第110話 王城の外では

 ハルトとイルが王城で戦っているその頃、王城の外でも戦いが繰り広げられていた。空に開いたワープゲートから降って来る無数の魔物達。それを見た王都の住民は悲鳴を上げて逃げまどっていた。

 しかし、多くの魔物達は地上に着地することすらできなかった。なぜなら、王城の外にはエクレアがいたから。


「やっと攻めてきたと思ったらさー、こんな有象無象の集まりなんて。萎えるなー」

『まぁ文句言わないでよ。何もないよりはマシでしょ』

「魔物の質によるよ。これなら屋台のご飯食べてる方がずっとマシだった」


 エクレアの目で見る限り、多くの魔物はC級やB級。稀にA級が混じっている程度だ。エクレアからすれば脅威でもなんでもない。それでもここで真面目にやらなければアウラに怒られる。だからこそ面倒だと思いつつも落ちてくる魔物を処理していた。

 ちらりと下に目をやれば教会や王国軍が住民の避難誘導をしている。エクレアが討ち漏らした魔物もしっかりと処理しているようだ。


「まぁ、これなら大丈夫なんじゃない?」

『気を抜くのはまだ早いよ。魔物はまだ落ちてきてるわけだし。もしかしたらとっておきもいるかもしれない』

「それならそれでいいんだけどねぇ。でもこのゲート、どこから出してるんだろ。ざっと見る限りそれっぽい術者もいないけど。結局元を叩かないといつまでも落ち着かないよこれ」

『さっきから探ってるけど、巧妙に隠してるみたいだね。頑張ったら見つけられるだろうけど、それでも時間がかかりそうだ』

「うーん、じゃあしばらくは片っ端から処理していくしかないかな。つまらなさすぎて寝ちゃいそうだけど。ケリィは頑張って探しててよ」

『りょーかい……って、ん? 待ってエクレア。何か来る』

「ほんとだ。魔族っぽいね」


 ゲートの中からエクレア向けて一直線に近づいて来る気配。エクレアが気付くと同時にそれは姿を現した。


「えーと、一応聞いとくけど……誰?」


 ゲートの中から現れたの五人の魔族。そのうち四人は浅黒く染まった肌ととがった耳が特徴的なダークエルフであることはエクレアにもわかった。

 残りの一人は緑色の肌にエクレアの胴体よりも太いのではないかと思うほどの腕を持つ筋骨隆々な魔族。特殊変異で力を得たギガントオーガだった。S級の魔物にも勝るとも劣らない存在だ。ギガントオーガはエクレアの前で仁王立ちし、見下ろしている。


「貴様がエクレアか」

「そうだよ。アタシがエクレア」

「ふん、貴様のような小娘が本当に強いのか? 信じられんな」

「ギーグ様、気を抜かれませぬよう。この女は今まで数多の魔族を葬っています。我らにとって憎むべき怨敵です」

「わかっておるわ。どのような存在にも手を抜かぬ。それが俺の流儀。貴様のことも全力で叩き潰してやろう」

「うわー、すごい小物臭」

『エクレアの力量が見抜けない時点でお察しだね。何かあるかなーなんて思ってたけど、もしかしてこいつがそうなのかな。だとしたら拍子抜けだけど』

「何をごちゃごちゃと言っている」

「なんでもないよー。それよりほら、やるんでしょ? 五人まとめてでもなんでもいいからかかっておいでよ」

「その余裕がどこまで続くか……試してやろうっ!」


 踏み込んできたギガントオーガ。一瞬でエクレアとの間合いを詰め、巨腕を振り下ろす。くらえば人間などリンゴのように粉砕されてしまうだろう。しかしエクレアはその一撃を片手で受け止める。


「なにっ!?」

「いやいや。こんなことで驚かないでよ。仕掛けてくるならさぁ、もう少しアタシのこと調べてきたら?」

「この……なめ、るなぁっ!!」


 さらに腕に力を込めるギガントオーガだが、エクレアはビクともしない。血管が切れるのではないかと思うほど力を込めるギガントオーガだが、それでもまだ足りない。


『エクレア。早く終わらせて。あいつら何かしようとしてる』

「知ってる。でもどんなのか気にならない?」

『そうやって調子に乗ってると大変な目に遭ってアウラに怒られるよ』

「そうかもね。でもまぁ、たまにはいいでしょ」


 戦い続けるギガントオーガの助力をするわけでもなく、四人のダークエルフはエクレアのことを取り囲むようにして展開してる。ダークエルフが何かしらの呪文を詠唱していることに気づいていたが、少しでも楽しむためにあえて無視していた。


「その油断が命取りになるということを知れ」

「我ら魔族が生み出した術式結界」

「その真価を」

「とくと味わえ!」


 詠唱が完了した四人が同時にパンッと手を叩く。するとエクレアを起点にして巨大な魔法陣が展開される。


「「「「秘術——【弱鈍零落】!!!」」」」


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