第118話 セルジュとの再戦

「あなた、あの時の……」

「あ、嬉しいなぁ。覚えててくれたんだ」

「あなたに構ってる暇はないの。そこを退きなさい」

「怖いなぁ、その目。でも僕だって本気だよ。これが僕に与えられた仕事だし。それでお姉さんと再戦できるなら最高だよね」

「退くつもりはないと……」

「もちろん」

「……あなたの名前、なんだった?」

「セルジュだよ。お姉さんは?」

「リリア。でも覚えて帰る必要はないわ。あなたここで……私にもう一度敗北するんだから」

「二度目はないよ!」


 それが合図となった。セルジュは従えていた魔物に命令して一気に襲い掛からせる。その中にはルーラでリリアと戦ったミノタウロスの姿も複数あった。B級の魔物とはいえ、統率されて襲いかかってくる魔物は脅威だ。


「リリアさんっ!」

「タマナさんはさがっていてください。すぐに終わらせます」


 向かって来る魔物に対してリリアはどこまでも冷静だった。普通ならば叫喚するような光景だが、リリアは正確に魔物を見ていた。どの魔物が一番先頭にいるか、早いか、遠距離攻撃を持った魔物はいるかどうか。それを判断したうえで、リリアは駆け出した。


(ミノタウロスは力と耐久はあるけど速くはない。後回しでいい。先に潰すのは遠距離持ち、つまり——エレメントウルフ!)


 エレメントウルフ。個体によって炎、氷、雷など異なるブレスを放つことで有名な魔物だ。その速さと、遠距離攻撃の厄介さからB級に分類されている。リリアの視界にいるエレメントウルフは合計六体。リリアはそこから潰すことにした。


「遠距離攻撃持ちを狙う、予想通りだよ! 守れ、オーク達!」


 セルジュも当然のことながらその行動は読んでいた。オークを肉壁としてエレメントウルフをリリアから守ろうとした。


「ぬるい。その程度で私を止めれると思うな!」


 高く跳んだリリアは瞬時にオークの数を視認し、その中で隙間を見つけ飛びこむ。


「【姉破槌】」

「グゲェッ!」


 リリアの一撃でオークは弾け飛ぶ。肉片を撒き散らしながら一匹目が倒れ、それに動揺した他の魔物の隙をついて二匹目、三匹目のオークを始末する。


「っ! 前より速い? それに力も」

「前? いつの話をしてるの。今日の私は昨日の私より強い。そんなこと常識でしょ。前と同じままだと思ってるの? なら心外ね」

「くっ、エレメントウルフ!」


 一瞬で駆逐されたオークだったが、それでもエレメントウルフがブレスを溜めるだけの時間は稼いだ。リリアの前に躍り出たエレメントウルフ達は大きく口を開き、一斉に砲撃した。


「【姉障壁】」


 しかしエレメントウルフ渾身の一撃はリリアの【姉障壁】に全て阻まれ、傷一つつけることは叶わなかった。リリアはブレスを吐いた直後の隙をつき、エレメントウルフへ肉薄する。


「遅すぎ」


 リリアは一番近くにいたエレメントウルフの首を圧し折る。


「あなた達は飼いならされているがゆえに、本能が鈍い。本来なら私との力の差を把握して逃げているはずなのにそれもできない。可哀想ね、あなた達は犬死にしかならない。私との力の差もわからない愚かな飼い主のせいで。でも、それでも私の前にたったあなた達の運命を呪いなさい」

「ゲガァッ!」


 一閃。リリアが腕を振るとエレメントウルフの体は切り裂かれた。理論は単純だ。腕に纏わせた『姉力』を薄く延ばし剣のように鋭くしたのだ。


「エレメントウルフ達を一瞬で……どこまで力を上げてるんだ」

「そうやって余裕ぶってる暇があるの? ならそのまま終わりなさい」


 左右上下関係なくリリアに襲いかかる魔物達だが、どの魔物もリリアを捉えることすらできない。戦えば戦うほどにリリアは速くなっていった。


(力が前よりも上がってる。それだけじゃない。『姉力』も前までよりずっとしっくりくる)


 ミノタウロスですら一撃のもとに叩き伏せることができる。リリア自身にとっても驚くほどに力が増していた。


(でも油断はできない。セルジュはまだ物量で押し切れると判断してる。ならその間に倒しきる!)


 口ではセルジュのことを挑発しているリリアだったが、セルジュの力量を侮ってはいなかった。多くの魔物を支配するその能力はまさしく脅威だ。それにセルジュの奥の手、ルーラで一瞬感じた気配をリリアは忘れていなかった。今セルジュが操っている中にそれほどの気配を感じる魔物はいない。つまり、セルジュはまだ奥の手を隠しているのだ。


(敵の奥の手は使わせない。それが戦闘の鉄則。さっさと仕留める!)


「っ! 僕に近づけさせるな!」

「近づけさせたくないならその方法を示してあげないとね。具体的な指示がないと支配下の魔物は動けない。あなたの力量が見て取れるってものだわ」

「このっ」


 あえて怒らせるようなことを言い、セルジュの判断力を奪う。それがリリアの狙いで、その通りに事は運んでいた。しかし、その次の行動はリリアの予想外だった。


「こうなった……来いっ! レッドライノス!!」

「っ!」


 セルジュはずっと支配していたB級やC級の魔物の支配を解き、セルジュはA級の魔物を召喚した。


「レッドライノスっ!」


 支配を解かれた瞬間、魔物達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。残ったのは二体のレッドライノス。リリアが戦ったカイザーコングと同じ、A級の魔物だ。


「押し潰せ!」

「「ルォオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」


 同時の突進を仕掛けてくるレッドライノス。


「【姉障壁】でもキツイ……なら、迎え撃つ! 私の全力で!」


 拳を握ったリリアは突進してくるレッドライノス達を真っすぐ見据える。


「これを受けきれる? 【姉弾——】」


 溜めを作り、『姉力』を両拳に集中させる。歯を食いしばり、そしてレッドライノスが目の前に迫ると同時に砲声する。


「【——一角獣】!!」


 二頭のレッドライノスとリリアの拳がぶつかる。しかし、拮抗は一瞬だった。リリアの拳がレッドライノスの角を砕き、一撃のもとに沈んだ。

 一瞬の決着だった。


「バカな……」

「これがあなたのとっておき? だったら残念ね。私の勝ち」


 ルーラの時と同じようにリリアはそう宣言するのだった。




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