第133話 王都の中へ

 王都の中へと入ったリリア達が目にしたのは、まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図だった。逃げ惑う住人達に、追いかける魔物。教会や王国軍の人が交戦しているが、いかんせん魔物の数が多すぎる。

 どこへ逃げればいいかもわからない。そんな状況で冷静でいろという方が無理な話だ。


「ど、りゃぁあああああっっ!」

「リリアさん、王城はあっちです!」

「はい!」


 そんな中でリリア達はハルトがいるであろう王城を目指してひた走っていた。目につく魔物は倒しつつ、襲われている人がいるなら助けつつ。一秒でも早くハルトの所へ行きたいリリアだが、だからと言って見捨てることなどできないからだ。


「それにしても数が多すぎる。一体どれだけ前から準備して……あぁもう! やってくれたわねミレイジュ!」


 すでにこの場にはいないミレイジュへの怒りを吐き出しつつ、リリアは襲いかかってきたオークの頭を潰す。


「今は文句を言っててもしょうがないですよ。今は先を急ぎましょう」


 逃げ惑う人の波を避けながら、リリア達は王城に近づいていく。その時だった。


「砕け——『地砕流』!!」

「『ウォーターバレット』!! みんな、こっちに走って!」

「ん?」


 不意にリリアの耳に聞こえてきたのはよく知っている人達の声だった。


「え? お父さん!? お母さん!? それにシーラにユナまで!」


 そこに居たのはリリアの両親であるルークとマリナ。そして友人のシーラとユナだった。その後ろには見知らぬ子ども達もいる。


「その声は……リリア?! お前、いったい今までどこに」

「お父さん危ない!」

「っ!」


 リリアの声に気付いたルークはわずかに集中が乱れ、レッサーデーモンに接近を許してしまう。とっさに剣を振ろうとするルークだったが、それよりもリリアの方が速かった。


「【姉破槌】!!」


 ルークの喉元を食い破ろうとしていたレッサーデーモンを蹴り飛ばすリリア。まさしく目にも止まらぬ速さだった。


「ごめんお父さん。急に声かけちゃったから」

「あぁ、いや。こっちこそ助かった。ってそうじゃない! お前今までどこにいたんだ!」

「えっと、それはその……」


 森に行って修行して死にかけて。友人に裏切られて戦って死にかけてました。なんてことが言えるはずもない。どう話したものかとリリアが頭を悩ませていると、助け舟を出してくれたのは意外にもマリナだった。


「ルーク。今はそれどころじゃないわ。話は後にしましょう。とにかくこの魔物達を片付けないと」

「あぁ、そうだな。とにかくこの子達を安全な場所に連れていかないと」


 後ろにいるのは複数人の子供達。全員怯えた表情をしてシーラやユナにしがみついている。無理もない話だ。魔物に命を狙われるなど、そう経験することではないのだから。


「この子達は?」

「親とはぐれたみたいなんだ。この騒ぎじゃゆっくり探そうってわけにもいかないだろ。だから俺達が保護したんだ」

「なるほど」


 そうした子供達を何度か見つけ、こうして守りつつ安全な場所を探している所だったらしい。


「二人とも、呑気に話してる暇はないわよ!」


 リリアとルークが話している間にも今度はゴブリンやオーク、そしれオーガまでもが接近してくる。


「オーガまでいるのか。これはちょっと骨が折れるな」

「……わかった。あのオーガ達は私に任せて」

「任せてって、おい、リリア!」

「リリア!?」


 ルークとマリナが慌てて呼び止めようとするが、その時にはもうすでにリリアは動き出していた。


「【姉弾——】」


 リリアとしては不思議なことに、王都に入って魔物と戦い続けている間に少しずつではあるが『姉力』が回復しつつあった。もちろん全快の時とは比べるべくもない。しかしそれでも、【姉弾】を撃てるほどにはすでに回復していたのだ。

 ゴブリンとオークを蹴散らしリリアはオーガに肉薄する。リリアの接近に気付いたオーガが慌てて腕を振り上げるが、それはリリアからすれば亀のように遅かった。


「【——破槌】!!」


 リリアが右腕を振りぬくと、オーガの上半身が消し飛んだ。下半身のみとなったオーガはゆっくりと膝をつき、倒れていく。


「オーガを一撃で」

「あの子いつの間にそんなに強く……」


 思わず唖然としてしまうルークとマリナ。そうしている間にもリリアはゴブリンとオークを殲滅していく。それは最早戦いではなく蹂躙だった。


「すごい……」

「リリアさん、あんなに強かったんだ」


 唖然としているのはルークとマリナだけではない。シーラとユナも同様だった。そんな四人にタマナは声をかける。


「魔物の注意がリリアさんに向いている間に移動しましょう。こっちの方に空き家があったはずです」

「え、でも」

「リリアさんなら大丈夫です。絶対に。リリアさん! この方たちを近くの空き家に案内してきます! また後で追いかけてきてください!」

「はい、わかりました! せりゃぁああああっ!」


 リリアが魔物達の注意を惹きつけている間に、タマナはルーク達を空き家へと案内する。それを見届けたリリアはゴブリン達を一掃して追いかけようとするが、次から次へと魔物は湧いてくる。


「ちっ、面倒ね。こういう時に使える範囲攻撃があると楽なんだけど……」


 リリアの基本は一対一だ。範囲攻撃を持っていないリリアにとって、一対多は得意とは言い難かった。


「なんて泣き言は言ってられないしね。よし、ここは一気に——」


 押し通る。そう言おうとした瞬間、目の前にいた魔物達が突然燃え上がる。


「? 一体何が」

「おいお前、大丈夫か!」


 その声は上からだった。見上げればそこに居たのはリリアと同い年くらいの少年だった。建物の上にいた少年は、躊躇いなく屋根上から跳んでリリアの前に着地する。


「あなたは?」

「あぁ、えっと俺は日向霖斗……じゃなくて、こっちの言い方だとリント・ヒナタだ」


 よろしくな、と言って少年——リントは笑顔を浮かべるのだった。


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