

「俺に? アキラでもフラガさんでもなくて?」

「えぇ、あなたよ。フブキに用があるなら直接あの子に寮に行くし」

「いや、それもそうなのかもしれないけど。急にどうしたんだよ」


 王都襲撃の騒動以来、リントはリリアと会っていなかった。

 リリアには聞きたいこともあったので、何度か会いに行こうと思っていたのだが、仕事が忙しかったということと、タイミングがなかなか合わず行くことができなかったのだ。


「ずいぶんくたびれた様子ね。中年サラリーマンみたい」

「サラリーマンってなぁ……いや、待て。おいリリア。この世界にサラリーマンはいないぞ」

「あ」

「あ、じゃねー! お前やっぱり俺と同じ世界から」

「さぁなんのことかしら。さらりーまん? 初めて聞く言葉ね」

「てめぇこの野郎。しらきりやがって」

「ふっ、私は野郎じゃないもの」

「はぁ、もういい。そのことは後でしっかり追及してやる。それで、お前は俺に何の用なんだ? っていうかどうやってここまで来たんだよ。生徒と教員以外立ち位置禁止のはずだぞ」

「教員の人にリントに会いに来たって言ったらあっさり入れてくれたわよ。ご丁寧にいる場所まで教えてくれて」

「おいおい、そんなガバガバでいいのかよ」

「リントの話をした時なんかニヤニヤしてたから、もしかしたら不愉快な勘違いでもされたのかもね。もしそうならちゃんと訂正しておいて」

「? 不愉快な勘違いってなんだよ」

「私とあなたが恋人同士だと思われたってことよ。もしそんな勘違いされてたら死にたくなるから、ちゃんと訂正しておいてよ」

「そこまで言うか!? さすがに俺でも傷つくぞ」

「そう。それは悪かったわね。でも訂正はよろしく」

「はぁ……わかった。わかったよ」

「それであなたに用なんだけど、手伝って欲しいことがあるのよ」

「手伝って欲しいこと?」

「そう。実はね、私冒険者になったのよ」

「冒険者って、そりゃまた急だな」

「急になる必要があったからね。それでさっそく依頼を受けたんだけど、その中にゴブリンの巣の殲滅っていう依頼があったのよ」

「はぁ、それで?」

「でもゴブリンの巣って調べないと規模がわからないでしょう? 私一人じゃ無理なのよ。そこであなたの出番というわけ」

「あぁ、なるほどな。そういうことか」


 リントが王都の地下で使った空間を調べる『ソナー』の魔法。リリアはそれを目的にリントの元へやって来たのだ。


「って、待て待て。理由はわかったけどなんで俺がそれを手伝わないといけないんだよ」

「なんでって、そんな魔法を使える人で、知ってる人はあなたしかいないもの」

「いやそこは他の冒険者の人に仲間になってもらえよ。それも冒険者として必要なことだろ」

「あぁ、そういう考えもあるわね。でも私はここまで来ちゃったわけだから。その労力を無駄にしたくはないのよ」

「暴論過ぎるだろ。それに、お前を手伝うメリットが俺にはないんだが」

「それも確かに……じゃあこうしましょう。手伝ってくれたらあなたに本当のことを教えてあげる。それでどう?」

「交換条件ってわけか……まぁ確かにお前のことは気になってるけど。手伝うくらいで教えてくれるなら悪くない……のか?」

「いいじゃない。どうせ暇なんでしょ。私みたいな美少女のお願いを聞けるんだからありがたく思うべきよ」

「お前、ホントに弟以外には傲慢だよな」

「そんなつもりはないんだけど」

「自覚ないならなお最悪だな。それに俺は暇なんじゃなくて、英気を養ってるんだよ」

「つまり暇なんじゃない」

「だから……あぁ、もういい。わかった。わかったよ。手伝えばいいんだろ。その代わりちゃんと教えてもらうからな」

「はいはい。答えれることならね。さぁ、それじゃあ行きましょう」


 こうして、半ば無理やりリントを仲間にしたリリアは、ゴブリンの巣の殲滅へと向かうのだった。




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