第115話 vsレッドライノス 後編
『憤怒の竜剣』を発動させたハルト。しかし、それはハルトにとってあまり良い展開だとは言えなかった。『憤怒の竜剣』はあくまで最後の手段の一つ。使わないに越したことはないのだ。なぜなら、【カサルティリオ】の能力はあまりにも燃費が悪すぎるから。
この後どれだけ戦わなければいけないかわからない以上、消耗はできるだけ抑えたかったのだ。しかし、A級のレッドライノスを相手にそんな余裕がないことをハルトは身をもって知った。
足を潰せば倒せると踏んでいたが、逆にレッドライノスは足を折られたことに逆上し、さらに手が付けられなくなった。その結果イルへの攻撃を許してしまったのだ。
ハルトはそこでリリアに言われていたことの一つを思い出していた。
それは訓練中のこと。ハルトは魔物と戦う際の心構えをリリアに聞いたのだ。
「魔物と戦う時の心構え構えを教えて欲しい? うーん、絶対に勝つとか、そういう気持ちかな」
「それもそうかもしれないけど、そういうことじゃなくて……うーん、なんて言ったらいいんだろ。姉さんが魔物と戦う時に意識してることとかないの?」
「そうは言うけどねー。やっぱり勝つ意識が一番大事だよ。私の言う勝つっていうのはね、ただ目の前の魔物に集中して勝つってこと。他のことは考えちゃダメ」
「他のことは考えないってどういうこと?」
「そのままの意味だよ。まぁ、これは魔物だけの話じゃないけど。魔物だと特にって話かな。魔物は常に全力だよ。全力で命を狙って来る。後のことなんて考えない。その場での勝利を純粋に求める。翻って私達は? きっと違う。魔物に勝った後のことを考えて動くことがある。体力を残しておかないといけないとか、そんなことをね。考えちゃうでしょ?」
「うん。そう……かも」
ハルトはリリアの言うことに心当たりがあった。どうしても先のことを考えてしまう。色々な事態を想定してしまうからこそだ。しかしリリアはそれがダメだという。
「魔物との勝負は命のやり取り。勝って嬉しい、負けて悔しい試合なんかとは違う。勝てなかったら死ぬ。そういうものなんだよ。だから、魔物と戦うなら私達も全力を尽くさないといけない。余力なんて考えずに、常に全力でね。それが魔物と戦う時の私の心構えだよ」
リリアの言葉を思い出しつつ、ハルトは向かって来るレッドライノスを見据える。結局の所ハルトはリリアの言ったことを正しく理解できていなかったのだ。
余力など考えず、最初から全力を出していればもっと早い段階で決着をつけることができたかもしれない。右足を攻撃した時に折るだけでなく、勝利できていたかもしれないのだ。だからこそハルトは全力を出すことを決意した。絶対に負けないために、勝利を得るために。後のことなど考えずに。
「はぁああああああっ!!」
「ルゥォオオオオオオオオオオッッ!!」
レッドライノスの突進は足が折れている影響もあってか、僅かにスピードが落ちていた。それでも当たればひとたまりもない威力を保有していることは確かだ。レッドライノスは鋭利な角でハルトのことを仕留めんと姿勢をさらに低く、スピードを上げる。それに気づいたハルトだが、退くことは選ばなかった。この一撃が最大にして最後のチャンスだと直感していたから。
目の前の獲物を呑み尽くそうとハルトの持つ【カサルティリオ】が燃え上がる。そしていよいよハルトとレッドライノスの距離が零になった。
レッドライノスの角とハルトの剣がぶつかり合う。体格差で見ればハルトの圧倒的不利。いくら魔力で体を強化できるとしてもハルトがレッドライノスの突進を止められる道理はなかった。しかしハルトには【カサルティリオ】がある。『憤怒の竜剣』の効果でいつも以上に力が増しているハルトは足から根っこが生えたかのように一歩も引かなかった。
とはいえ、レッドライノスもA級の魔物。それだけで押し切れるほど甘いはずがなかった。ハルトと力が拮抗していると見るやいなや、大きな雄叫びを上げてじりじりとハルトのことを押し始める。
「ぐっ、そんな……」
『こやつ、折れた足で踏み込んでおるぞ!』
無意識に庇おうとしていた右足。折れたことで使いものにならなくなったはずの右足。レッドライノスはそれを使って突進力を増していた。もちろんそんなことをして右足がただで済むはずがない。レッドライノスの右足からはとめどなく血が溢れ出ていた。それでも止まる気配はない。レッドライノスも理解していたのだ。この一撃こそが決着の一撃であると。
ジリジリと押され始めるハルトの体。それでもハルトは諦めなかった。
「負け、るかぁああああああああっっ!!」
「ルォッ!?」
正真正銘の全力。余力など一切残すまいとハルトは魔力を絞り出す。そうしなければ押し切られることは明白だった。そして、そんなハルトの熱量に応えるように『憤怒の竜剣』で炎を纏った剣の炎圧が上昇していく。
『決めるぞ主様!』
「うん!」
剣を思い切り振り切って、レッドライノスをのけぞらせるハルト。それはまさに千載一遇のチャンスだった。
高く跳んだハルトは剣を振りかぶる。
「——『地砕竜爪』!!」
そして、新しく編み出したハルトの必殺技がレッドライノスを斬り裂いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます