第130話 姉の意地
【姉界】が崩壊する。しかしそれは戦いの終わりを告げるものではなかった。立ち上がったリリアとミレイジュは再び対峙する。譲れぬ想いをその瞳に宿して。
二人の戦いは今まさに、最終局面へと至ろうとしていた。
「はぁ、はぁ……」
「…………」
睨み合うユースティアとミレイジュ。お互いに残っている『姉力』は残り僅か。後はもう気力の戦いだった。
「あなたは……リリアさんみたいですねぇ」
「言いたいことはわかるけど……あれも私だから」
「そうなんですかぁ?」
「たぶん。よく知らないけど」
「なんですかそれぇ」
「さっき見たいなのは二対一で戦ってるみたいで正直嫌だったけど……でも、それでも受け入れるしかなかった。そうしないとミレイジュに勝てないと思ったから」
リリアは瞑目し、さきほどした『リリア』とのやり取りを思い出す。
『ねぇリリア。お願いがあるの』
「お願い?」
『うん。それはね……体を少しの間貸して欲しいの』
「体を貸す? どういうこと?」
『端的に言うなら、私が表に出る。そんで、ミレイジュと戦う』
「でも……」
『言いたいことはわかるよ。自分の力だけで勝ちたい。大きな枠で言うと私もあなただから、リリアの力ではあるんだけど……そういうことじゃないもんね』
まさしくその通りだった。リリアはミレイジュに自分の力で勝ちたいと思っている。そうしなければ勝ったと思えないからだ。しかしそんなリリアに対し、ミレイジュは厳しい目を向ける。
『はっきり言うね。今のまま戻っても勝てない。絶対に』
「そんなの」
『わかるよ。だってあなたの状態は私が一番よく知ってるから。骨は折れてる。体も傷だらけ。こんな状態で起きたってなにもできずに殺されるだけ』
「っ……」
『でも私なら……私なら可能性を繋げることはできる』
「可能性?」
『うん。勝つことはできないかもしれない。でも、あなたが勝利するために道を開くことはできる。だからお願い……私に賭けてみてくれない?』
「……わかった」
しぶしぶといった様子で了承するリリアを『リリア』は苦笑して見つめる。それはまるで手のかかる妹を見る姉のようなまなざしだった。
『それじゃあ行って来るね。そこで見てて……私の戦いを』
そして『リリア』は表に出て行った。
リリアは中でずっと『リリア』の戦いを見ていた。
その力は、リリアが想像していた以上のものだった。今のリリアよりもずっと強かった。
(【姉界】……私の知らない、私の力。ううんあれはきっと私のじゃない。まさしく『リリア』の力だった)
今リリアが同じ力を使えるかと言えば、答えは否だ。どうしたら使えるかなどまったくわからない。しかしそんなことは今は関係なかった。大事なのは『リリア』がミレイジュの力を削ってくれたということ。
ミレイジュの体を包んでいた『姉鎧』は破壊され、その『姉力』も大幅に削られている。それだけでリリアにとっては十分だった。
「……認めるよ。ミレイジュ、あなたは私より強い。でも、それでも勝つのは私。ここで私はあなたに勝利する」
「ちょっとうまくいってるからってぇ、調子に乗らないでくださぁい。私は負けませんよぉ。これは絶対ですぅ」
「いいえ。私が勝つ。これが絶対だから」
闘気の高まりとともに、リリアとミレイジュの『姉力』が高まっていく。リリアは『姉力』で身体能力を強化し、ミレイジュはその杖に『姉力』を集中させる。
「「——っ!」」
動き出したのは二人同時だった。
今のミレイジュには先ほどのまでの絶対的な防御は無い。つまり、リリアの攻撃でも十分通るということだ。決めるなら速攻。長期戦はもうできないからだ。しかし、長期戦ができないのはミレイジュも同じだった。
【姉界】の中での戦いで、想像以上に疲弊していた。短期決戦を望むのはミレイジュも同じ。無詠唱で発動できるなかで一番威力の高いものを使う。
「『姉雷矢』!」
「その技は何度も見た!」
同じ技を何度もくらいほどリリアは愚かではない。『リリア』が戦っている中で、『姉雷矢』を弾いたその瞬間をリリアは見ていた。
リリアはその手に薄く『姉力』を纏わせ、飛んできた『姉雷矢』を横から叩く。それだけで軌道がずれてリリアには命中しない。
「それならぁ、これはどうですかぁ!」
平行で作りあげていたもう一つの魔法をミレイジュは展開する。
「『姉焔爆槍』!」
それはリリアに大ダメージを与えた魔法だ。その威力をリリアは身をもってよく知っている。しかし、リリアはそれでも恐れることはなかった。
「同じ手は……くわない!」
リリアは【姉眼】で『姉力』の流れを視る。『姉焔爆槍』はただの槍ではない。爆発する炎の槍。そして爆発するその瞬間に、『姉力』が大きく高まるのだ。その一瞬をリリアは視ていた。
「爆!」
「——『姉空風花』」
『姉力』の流れを支配する。リリアに向けて放たれた爆発を、その爆炎をリリアは完璧に受け流し、零にした。
「なっ!?」
驚愕に目を見開くミレイジュ。その時はもうリリアは懐に飛び込んでいた。
「『姉弾——破槌』!!」
「っっ!!」
リリアの渾身の一撃がミレイジュに命中する。とっさに『姉力』で防御したものの、それは『姉鎧』ほどの防御力があるわけではなく、多少ダメージを軽減させる程度だった。
激しく吹き飛ばされ、地面を転がるミレイジュ。それはリリアと戦う中で初めてのまともなダメージだった。
「がはっ! くぅ——『姉炎球』!」
しかしミレイジュもただではやられない。リリアに吹き飛ばされるその瞬間、リリアの頭上に一つの魔法を仕込んでいた。拳を振りぬいた姿勢のままの、僅かな無防備な時間。そこを狙ってミレイジュは魔法を発動する。
「っ!?」
リリアに大したダメージがあったわけではない。しかし、追撃を防ぐには十分だった。その間にミレイジュは起き上がり体勢を立て直した。
「今のは……かなり効きましたよぉ」
「そう。ならよかった。効かせるつもりで殴ったもの。まさか反撃をしてくるとは思わなかったけど」
「転んでもただでは起きない性格なのでぇ……っ」
若干ふらつくミレイジュ。表面上はある程度平静を装うミレイジュだったが、リリアの一撃は相当なダメージを与えていた。
それもそのはずだ。リリアの本気の一撃はそう生易しくないのだから。むしろ一撃くらってまだ立てるミレイジュを称賛するべきだろう。
(残りの『姉力』を考えても、後何発も【姉弾】は使えない。あと一撃で……勝つ!)
(残りの『姉力』を考えたらぁ、そう【姉魔法】を連発できません。こうなったら後のことは考えずにぃ。奥の手を使うしかなさそうですねぇ)
リリアもミレイジュも考えることは同じだ。それは、残り一発での決着。
「この一撃で……」
「勝利しますぅ!」
そして、二人の必殺がぶつかり合った。
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