第116話 『地砕竜爪』

 『地砕流爪』。それはハルトとリオンが編み出した新たな必殺技。リリアから教えられた『地砕流』と【カサルティリオ】の『憤怒の竜剣』の二つを掛け合わせ、その威力を爆発的に上昇させたのだ。

 ハルトの一撃で体を大きく斬り裂かれたレッドライノス。しかし、それでもまだ地面に倒れ伏しはしなかった。傷口から大量の血を吹き出しながらも、それでもハルトのことを潰さんと腕を振り上げる。だがハルトはレッドライノスに背を向け剣を仕舞う。


「もう……終わってるよ」

『煉獄の業火に焼かれて燃え散るがよい』


 その次の瞬間、レッドライノスの傷口から炎が噴き出す。その炎は急速に燃え広がりレッドライノスの全身を包み込んだ。


「ルゥォオオオオオオオオオオッッ!!!」


 それはまさにレッドライノスの断末魔だった。地面をのたうち回り、火を消そうとしても体を包む炎が消えるどころか勢いを増すばかり。レッドライノスが崩れ落ち、炭化するまでにそれほど時間はかからなかった。


「か……勝った……」

『大勝利なのじゃ!』

「ってそれどころじゃないよ! 早くイルさんの所に行かないと!」


 レッドライノスに勝った安堵と『憤怒の竜剣』による副作用でどっと疲労感に襲われていたハルトだが、そもそも決着を急いだのはイルの為だ。ハルトは疲れを訴える体を無視してイルが飛ばされていった方へと走る。

 派手に壁に衝突したイルは傷だらけになっていて血を流していた。しかし意識は失っていなかったようで、ハルトが声を掛けると薄目を開いて声を反応を示した。


「イルさん、大丈夫!」

「っ、ぅ……だ、大丈夫だ」

「で、でも全身から血が……」

「かすり傷だ。気にすんな。それよりレッドライノスは?」

「倒したよ」

「勝てたのか」


 イルはゆっくり体を起こすと、痛みに顔を顰めながら【聖魔法】で体を治癒し始める。


『ふふん、当たり前じゃ。妾と主様の力を舐めるでないわ!』

「そんな威張るほど自信があるなら最初から力発揮してくれ。そしたらオレだってこんなに苦労することなかったのに」

「ご、ごめん……」

「……あぁもう! だからなんでお前はそこで謝んだよ! 勝ったんだからリオン見たいに誇ってりゃいいだろ! オレがちょっと文句言ったくらいで折れてんじゃねーよ!」

「そうなんだけど……イルさんの言うことも事実だから。ボクが最初から全力で戦ってたらイルさんを怪我させることも無かったのに」

「どうせお前のことだからレッドライノスを倒した後のことでも心配してたんだろ。余力残しておかないとって」

「う、うん……まさにそうなんだけど」

「別にそれは間違ってねーよ。レッドライノスに勝って、はい終わりってわけじゃねーんだから。でも、全力出さなきゃ勝てなかったのも事実だ。だから今度はもっと早く状況判断することだな。自分の力が及ぶか、及ばないか。全力を出すべきか否かをな」

「そうだね」

『なんじゃなんじゃ。せっかく勝ったというのに。イルよ、もっと素直に主様のことを褒めんか。よくやったと。主様は褒めて伸びるタイプなのじゃ!』

「うっせー! そうやってお前とかリリアが甘やかすからオレが厳しくしてんだろうが! それが無かったらオレだって——」

『オレだって、なんじゃ?』

「~~~っ、なんでもねぇ! いいからもう行くぞ。どっちみちここでのんびりしてる暇なんてねぇんだ!」

「え、あ、ちょっとイルさん!」

『全く、つくづく素直じゃない奴じゃのう』

「いいからさっさと行くぞ。レッドライノスに時間とられ過ぎた。さっさとあのワープゲートなんとかしねぇと……っておいハルト、空見ろ」

「え?」


 イルに言われて空を見上げると、空に開かれていたワープゲートが揺らぎそして閉じていく所だった。


「ゲートが……閉じていく」

「誰かが術者倒したのか? それとももう必要な数送りこんだのか……どっちだ」

「でもどっちにしてもゲートが閉じたならボク達も一度戻った方が……あっちにはまだ魔物がいるんだろうし」

「……そうだな。そうなんだが」


 この時イルは言いようのない胸騒ぎを感じていた。戻ってはいけないと、なぜか直感的にそう思ったのだ。しかし、その理由を説明できない。それは《聖女》としての勘ともいうべきものだったのだが、《聖女》になって間もないイルにそれがわかるはずもない。

 結果として、ハルトとイルは戻ってしまった。そこで何が待っているのかも知らないままに。


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