第102話 パレードの流れ

 イルに連れられてやって来たのは会議室だった。その中にいたのはアウラとエクレアだった。


「連れて来た……来ました」

「ありがとうイル」

「お疲れー」

「えっと、ボク何の用事か聞かされてないんですけど」

「え、イル言ってないの?」

「ハルト。お前朝言ったこともう忘れたのか?」

「朝言ったこと? イルさんに説教された時のことだよね」


 そう言われてハルトは朝の出来事を思い出す。しかしハルトの記憶の中に残っていたのは説教のことばかりでイルに何を言われていたのかを思い出すことができなかった。そんなハルトの様子を見ているが額に青筋を浮かべる。


「お前、その様子だとマジで忘れてるみたいだな」

「え、あ、ごめん! す、すぐに思い出すから!」


 焦れば焦るほど記憶というものは出てこないもので、慌てるハルトを見てアウラは苦笑いし、エクレアはニヤニヤと笑っていた。そんなハルトに助け舟を出したのは隣に立っていたリオンだった。


「主様よ、パレードの予定についての話なのではないか? ご両親を迎えに行き、戻ってきたらその話をすると言っておったではないか」

「あ、そうだ! それだ!」

「さっさと思い出しやがれこのバカ! それ以外の話なんてあるわけないだろうが!」

「イル。そう怒らないでください。ハルト君も色々と大変だったのでしょう。聞きましたよ。聖剣の修行を受けられたと」

「え、なんで知ってるんですか?」

「もちろん知っていますよ。と言っても気付いたのは私ではなくケリィなのですが」

「そーそー、ケリィが気付いたんだよね。まぁアタシも同じようなことしたことあるし」

「そうなんですか!」

「うん。ケリィは確か……『ビリビリ道』ってやつだっけ?」

『『雷撃道』だから。ビリビリなんて可愛いものじゃないから』

「え、でもちょっと痺れたくらいだったし」

『それで済んだのエクレアだけだから。致死の電撃受けて笑ってられるのエクレアくらいだから』

「誰でもできると思うけどなぁ。ところで後輩君はどんな修行だったの?」

「ボクの修行は——」

「主様、妾達の修行は明かしてはならんのじゃ。どこの誰が真似するやもしれんからのう」


 リオンのその言葉がケリィに向けて言われていることは明白だった。その言葉聞いて剣の中にいたケリィがにゅっと現れる。


「誰があんたみたいな駄剣の真似するっていうの?」

「駄剣じゃと? その言葉そっくりそのまま返すのじゃ。剣としての性能で妾に劣るからと僻むでないわ」

「誰が、誰に劣ってるって?」

「お主が、妾に、劣っておると言ってるのじゃ」

「二人ともホントに仲悪いねー。別にどっちがどっちだっていいじゃない。大事なのは使い手。そうでしょ。つまり使い手をいかに成長させれるかが聖剣の意義。違う?」

「それは……違わないのじゃ」

「だったら君もいちいちケリィにつっかからないで、後輩君の育成に注力しなって。もし後輩君が今よりもっと。アタシの足元くらいには強くなれたら……その時はアタシもケリィも君達のこと認めてあげるからさ」

「ふん、何が足元じゃ。今に見ておれ。主様と妾はお主たちを超えて見せる。今は無理でもな」

「それは楽しみだ。後輩君のお姉さんといい、私に挑む気概を持つ人が増えて嬉しいよ。最強っていうのはさ、退屈なんだ。本当に……楽しみにしてる」


 底の知れない笑みを向けられて、ハルトは思わずゾクッとしてしまう。そんなハルト達の間に割って入ったのはアウラだった。


「話し合いはもうその辺りでいいですか? 私も話をしたいのですけど」

「うん。もちろん。どうぞどうぞ」

「すいません。大丈夫です」

「それじゃあ、明日のパレードのことについて軽く話しますね。イルから言われていると思いますけど、ハルト君は簡単な流れだけ覚えてください。必要なことは全部イルに覚えてもらってますから。ね、イル」

「不本意だけどな。今さらハルトに全部覚えさせるなんて無理だし、しょうがない」

「そういうわけで、ハルト君の隣には常にイルをつけますので。あんまり緊張することはないですよ。強いて言うならエクレアのように変なことを言ったりしないで欲しいってくらいですけど。エクレアと違って真面目なハルト君なら大丈夫でしょうし」

「ん? なんか言葉の端々にアタシに対する棘ない?」

「いっっっつも私に迷惑をかけるエクレアとは違うとわかってますので。心配はしてませんけど……きっと緊張はするでしょうから。困ったことがあればイルを頼ってあげてくださいね」

「は、はい。わかりました」

「流れは簡単です。明日、ちょうどお昼前ですね。教会の前からパレード用の馬車が出ます。ハルト君とイルにはそれに乗ってもらいます。後は順路通りに王城まで移動しますので、その間民の方たちに手を振ってあげてください。笑顔を忘れずに、ですよ」

「笑顔……ですか」

「ハルト君は表情が硬くなりがちですからね。意識してください。王城についてからは王様のいる玉座まで直進です。王城は貴族の方たちも多いので、好奇の視線に晒されるでしょうが耐えてくださいね。後は王様と簡単に言葉を交わすだけです。そこで話すのはイルがメインになるので、ハルト君は聞かれたことにだけ答えてください。わからないならイルに投げてくれてもいいので。それが終わったら、王城から、王城にある広場に集まった民衆に向けて姿を見せる。それでパレード自体は終わりです」

「え、それだけ……ですか?」

「えぇ。もっと色々とあると思いましたか?」

「えっと……はい。そう思ってました」

「昔は色々とやったそうなんですけどね。エクレアのような《勇者》もいますから。できるだけ簡単に、短く行うようになったんですよ。まぁエクレアはこの簡単なパレードですらできませんでしたが」

「やっぱりアタシに対する当たり強いよね!? あの時のことそんなに怒ってるの?!」

「怒らない理由がないので。とにかく、これが一連の流れになりますけど……私達には一つ大きな問題があります」

「魔族の襲撃……ですね」

「えぇ。こればかりはタイミングがわかりませんから。未然に防げたら一番ですが、今の所魔族が見つかったという報告も受けてません。ハルト君が伝えてくれた彼も同様です」

「そうですか……」

「情けない話ですが、こうなった現状でもパレードの中止はできませんでした。魔族の脅威を知らないお偉方は、何かあればすぐに対処すればいいと、その程度に考えています。エクレアがいるから大丈夫だと思っているのでしょうけど。狙われているのはハルト君です。くれぐれも注意してください。こちらで用意する服もできるだけ動きやすさを重視したものにしましたので」

「わかりました」

「私達の成功条件はパレードを無事に終わらせることが一つ。それよりも大事なのは全員が無事でいること。私達の力を合わせて明日を乗り切ってみせましょう!」

「はい!」


 アウラの言葉にハルトは力強く頷き、明日への心構えを作るのだった。






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