第131話 激闘の終わり
リリアとミレイジュ。この二人は非常に似た存在だ。最愛の弟のために。ただそれだけを想って戦い続けている。しかしこの想いというのは非常に厄介なものだ。進む先にどんな障害があろうとも、どんな壁が立ちはだかろうとも。それが弟のためならば二人は迷わないのだ。
「【弟想姉念】!」
リリアの『姉力』がこれまでにないほどの高まりを見せる。そしてその『姉力』は右腕へと集中し始める。正真正銘、リリアの最後の一撃だ。
「【姉意弟到】!」
そしてミレイジュも同様に、爆発的に『姉力』が跳ねあがる。リリアとミレイジュの『姉力』の高まりは止まる所を知らず、暴風のように吹き荒れバチバチとぶつかり合う。
そしてミレイジュの頭上に現れたのは十のワープゲート。それが円状に並んでいる。
「『姉光雷球』!」
ミレイジュの『姉光雷球』はリリアの方ではなく、ワープゲートの方へと吸い込まれる。ワープゲートに吸い込まれた『姉光雷球』は弾き出されると止まることなく次のワープゲートへ。それが止まることなく繰り返され、『姉光雷球』は加速していく。そして『姉光雷球』がまさに光の速さに到達するころには、一つの円環が完成していた。
「これが私の奥の手ですぅ。これを受けて立っていた人はいません」
「……上等。なら私がその最初の一人になってあげる」
二人の間を一陣の風が駆け抜ける。そしてそれが、二人にとっての合図となった。
「【姉弾——一角獣】!!」
「【姉魔法奥義——光帝雷神】!」
地を抉り、空を戦慄かせ何もかもを呑み込む破滅の光。リリアに止める策などない。ただ力で上回る。考えているのはそれだけだ。全ての力を集約した右腕で、迎えうつ。それだけなのだ。
「はぁあああああああっっ!!」
リリアが右腕を振りぬく。しかしそれで【光帝雷神】を止めることはできなかった。そこに込められている『姉力』はすさまじく、リリアはジリジリと押し込まれていく。
光と雷の熱量で肌が焼かれ、これまでに与えられたダメージはリリアの心を折り、膝をつかせようとする。しかしそれでもリリアの目から光は消えていなかった。
「うぐぐぐぐ……こ、のぉ……!」
押され続けていたリリアだったが、その動きがピタリと止まる。
「私は、負けない……絶対に!」
様々な想いが脳裏を過るが、最後に残るのは止まる所を知らないハルトへの想いだ。こうしてリリアが戦っている間にもハルトが苦境に立たされているかもしれない。傷を負っているかもしれない。こんなところで止まっているわけにはいかない。その想いがリリアを奮い立たせるのだ。
「私はあなたを超えて……もっともっと先へ行く!!」
想いの丈は力へと変わり、リリアに一歩進む力を与える。徐々に押し返され始めたことにミレイジュは顔色を変える。
「ど、どんな馬鹿力してるんですかあなたはぁっ」
押し返そうとするミレイジュだが、一度動き始めたリリアの勢いは止まらない。止められない。
「お、らぁあああああああああああっっっ!」
そしてついに、リリアの砲声と共にけたたましい音を立ててミレイジュの【光帝雷神】が崩壊する。ふらりと揺れるリリアの体。すでにリリアの体は限界を超えている。酷使に酷使を重ねているのだから無理もない。それでも地を踏みしめ、正面にいるミレイジュのことを見据える。
「まだ……」
リリアが砕いた【光帝雷神】の破片が飛び散る中を、リリアは最後の気力を振り絞って駆ける。そして拳を握りしめ、全力でミレイジュのことを殴り飛ばした。
「はぁ、はぁ……はぁ……くっ」
額から大粒の汗を流しながら、荒い息を吐くリリア。しかしそれでもしっかりと自分の足で立ち、ミレイジュに向けて宣言する。
「私の……勝ちよ」
「……そうですねぇ。私の奥義が破られてしまった以上、認めざるを得ません」
リリアに殴り飛ばされ、地に転がっていたミレイジュは起き上がり悔しそうな、しかしどこかスッキリとした表情で言う。
「絶対に勝てるつもりでしたぁ。でも、あなたは想像以上に私に食らいついてきて、そしてとうとう私に勝利しましたぁ」
「……ずいぶんあっさり認めるのね」
「あっさりじゃありませんよぉ。今も地団駄を踏みたいくらい悔しいですし。はらわたが煮えくり返りそうなほど怒ってますぅ」
「そ、そう」
「でも……どこかホッとしている私がいることも事実ですぅ」
「え?」
「なんだかんだ私も、まだまだ甘いのかもしれませんねぇ」
ミレイジュはそう言って苦笑すると、リリアの体に『回復魔法』をかける。
「っ!? どういうつもり」
「別にどういうつもりでもないですよぉ。強いて言うなら、私に勝利したご褒美ですぅ。まぁ、私もほとんど力が残ってないので完全に治癒はできませんけどぉ」
「敵に塩を送るつもり?」
「敵に塩、ですかぁ。それは認識の違いですねぇ。私はただ、怪我をしている友達を助けた。それだけですぅ」
「あなた……」
ミレイジュが杖で地面をとん、と叩くとミレイジュの前にワープゲートが出現する。
「今回は私の負けでしたぁ。でも、次は必ず私が勝ちますぅ。絶対に」
「次も勝つのは私よ。絶対に」
「…………」
「…………」
二人がそれ以上言葉を交わすことはなく、ミレイジュはワープゲートの中へとその姿を消していった。
こうして、二人の激闘は終わりを迎えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます