第120話 弱点
セルジュの『魔物憑依』。多くの魔物の力を集約し、好きな能力だけ発現して使うことができるという、一見強力無比な力。しかし、リリアはその能力には必ず何か隙があると踏んでいた。
(ただ強いだけの能力なら最初から使えばいい。使わない理由がない。それでもこの局面になるまで使うことに渋ったということは必ず何かデメリットがあるはず。一度使った魔物の能力は再び使えないとか? いや、でもそれは可能性としては低い。時間制限がある……これが一番可能性が高い気がする。とりあえずはその方向で考えて、後は観察しよう)
「どうしたんだいお姉さん、さっきからずいぶん消極的だけど。もしかして僕の力が怖いのかな?」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと考え事をね」
「へぇ、戦ってる最中にそんなことする余裕があるんだ。じゃあ、もっと激しく攻めてもいいってことだよねっ!」
鞭のような右腕を振り回しながら、今度は足にレッドライノスを発現させたセルジュは突進してくる。リリアが距離を取ろうとしても、左腕の砲撃がリリアの行く手を阻む。
「さぁこれにはどう対処するのかな!」
「その右腕……邪魔ね」
逃げることは不可能だと思ったリリアはまずは右腕の対処をすることに決める。現状、一番厄介な能力だからだ。しかし常に振り回されている右腕は速すぎてとてもではないが捉えることはできない。被弾覚悟であれば不可能ではないが、それも得策ではない。
「逃げれないなら……私も突っ込む!」
セルジュの右腕が頭上を通過した瞬間、地を蹴ってセルジュに肉薄するリリア。それを見たセルジュは左腕を再び最初と同じ剛腕へと変化させる。それで迎え撃つ算段だった。
(一度使った能力は使えないって線はこれで消えた。でも何か……何かあるはず)
「また考え事かい? なら考え事をしたまま潰れて死ね!!」
「甘い」
頭上に向かって振り下ろされる腕をリリアは受け止める。衝撃で若干足が地面に沈んだが、それだけだ。リリアにダメージは一切ない。レッドライノスの脚力を使って押し切ろうとしてもリリアはビクともしない。そもそもの話、レッドライノスの脚力が驚異的なのはレッドライノスの強靭な肉体があってのことだ。脚力だけ真似ても脅威ではない。
「あなた……その力、使い慣れてないのね」
「っ!?」
「さっきからずっと感じてた。でもこの距離まで来て確信に変わった。あなたはその力をまともに制御できてない。その右腕を振り回し続けるのはそれを隠すため? その破壊力なら普通に振り回してるだけでも驚異だものね」
セルジュは近づいてきたリリアに対して右腕を使おうとしない。本当に完璧に使えるならば、至近距離であっても問題なく使えるはずなのだ。しかしそれをしないのは、自爆する可能性があるから。そうリリアは判断した。
「普段から練習しないからいざ実戦で使うとこうなる。いい教訓になった? まぁ、次はないんだけどね」
「っ、まだ負けたわけじゃない!」
「一度に展開できる魔物の特徴は五つまで……といった所かしら。足のレッドライノス。右腕はサンドクラーケンにドリアードの蔦を組み合わせ、左腕のゴーレムとオークを組み合わせることで固さと腕力を。違う?」
「っ!?」
「それに、その能力には時間制限もあるんじゃない? だってほら、こうして私が攻撃を避け続けているだけなのに、あなたの額には尋常じゃないくらいの汗が流れてる。これも……当たりね」
全てリリアの言う通りだった。今のセルジュでは一度に展開できる魔物は五種類まで、それに加えて混ぜ合わせることができるのは二種類が限界だった。リリアの言う通り時間制限もある。こうしている間にもセルジュの力はどんどん消耗していた。
技の特徴も、弱点もできることを全て見抜かれた。それはつまり、リリアの方がセルジュよりも上だということを示すことに他ならない。こうして全力を出してなお、セルジュはリリアの底を見れていないのだから。
だがしかし、それでもセルジュは不敵に笑った。
「あぁそうだね。全部言う通りだ。認めるよ。お姉さんは僕より強い……でも、それと僕が負けるかどうかは別の話だ!」
「? あなた何を……まさかっ!」
「時間制限があるけど、時間制限まで使ったら力が使えなくなるわけじゃない。むしろその逆さ。この時間制限は……僕がこの力を制御できる限界を示してるんだ」
ボコボコとセルジュの体が隆起し始める。その体躯は倍ほどに膨れ上がり、背中からは巨大な翼が額には禍々しい角が。右腕は鞭のような状態を保ったまま、炎を纏い。左腕はさらに巨大になって全体にびっしりと棘が生えた。
明らかに五種以上の魔物の特徴が発現していた。
「魔モノ……ヒョウ依……バースト、モードッ!」
明らかのそれまでと一線を画す威圧感。その雰囲気はリリアがガイアドラゴンと対峙した時のそれと似ていた。
「さァ、オ姉さん……ぼクと……決着ヲつけよう……」
「それがあなたの覚悟なのね」
まさしく命を懸けた攻勢だ。ならばリリアも命を懸けて挑むのが道理。セルジュが不敵に笑ったように、リリアも挑戦的に笑った。
「あなたの全力と私の全力……どっちが上か、白黒つけましょうか」
息を吸い、呼吸を整え、リリアは拳を構えて静かに言った。
「【弟想姉念】」
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