第109話 ハルト達の戦い

 空から落ちてくる無数の魔物の群れ。それを見た王城内にいた人々は阿鼻叫喚に陥ってしまう。


「イルさん!」

「わかってる! オレ達はここで魔物を食い止めるぞ!」

「うん!」

『クハハハハ! 大量じゃのう! やってやろうではないか!』


 逃げようとする人々を守るためハルトとイルは魔物の群れに立ち向かうことを決意する。王城内にいた教会の人がすでに避難誘導を始めている。ハルト達はそれが完了するまで時間を稼ぐつもりだったのだ。


「王城内には他国からの要人も多い。まぁそいつらも護衛くらいは連れてるだろうから大丈夫だと思うが、もし何かあれば即国際問題だ。この場を乗り切れても王国の立場が危うくなる。オレ達の後ろに魔物を通すなよ!」

「わかった!」

『こんな時までそんなことを気にせねばならんのか。面倒じゃのう。まぁ、妾は暴れられるのであればよいがな』

「すぐに応援もくるはずだ。気を抜くなよハルト!」


 ハルトは意識を戦闘へと集中させる。【カサルティリオ】を構え魔物の先頭集団へと斬りこむ。魔物達は餌が飛び込んできたと言わんばかりにハルトに一斉に飛び掛かる。しかしハルトの心に焦りはない。鍛練中にリリアに言われたことを思い出していた。

 それは少し前のこと。いつものようにリリアと鍛練していた休憩中に、ハルトはリリアに聞いたのだ。


「姉さん、聞きたいことがあるんだけど」

「ん? なぁにハル君。お姉ちゃんなんでも答えてあげるよ」

「ボク、いつも姉さんと訓練してばかりだけどさ。魔物と戦う時って絶対に一対一ってわけじゃないでしょ? 色んな魔物に囲まれた時ってどうしたらいいの?」

「あー、そっか。ハル君はまだ対多戦闘ってゴブリンしか経験なかったっけ? そうだなぁ、ハル君は剣士だよね」

「うん。そう……なるのかな」

「魔法を使えるなら範囲魔法を使うとか色々手段はあるんだけど、剣士はそうじゃない。まぁ剣を極めていけば衝撃波飛ばして遠距離攻撃とかできるようになるけど。まだハル君はできないから、意識することは一つ。一対一を作ること。集団戦闘の中でもそれは変わらない」

「でもそんなのどうやって? 囲まれてる状況じゃそんなの無理なんじゃ」

「まずは視ること。魔物は基本的に本能で動く。連携を取ろうとする人とは違う。だから誘導もしやすいの。どの魔物が自分に一番近いか、遠距離攻撃を持ってる魔物はいないか。それを判断して立ち回る。これが上手になっていけば魔物の同士討ちを狙うこともできるようになるよ」

「そんなこと……ボクにできるかな」

「まぁ最初は難しいかもね。私も最初は苦労したし。でもハル君は一人じゃないでしょ? ハル君にはリオンがいる。視るための目が多い。それは他の人にはない、大きなアドバンテージだよ」

「うむ。そうじゃのう。戦闘中、妾は主様の矛であり、盾であり、目になろう。妾がおる限り主様に死角はない。安心するがよいのじゃ」

「弱い魔物ほど群れる。群れてる魔物なんて物の数じゃない。冷静であれば絶対に勝てるはずだよ」

「うん……わかった!」

「って言っても、結局は練習しないとだしねー……そうだな。今度は多方面からの攻撃対処の練習しよっか。よし、そうと決まれば休憩終わり! さっそくやるよハル君!」

「え、ちょ、姉さん!? まだちょっと——うわぁあああああ!」


 その後の地獄のような訓練。比喩なくハルトは死にかけた。それに比べれば目の前にいる魔物達は有象無象でしかなかった。


(一番近いのは右から来る狼の魔物。ざっと見る限り遠距離攻撃を持ってる魔物もいない。落ち着いてやれば対処できる!)


『来るぞ、主様!』

「っ!」


 一番最初にハルトに飛び掛かって来たのは素早い動きに定評があるツインウルフだった。鋭い牙を持つ双頭の魔物だ。しかし速いだけで攻撃手段自体は単純だ。爪と牙で獲物切り裂き、喰らう。それだけ。特殊な能力は持っていない。


「いくら速くてもっ!」


 ハルトはまっすぐ跳び込んできたツインウルフの攻撃を避け、すれ違いざまにその胴体を斬る。それだけでツインウルフは物言わぬ骸となる。


『次は右じゃ主様!』


 リオンの言う通り、右から飛び掛かって来たニードルラビットをハルトは斬り落とす。魔物に囲まれるわけにはいかないので、常に足を動かしてできるだけ正面に魔物の群れを捉えるようにする。

 その後も二体、三体と次々にハルトは魔物を処理していく。しかしそれでも魔物の数は一向に減らない。ハルトが魔物を倒すペースより、ゲートから魔物が落ちてくるペースの方が速いからだ。


(今はまだなんとか対処できる。でもこのままじゃジリ貧だ)


 負けない戦いはできる。しかしそれでは勝つことはできない。これが範囲攻撃を持たないハルトの限界だった。しかし、今のハルトは一人ではない。


「避けろハルト! 『ツインホーリーランス』!!」


 ハルトの後ろで詠唱を続けていたイルが【聖魔法】を放つ。巨大な二本の光の槍はハルトに襲い掛からんとしていた魔物達を一瞬で蒸発させる。


「ありがとイルさん!」

「礼なんていいから集中しろバカ! 次くるぞ!」


 イルが魔物を消し飛ばしても、まだまだ魔物は減ったわけじゃない。次から次へと魔物は襲いかかってくる。再び魔法の詠唱を始めるイル。そしてハルトもまた魔物の群れへと突進するのだった。


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