第145話 炎と炎
「つ、強い……ぐぅ」
一瞬のうちに壁に叩きつけられたハルトは全身に走る痛みに顔を顰めながら体を起こす。
『大丈夫か主様!』
「う、うん……でも、まさかあの一瞬で全員を倒すなんて」
『あぁ、驚異的な力じゃ。まだ全員生きてはおるようじゃが』
ハルトを含め、イルもフブキもアキラも地面に倒れている。これを為したのはガド一人だけだというのが恐ろしい。ガルの力で強化されているとはいえ、ガド自身の力量も相当のものだった。
それこそ、今のハルトでは及ばないほどに。
『だからと言って諦めるわけにもいかぬ。ここでの諦めは死を意味するのじゃからな。お主だけではなく、あやつらもじゃ』
「っ、わかってる!」
そう。いつもリリアとしているような訓練ではない。生死を賭けた紛れもない実戦。逃げ場などもとよりないのだ。
「リオン、力を貸して」
『あぁもちろんじゃ。あの男にやられっぱなしでは終わらんぞ!』
ハルトは立ち上がり剣を構える。それを見てガドは歓迎の表情を浮かべた。
「おぉいいねぇ。あれで終わりじゃつまらなさ過ぎて手あたり次第全員殺しちまうところだった」
「そんなこと……させない。あなたはここで止めて見せる」
「おう、やってみろよ。がっかりさせんなよぉ? 今度は容赦しねぇ。殺すからな」
「っ」
氷のような殺気がハルトの全身を突き刺す。心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えながら、それでもハルトは戦う意志を折らなかった。
負けてたまるかと強い意志を込めた瞳でガドのことを睨み返す。
「『憤怒の竜剣』!!」
ゴウッと剣身を炎が包み込む。ハルトの魔力を糧に【カサルティリオ】に秘められた力の一つをハルトは解放した。身体能力も先ほどまでとは比べ物にならないほどに上昇している。
「いい熱量だぁ。面白れぇ。よっしゃやろうぜぇ!!」
拳を叩いてガドが駆け出してくる。ハルトはそれを真正面から迎え撃つ。ガドの動きを見て剣を振った。先ほどは剣を拳で受け止めたガドだったが、ハルトの剣を覆う炎や、ハルト自身が放つ魔力の変化を見て受け止めずに横から叩いた。
いくら剣が強いと言っても、それは当たればの話だ。そしてガドには絶対に剣に当たらない自信があった。
「おらどうしたぁ! まだまだおせぇぞ!」
剣と拳。一見すれば剣の方が有利だが、懐に潜り込めばその優位性は逆転する。短剣ならばまだしも、ハルトの使っている長剣では懐をカバーしきれないからだ。そしてその先に待っているのはさきほどと同じ結末だ。
しかし、ハルトとて二度同じ手はくらわない。蹴りを叩き込もうとしたガドの動きを見て叫んだ。
「リオン、今だ!」
『任せるのじゃ! 炎よ、焼き尽くせ!』
「っ!」
剣身を覆っていた炎が膨れ上がる。その炎は竜の形を成し、その顎でガドのことを呑み込まんとして襲いかかった。
自分の力で近距離をカバーできないのなら、その近距離のカバーをリオンに任せる。それがハルトとリオンの考えた作戦だった。
「面白れぇじゃねぇか!!」
その身を焼き尽くさんとして迫って来た煉獄の炎。しかしガドはその炎を前にしても笑みを崩すことは無かった。
「おらぁっ!!」
『なんじゃと!?』
煉獄の炎をガドはただの拳圧で吹き飛ばした。
避けるために後退する、もしくは防御の姿勢を取るだろうとハルトとリオンは考えていた。しかしその予想は大きく外れてしまった。
炎を拳圧で吹き飛ばすなど誰が予想できるかという話だ。
「炎なんざ効かねぇんだよぉ!!」
「ぐっ!」
ガドの拳を紙一重で躱すハルト。そこで主導権は完全にガドに奪われてしまった。ハルトは防戦一方になってしまう。一度態勢を立て直すために距離を取ろうにもガドはそれを許さない。
「逃げてんじゃねぇぞ!」
『えぇい、しつこいのじゃ貴様!!』
炎を連発するリオン。しかし、ガドはその炎を攻撃ついでの拳圧で吹き飛ばしてしまい、命中することはない。
『この馬鹿力め! 主様よ、炎圧を上げるのじゃ!』
「わかった!」
さらに魔力を注ぎ込み、炎の勢いを上げるハルト。現状で出せる最大炎圧まで上昇させた。その炎は剣身を超えて、ハルトの体にまで伸びていた。しかしそれでハルトの体が燃えるということはない。
『これが自傷せずに出せる最大炎圧。主様、これで仕留めるぞ!』
「うん!」
「いい熱さじゃねぇかぁ! もっとだ、もっと俺を高ぶらせろぉ!」
『うるさいわ! 貴様を楽しませるためにやっておるわけではない、今度こそ貴様を塵にしてくれる。もう主様に触れれると思うなよ!』
「俺を塵だぁ? やれるもんならやってみやがれ! 中途半端な炎じゃ俺がお前を塵にしちまうぞぉ!」
ガルによって付与された炎がガドの拳で踊る。
ハルトの炎とガドの炎。二つの炎が王城内を赤く染め上げる。
そして二つの炎が激しくぶつかり合った。
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