第100話 守る決意

 王都へ戻ってきたハルトはルーク達を教会へと連れてきていた。パレードのこともあって、どこも宿がいっぱいだったせいでルーク達が止まる場所が無かったからだ。


「いいのか? 俺達が教会に泊めてもらっちゃって」

「うん。もう王都の宿はどこも人でいっぱいだからって。アウラさんにもちゃんと許可はもらってるから」

「さすが王都だなー。ルーラなんかどんなに人が来ても宿がいっぱいになるなんてことないのに」

「そうねぇ。こうして来てみるとわかるけど、どこも人が多くてびっくりしちゃうわ」

「『神宣』以来だけど、あの時に負けないくらい人が来てる……この人たち全部ハルトのパレード見に来たんだ」

「そういう言い方されると胃が痛くなるんだけど……」

「でもそうでしょ」

「そうなっちゃうのかな」


 ハルトが思っている以上にパレードの注目度は高い。国内外から注目されているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。それだけ《勇者》というのは大きな存在なのだ。


「皆様、お待ちしておりました」


 ハルトがルーク達を連れて教会の中に入ろうとすると、パールがハルト達のことを出迎えた。


「私はハルト様の世話役をさせていただいております、パール・ジェネラと申します。以後お見知りおきを」

「おぉ、可愛いこじゃないか。こんな子が世話役だなんて、やるなぁハルト」

「《勇者》ともなると世話役なんてつくのねぇ、羨ましいわぁ」


 と、おおむね好意的な反応のルークとマリナに対しユナは少しだけパールを見てムッとしていた。


「ねぇハルト。この子がハルトの世話役なの?」

「う、うん。そうだけど……それがどうかした?」

「あんな可愛い子がハルトの世話役だなんて……想像もしてなかった。どうしよう……」

「ふふふ、焦ってるなーユナ。まぁそりゃあんな可愛い子がいたら当然だけど」

「えーと……と、とにかく案内させていただきますね。すでに部屋は用意してありますので」


 パールが先導して歩き出し、泊まる場所へと案内する。ルークとマリナで一室、ユナとシーラで一室の合計二部屋だ。ハルトの部屋から近い場所に部屋は用意されていた。


「お風呂は室内に設置されています。ご自由に使用してください。食事は教会の食堂を利用していただくこともできますが、希望があればおっしゃってください。できる限り希望に添えるようにしますので。後はなにか用事があればそちらの呼び鈴でいつでもお呼びください。教会内は一部の立ち入り禁止区域以外は自由に行動していただいて構いませんので」

「おぉ、ずいぶんと至れり尽くせりな待遇だな」

「そんなことはないですよ。本当なら《勇者》様の関係者として一流のホテルを用意すべきところですから。この程度のことしか申し訳ありません」

「いえいえ、私達にはそれでも十分過ぎるくらいだものぉ。変に高いホテルを用意されても逆に肩が凝りそうだし」

「確かにな。作法もなにもない俺達じゃ高級ホテルは身の丈に合わないってやつだ」

「私達もどーかんって感じかなぁ。教会の部屋も普段私達が住んでる部屋より広いし、十分だよね」

「うん。そうね。それに……」


 チラ、とユナがハルトに視線を送る。それに気づいたハルトが目を合わせるとユナはすごい勢いで目を逸らした。そんなユナを見てシーラはニヤニヤと笑う。


「ハルト君と近い方がユナは嬉しいもんね」

「ちが! 違うから! 変なこと言わないで!」

「もー、そうやってすぐ怒るんだから。たまには素直になりなさいっての」

「私が普段素直じゃないみたいな言い方しないで!」

「素直じゃないじゃん」


 やいのやいのと言い合う姉妹を見てパールは苦笑いする。


「ハルト君。このお二人はいつもこんな感じなんですか?」

「え、うん。そうだね。だいたいこんな感じかな」

「元気じゃのう」


 荷物整理のためそれぞれの部屋へと向かったルーク達。そしてハルトとリオンも自室へと戻った。


「主様の家族は優しそうじゃったのう」

「厳しい所もあるけどね。二人とも優しいよ」

「ふふ、それは良いことじゃ。にしてもそうなると不思議じゃのう」

「何が?」

「あのご両親からなぜリリアのような存在が生まれるのか……生命の不思議じゃ」

「リオンの中で姉さんはどんな存在なのさ……」

「主様のことを鍾愛する驚異的な力を持つ女じゃ。妾も圧し折られるのではないかと恐怖を覚えたほどじゃからな。まぁそんなことはあり得んが。実のところを言うならば、主様のご両親がリリアのようであったらどうしようかと思っていたのじゃ。あれがさらに増えるなど考えたくもなかったからのう」

「酷い言われようだね……でも否定しきれないのなんとも……」


 ハルトだってリリアが三人いるなんてことは考えたくない。それはもういくらハルトでも精神が持たないことはわかり切っていた。


「しかしよかったのか主様よ」

「良かったって何が?」

「本当にご両親と友人をこの王都に招待して、じゃ。今がどういう状況かはわかっておるのじゃろう」

「それはわかってるんだけど……今さら来るな、とは言いづらくて」

「それでも危険に晒すよりはマシじゃと思うがなぁ」

「ごめん……で、でもね。姉さんが言ってたことがあるんだ」

「言ってたこと?」

「うん。家族を危険に晒したくないなら、ボク達で守ればいいって」

「……なるほどの。脳筋なリリアが言いそうなことじゃ。計画も何もない無責任な言葉じゃが……一理あるとも言える。妾達が守れば何も問題はないわけじゃからな。やってやろうではないか。妾を主様がおれば不可能はないのじゃ!」

「私もいるよ~」

「「うわっ!?」」


 ぬるっと突如現れたロウに驚きの声を上げるハルトとリオン。そんな二人を見てロウはしてやったりと言わんばかりにニヤリと笑う。


「びっくりした? 驚かせちゃったかなぁ」

「きゅ、急に出てこられたらびっくりするよ」

「妾は別にびっくりしておらんのじゃ!」

「隠さなくてもいいのにー。まぁいいや。私も主様の家族と友達を守ってあげるよ。主様の大事なものは私が全部守ってあげる。面倒だけど」

「面倒は余計なのじゃ」

「ありがとね二人とも。頑張ろう」


 家族と友達を守る。ハルトは改めてリオン達とそう誓うのだった。


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