第174話 三つの依頼

 冒険者登録を済ませたリリアは、レフィールからひと通りの注意を受けた後にさっそく依頼を一つ受けることにした。


「とりあえずオーネスさんはE級からのスタートになります。今日これからでも受けれる依頼であればこちらになりますね」


 レフィールが差し出してきたのは三つの依頼だった。

 『ゴブリンの巣殲滅』

 『薬草採取』

 『オーク討伐』

 提示された三つはどれもリリアにとっては魅力を感じない依頼だった。


「不満そうな顔ですね」

「不満と言うか……せっかく初めて受ける依頼ですから、ドラゴン討伐とかそんな感じの派手な依頼が良かったなぁなんて」

「さすがにそれは……ドラゴン討伐なんてA級やS級冒険者の方の依頼ですし。今日冒険者になったばかりのリリアさんに受けさせるわけには」

「じゃあせめてB級の依頼は……」

「ダメです。規則ですから。それにマットさんに勝てたからB級の依頼を受けれると考えたのかもしれませんが、B級の冒険者とは何も戦闘力だけで選ばれているわけではありません。判断力や知識なども含めた総合力です。それを加味すれば、今のリリアさんはまだB級にはほど遠いと言えます」

「はぁ、そうですよね」


 さすがのリリアもここでB級の依頼を受けたいという要求が通るほど甘いとは思っていなかった。


(飛び級は無しね。面倒だけど一つずつランクを上げていくしかないか。でもまぁそれもゲームみたいなものだと思えば楽しめそうかも。とりあえず今日は……)


「この三つとも受けていいですか?」

「え? ほ、本気で言ってますか?」

「もちろんです。だってほら、この三つとも依頼の場所が近いじゃないですか。だからゴブリンの巣を殲滅しにいくついでに、オークを倒して、オークを倒すついでに薬草を採取する。効率的でしょう」

「確かに効率的かもしれませんが、いくらなんでも無茶では」

「大丈夫です」

「ですが……いや、わかりました。言っても聞くタイプではないでしょうし。では手続きをしますので、少々お待ちください」


 レフィールはこの短い間にリリアの性格をなんとなく理解していた。

 下手な問答は無意味を悟り、文句をグッと堪えて手続きを済ませる。


「はい、これで手続き完了です。オーク討伐の際には証拠となる部位をお持ちください。ゴブリンの巣の殲滅は完了報告をしていただければ、こちらから人員を派遣して確認しますので」

「わかりました」

「それではご武運を。オーネスさんが無事に戻られることを祈っています」


 レフィールに見送られ、リリアとタマナは冒険者ギルドを出た。

 外はまだ日も高い時間。依頼をこなす時間はありそうだとリリアは嬉しそうに笑う。


「どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」

「だって、ようやく冒険者になれましたから。そして今から初依頼です。これでテンションが上がらないはずがないじゃないですか」

「そういうもの……なんですかね?」

「えぇ、そういうものです。まぁ、あのレフィールって人にはちょっと無茶なことを言ったかもしれませんけど」

「本当に……あんまり無茶なことはしないでくださいねリリアさん。私はこれで神殿の方に戻りますけど、リリアさんはこのまま依頼に向かうんですか?」

「えぇ。今日はもう特に予定もないので。それよりも早く依頼を終わらせて、少しでも早く冒険者ランクを上げれるようにします」


 冒険者ランクを上げる方法はいくつかレフィールから教えられた。その中でも実力を認められたうえで指定の依頼をこなして上げるというのが最も近道であるとリリアは判断した。

 規定の依頼数をこなして上げる方法もあるのだが、それではあまりにも時間がかかり過ぎるからだ。


(こうなったら後は私の名前を売り込むだけ。もうあの人と戦ったことで、冒険者達の間に私の名前は知れ渡るだろうし、後はあれが偶然じゃなかったと知らしめるだけ)


「薬草は地元に居た時に採取してたから慣れてる。オークも大丈夫。問題はゴブリンの巣の殲滅かな」


 一言でゴブリンの巣の殲滅と言っても、ゴブリンの巣も様々だ。

 十匹程度の巣もあれば、数百匹いるような巨大な巣もある。今回受けた依頼の巣がどの程度の規模であるか、その情報が全く無かったのだ。


(考えられる可能性はいくつかある。小さい巣だから駆け出しの私に任せても大丈夫と判断したパターン。それか、私の情報収集能力を調べるためにあえて無茶な依頼を持ってきたか)


 ギルドが依頼を受ける際、当たり前のことだが下調べをしている。しかしそれも完璧ではない。魔物が絡めば常に予想もしないことは起きる。そうなった時に大事なのが冒険者自身の情報収集能力だ。

 いかに目的の場所についての情報を集めれるか。それもまた冒険者の手腕なのだ。

 そして無理だと判断した際には依頼を諦める。これも冒険者として求められる資質の一つだ。


「……口では認めると言っておきながら、その実まだ試されてる。あり得そうな話ね」


 リリアが見せたのは力だけ。それ以外の能力はまだ未知数だと思われている。


「考えすぎって言われたらそれまでだけど。でも困ったわね。私の力は情報収集には向かないし、ゴブリンの巣を見つけた後にその規模を調べる方法なんて……あ」


 そこでふと、一人の人物がリリアの脳裏を過った。


「ふふ、そうだ。あいつがいた。あいつを使えばいい」


 リリアはそういうと不敵な笑みを浮かべて歩き出した。


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