第117話 嬉しくない再開

 時は遡り、リリアとタマナは王都への帰路を走っていた。それはもう全力で。時計を持っていなかったため正確な時間はわからなかったが、それでも太陽の位置で大まかな時間は把握できる。そして太陽の高さを見ればハルトのパレードが始まっている時間であろうことは明白だった。


「タマナさん、急いでください!」

「わ、わか、わかってますけどぉ! これが全力ですぅ!」


 ひぃひぃ言いながら先を走るリリアの後を一生懸命追いかけるタマナ。しかしあまりにもリリアが早く走るせいで体力は完全に尽きようとしていた。リリアはまだまだ平気そうだったのだが。


「ハル君の晴れ姿見逃したらどうするんですか!!」

「そっちなんですか!?」


 タマナはてっきり王都で異常事態が起きていた時のことを懸念して急いでいるのだと思っていたのだが、そうではなかった。


「あぁいや、そのことももちろん考えてますよ。忘れてはないですから」

「……ホントですか?」

「そんな疑いの目を向けないでください。ホントに忘れてはないですから。ただハル君の晴れ姿を見たい気持ちが大きいのも確かです」

「っていうか絶対そっちがメインですよね」

「まぁ……否定はしません」

「そこは少しでも否定して欲しかったです。って、そうじゃなくて。私が言いたいのは急ぐ気持ちもわかりますけど、少し落ち着きましょうってことです。今のリリアさん、すごく焦ってますよね」

「うっ……」


 まさしくタマナの言う通りだった。誤魔化そうとしたがタマナはそんなリリアの心を見抜いていた。リリアの内心は焦りに満ちている。その理由は様々だが、最たる理由はただ一つ。大事な時にハルトの傍に居れなかったということだ。


「このまま焦って戻ってもいいことありませんよ。もし王都で何か起きてたら体力もちゃんと残してないと、何もできなくなっちゃいますし。そもそもリリアさんはガイアドラゴンと戦ったばかりでまだ万全の状態じゃないんですよ」

「そうですけど……でも、今この瞬間にもハル君に何かあったらって思うと」

「だからこそ焦らないでください。焦りは心の余裕を奪います。心の余裕が無くなったら。正しい判断もできなくなる。そうなったらできることもできなくなっちゃいますよ。王都にはハルト君だけじゃなく、アウラ様もエクレア様もいます。何かあってもきっと大丈夫です」

「…………」


 タマナの説得が功を奏したのかリリアは少し走るペースを落とす。


「すみませんタマナさん。少し頭が冷えました」

「いえ、わかってくれればいいんです。今のペースでも王都まではすぐです。焦らずに行きましょう」







 そしてそれからしばらくして、王都が見えて来た時にリリアとタマナは驚愕に目を見開いた。


「あれは……」

「なんですか、あれ……」


 二人が見たのは王都の空に広がる無数のワープゲート。そしてそこから産み落とされる魔物の群れだった。所々から煙が上がっているのも見える。


「王都が……」

「行きましょう、タマナさん!」

「は、はい!」


 何かが起きていることは明白だった。ハルトの身を案じたリリアは焦りを隠そうともせずに王都へ走る。

 城壁の近くまで来たリリアはそこで再び驚くことになった。そこにいたのは、視界を埋め尽くすほどの魔物の群れ。それは地上だけでなく、空にもいた。まるで王都に近づくものを排除するかのように魔物がひしめいている。


「あんな魔物……どうしたら」

「行くしかありません。あの先にハル君がいるんです。なら私に止まる理由はない」


 覚悟を決めた表情でリリアは魔物の群れを見据える。


「邪魔するのなら……たとえ何が相手でも許さない!」


 そう言って駆け出したリリア。タマナも慌ててその後を追う。

 リリアとタマナの姿を見るやいなや襲いかかってきた魔物をリリアは一蹴する。カイザーコングやガイアドラゴンとの戦闘を経て大きく成長したリリアにとって、C級やB級の魔物など恐れるようなものではなかった。

 次から次へと襲い来る魔物を倒し続け、リリアは王都へ近づく。


「タマナさん、一気に駆け抜けます!」

「は、はい!」


 いつまでも相手にしていては埒が明かないと思ったリリアは無理やり抜けることを決める。


「——【姉破槌】!!」


 リリアは以前よりもはるかに増した『姉力』を右腕に集中させて、思いっきり地面を殴る。それだけで地面が放射状に割れ、魔物の足場が崩れる。そうして魔物の姿勢が崩れた隙にリリアとタマナは一気に駆け抜ける。


「こんなに魔物が……これじゃあ王都はどうなっているんでしょう」

「考えるのは後にしましょう。それよりも早くハル君の所に行かないと」


 だがしかし、そう上手くことが運ぶはずもなかった。城門に近づいたリリアとタマナの前に立ちはだかる人影が一つ。


「まさかここで会えるなんて……想像もしてなかった。王都に人を近づけないなんてつまらない任務だと思ってたけど、こうしてお姉さんに会えただけで意味はあったよ」

「あなたは……」

「さぁ、再戦と行こうよ。今度こそ僕の魔物達で……お姉さんを殺してあげる」


 そこに立っていたのはセルジュ。リリアがルーラで出会った《召喚士》の少年だった。

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