第125話 【姉魔法】

 イミテルの体から放たれる『姉力』。それを肌で感じ取ったリリアは息を呑んだ。


(この『姉力』……私よりも……)


「どうですかぁ? これが私の『姉力』ですぅ」

「まさかあなたもだなんて……さすがに予想外ね」

「ですよねぇ。私も初めてリリアさんを【姉眼】で見た時は驚いたんですよぉ。まさかリリアさんが《姉》持ちだとは思いませんでしたからぁ。でも、リリアさんは(仮)なんて余計なものまでついてますけどぉ」

「ほっといて」

「これだけでもわかりますよねぇ。私は《姉(大魔法使い)》。リリアさんは《姉(仮)》。どちらがより姉として上かなんて、言うまでもありません」

「……そう言われるとバカにされてるみたいでムカつくけど。それでも私は負けないから。絶対に」

「言葉ではなんとでも言えますよぉ。示すべきは力。それだけですぅ。さぁ、ここからが本気の勝負ですぅ。呆気なく終わらないでくださいねぇ」

「そっちこそ!!」


 一瞬萎縮していた心を無理やり奮い立たせ、リリアはミレイジュに向けて突っ込む。


(驚きはしたけど、《魔法使い》だってことに変わりはない。なら私のやることはさっきと変わらない!)


 一撃で仕留めるつもりでリリアは右手に『姉力』を集中させる。長期戦に付き合うつもりはない。時間がかかればかかるほどリリアに不利になっていくからだ。

 だからこその突貫。しかし、ミレイジュはそんなリリアを見ても全く動く気配がなかった。


(油断してる? それとも舐めてる? あるいは両方……ううん、どっちでもいい。そっちが隙を作るなら、そこを容赦なく攻める!!)


 泰然とした態度のミレイジュはリリアが目の前に来ても動かない。それに怒りを感じつつも、その怒りも拳に込めてリリアは叫んだ。


「【姉破槌】!!」


 先ほどミレイジュの『魔障壁』を十枚中九枚砕いた一撃。今回はその時よりも力を入れている。そしてこの距離では『魔障壁』を展開するだけの時間もなかった。

 直撃する。リリアがそう確信した直後のことだった。ミレイジュが静かな声で呟く。


「【姉鎧】」

「っ!?」


 拳が直撃するその刹那。ミレイジュの体を【姉鎧】が包み込む。リリアの拳は【姉鎧】にぶつかる。

 まるで素手で鉄の塊を叩いたかのような感覚。全力で殴ったぶん、リリアの右手に大きな反動が返って来ていた。ビリビリと痺れる右手を無視してリリアは息もつかせぬ猛攻をしかける。

 しかし、どの攻撃も【姉鎧】の前には無力だった。『魔障壁』のように砕けることもない。罅の一つも入らない。驚異的な硬さだった。


「驚いてますかぁ? これは【姉障壁】の応用ですよぉ。リリアさんはまだ使えないみたいですけどぉ」

「くっ」

「あぁ、怒らないでくださぁい。別にバカにしているつもりはないんですよぉ。ただ……私とリリアさんではぁ、練度が違うんですぅ。リリアさんが《姉》を手に入れたのは二年前、私が手に入れたのは四年前。この時点で二年の差があるんですぅ。その差はそう簡単に埋めれるものではないんですよぉ」

「ふん、ずいぶんとお喋りね。そう言いながら全然反撃してこないけど?」

「いいんですかぁ? 反撃しても。一瞬で終わっちゃいますよ」

「上等」


 リリアの端的な返答を聞いて、ミレイジュがニヤリと笑う。


「この【姉鎧】がある以上、リリアさんの攻撃は私には通りません。だから、普通の魔法で攻撃するだけでも勝てるんですけどぉ。それじゃ面白くないですからぁ。見せてあげます。私のたどり着いた新たなる魔法の領域をぉ」


 杖を構えるミレイジュ。好きに行動させまいと攻撃し続けるリリアだったが、どの攻撃も【姉鎧】を崩すことはできなかった。そうしている間にもミレイジュは魔法を展開していく。そこに使われるのは魔力ではなく『姉力』だった。


「これが私の【姉魔法】ですぅ」


 ミレイジュを中心に、地面に大きな魔法陣が広がる。


「っ!」

「『姉爆土壊』」


 直後、魔法陣が光を放ち巨大な爆発が起こる。その爆発は離れた場所にいたタマナの立つ地面をも揺らすほどだった。

 爆発に呑まれかけたリリアだったが、とっさに後ろに下がったことで直撃は避けた。しかし、ノーダメージとはいかなかった。


「なんて威力……」

「おぉ、すごいですねぇ。今ので直撃を避けるなんてぇ。少し驚きましたぁ」


 爆発の中心にいたミレイジュは呑気に拍手をしている。地面は見るも無残な姿になっていた。だが、ミレイジュには傷一つない。【姉鎧】に守られているからだ。


「あの爆発を受けても無傷……笑えない硬さね、本当に」

「さぁ、リリアさん。休んでる暇なんて与えませんよぉ。『姉雷矢』」

「っ! 【姉しょう——】。あぐぅっ!?」


 ミレイジュの放った魔法はリリアが【姉障壁】を展開するよりも速かった。右肩を撃ちぬかれたリリアは痛みと痺れを同時に味わうことになってしまった。


(一撃でこの威力って……ふざけすぎでしょ!)


 飛びそうになった意識を必死につなぎとめて、リリアは追撃の『姉雷矢』を回避する。


(止まっちゃいけない。止まってたら恰好の的になるだけ)


 次から次へと襲いくる魔法を躱し続けながら、リリアは必死に打開策を考える。だが、そんあリリアを嘲笑うようにミレイジュは次の魔法を展開した。


「『姉水甚雨』」


 リリアの頭上を覆うように広く広く展開される魔法陣。


「逃げ場なんて与えませんよぉ」



 そして、ミレイジュの【姉魔法】がリリアに襲いかかった。




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