第101話 ユナの憂鬱

 部屋に戻ったハルトの元にしばらくしてからユナがやって来た。


「ハルト、少しいい?」

「ユナ? うん、大丈夫だよ」

「入るわね」


 部屋に入って来たユナはリオンの姿を見るなり眉をひそめる。


「なんでその子が部屋にいるの?」

「え、あ、あぁ。リオンのこと? えーとその……」

「妾は主様の傍に居るのが当然じゃからな」

「主様? 主様ってどういうこと?」

「あー、えーと! その、それは……」


 こういう時リリアのように機転が利かない自分のことを恨めしく思ってしまう。リオンのことを誤魔化す上手い言い訳が思いつかなかった。


「主様は主様だよぉ」

「ちょ、あなた誰!? どこにいたの!?」


 そんなハルトに追い打ちをかけるように現れたのは、【カサルティリオ】の中に姿を消していたはずのロウだった。ユナは突如として現れたロウの存在に驚きを隠せないでいた。


「私? 私もリオンと同じ主様の物だよ」

「も、物!? ハルト、ちょっとどういうこと! こんな小さな女の子達に何教えてるの!」

「いやその、それは違くて……なんて言ったらいいのか」


 しどろもどろになるハルトに詰め寄るユナ。リオンはそんな二人の間に割って入り、ユナのことを睨みつける。


「おいなんなのじゃ貴様。これ以上主様の無礼を働くようなら妾にも考えがあるぞ!」

「えっと、あぁもう! わかった、説明する! 説明するから二人とも落ち着いて!」


 もうどうしようもないと思ったハルトはユナに全部説明することを決めた。そうでもしなければ納得してくれないであろうことは明白だったからだ。

 睨み合う二人を無理やり引き離したハルトはユナにリオン達の存在について説明する。最初は怪訝そうな顔をしていたユナだったが、説明が進むごとにその表情が変わり、最後の方には頭を抱えだした。


「えっと、ちょっと待って。それじゃあ……この子達がハルトの使う聖剣……ってこと?」

「うん、そういうことになるね」

「この女の子達が?」

「う、うん」

「不健全!」

「そう言われると思ったから隠しておきたかったんだよ!」

「だって、ダメでしょ! いくら聖剣だからってこんな小さな女の子達を使って戦うだなんて。もしハルトの性癖が危ない方向に歪んだらどうするのよ!」

「えぇい! 小さい小さい言うな! 妾はこれでもお主より年上じゃぞ!」

「見た目がそう見えなかったら年上でも関係ないでしょ! ロリっ子は黙ってて!」

「なんじゃと貴様ぁ!」

「二人とも落ち着いて!」


 その後、言い合いの喧嘩を初めてしまった二人を宥めるのにハルトは気力と体力を消耗し、二人の喧嘩に巻き込まれることを嫌がったロウは気付けばいなくなっていた。


「と、とにかく。リオンはボクに力を貸してくれてる子なんだ」

「それはわかったけど……だからって納得はできない」

「ふん、お主の理解など必要ないわ」

「ほんっと生意気ねあなた」

「生意気な小娘には言われたくないのじゃ」

「「…………ふんっ」」


 睨み合う二人の相性の悪さは出会った当初のリリアとリオンを彷彿とさせるほどだった。この二人の仲をどうやって取り持とうかと考えていると、再びハルトの部屋のドアがノックされる。


「オレだ。いるかハルト」

「え、あ、イルさん? いるけど」

「入るぞ」


 ハルトがいることを確認したイルはそのまま遠慮なしにドアを開く。入って来るなりイルが見たのは見知らぬ女と不機嫌なリオンの姿、そしておろおろしているハルトというわけのわからない状況だった。


「どういう状況だ?」

「ま、また女の子……今度は何。あなたは何なの?」

「オレか? オレはイルだけど……誰だお前。っていや待てよ。どっかで見覚えが……」

「?」

「あ、そうかお前あの時の女か」

「???」

「なんでもない。こっちの話だ」

「そ、そう。私はユナよ。ユナ・マクファー。ハルトの幼なじみ」

「お前がそうなのか。なんでハルトの部屋にいるんだ?」

「べ、別に特に理由はないけど……ただちょっと話をしようと思っただけで。あなたはハルトに何か用なの?」

「用が無けりゃ来るわけないだろ。明日の事で話があったんだ」

「明日の事?」

「まだ明日のことなんも理解してないお前に、時間作って説明してやるって言ってんだ。ハルトのことちょっと借りるぞ」

「ね、ねぇ。あなたは、その……ハルトの何なの?」

「何なのってなんだよ」

「だ、だって妙に馴れ馴れしいっていうか。親しいっていうか……そんな感じがしたから」


 ユナからすればイルは口は多少悪いが、見た目はとんでもない美少女だ。自分の知らないうちにハルトが多くの少女と仲良くなっていて、ユナからすれば気が気ではなかった。


「別に親しいわけじゃねーよ。ただこいつがだらしないからオレが面倒事押し付けられてるだけだ。オレは《聖女》だからな」

「え、あなた《聖女》なの? でも《聖女》って黒髪の女の人だけなんじゃ……」

「オレは今年聖女に選ばれたばかりなんだよ。だからアウラに、もう一人の《聖女》にハルトと一緒にいるよう言われただけだ」

「そ、それってつまり……あなたがハルトの相棒ってこと?」

「そんな大層なもんじゃねーよ」


 そう言って否定するイルだが、周りから見ればハルトとイルの関係というのはそういうものなのだ。エクレアとアウラのように、《勇者》と《聖女》は一つのペアとして見られることが多い。新しく《勇者》になったハルトと《聖女》となったイルが一つのペアとして考えられるのは仕方のないことなのだ。


「こんな可愛い子がハルトの……」

「……あんたが何心配してるか知らないけど、オレとハルトは別になんでもないから。それじゃあ行くぞハルト。オレは忙しいんだ」

「あ、うん。わかった。ごめんねユナ。話はまた後で聞くから」

「うん、わかった……また後でね」


 心の中にモヤモヤとしたものを感じながら、ユナはハルトのことを見送るのだった。


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