第99話 家族との再会

 三時間後、ハルトはリオンを連れて門の前までやって来ていた。


「ここで待っておればよいのか?」

「うん。イルさんから言われたのはここのはずなんだけど……誰もいないね」


 転移門を開ける人間は限られている。だからこそ誰かいるとハルトは思っていたのだが、門の前には誰もいなかった。


「時間間違えたわけじゃないよね」

「それは間違いないはずじゃぞ。となれば、担当の者が遅刻しておるのじゃろう」

「うーん、どうしよっか。一度教会に戻るっていうのもありかもしれないけど」

「それは面倒じゃのう」

「ご、ごめんなさーーい!」


 教会に戻ろうとしたその時だった。遠くから謝りながら走って来る人影が一つ。その人はハルト達の前まで戻って来るとぜぇぜぇと息を吐きながら平謝りする。


「ほんっとごめんなさい! その、忘れてたとかそういうんじゃないんですよぉ。ただちょっと昨日の夜に飲みすぎちゃっただけっていうか、ちょっと寝坊しちゃっただけっていうか……って、あれ? ハルト君ですか?」

「ミレイジュさん?」


 走ってきたのはミレイジュだった。まさかミレイジュがやって来ると思っていなかったハルトは普通に驚てしまう。


「あれ、ご家族を迎えに行くのはリリアさんだと聞いてたんですけどぉ。もしかして寝坊ですか?」

「あぁいえその、姉さんはまだ修行から帰って来てないみたいでして」

「えぇ!? まだ帰って来てないんですか!」

「はい……どこに行ったかもわからないらしくて。姉さんのことだから大丈夫だとは思うんですけど」

「はぇー、ハルト君も大変ですね」

「姉さんの行動が突発的なのはいつものことですから」

「えーと、それじゃあハルト君とリオンちゃんが迎えに行くってことでいいんですかぁ?」

「はい。それで大丈夫です」

「わかりました。それではルーラまでの道を開きますねぇ。ちょっと下がっててください」

「わかりました」


 ミレイジュに促されて、ハルトとリオンは門から離れる。そしてミレイジュが杖を構えると小さな声で呪文を唱える。すると門がゆっくりと開き始め、ルーラへの道が繋がる。



「はい。準備完了です。これでルーラまで行けますよ」

「門が開くところ初めて見ましてけど、こんな感じなんですね」

「門があると便利なんですよぉ。この門が魔法の補助をしてくれるので。私も魔力の消費を少なくして【転移魔法】を使えるんです」

「ふむ。すごいものじゃのう。まぁいつまでもここにおってもしょうがないし、さっさと行くかの」

「そうだね。母さん達も待ってるかもしれないし」

「それじゃあさっそく行きましょう」


 そしてハルト達は門をくぐり、ルーラへと向かった。

 門をくぐり抜けた先にあったのは久しぶりに見る故郷の景色。しかし、ハルトからすれば『煉獄道』で故郷での日々を過ごしたばかりだったので、何とも言えない気持ちになる。


「『煉獄道』で見た景色とあんまり変わらないね」

「それはそうじゃろう。『煉獄道』は主様の記憶を元に作られているのじゃからな」

「あの世界もなかなかリアリティがあったから、なんか久しぶりって感じがしないよね」

「まぁ良いではないか。夢も現実も似たようなものじゃ。大した違いはない」

「夢と現実じゃだいぶ違うと思うけど……」


 ハルトとリオンが他愛もない話をしていると、遠くからハルトのことを呼ぶ声がする。


「おぉーーい! ハルトーー!」

「あ、父さん! 母さんも」


 ハルトのことを呼んでいたのはルークとマリナだった。その後ろにはユナとシーラもいた。


「みんな、久しぶり……だよね?」

「久しぶりと言えば久しぶりだな。まだそんなに経ってないから、久しぶりっていうのも変な感じがするけどな」

「だよね。ボクもそう思う」


 ハルトのことは『煉獄道』での日々があるからなおさらだった。シーラはキョロキョロと周囲を見回すとリリアがいないことを不思議に思って聞いてくる。


「リリアが迎えに来るって聞いてたんだけど、ハルト君が来たの? リリアは?」

「えーと、姉さんは……なんて言うんだろう。修行?」

「修行?」

「うん、ちょっと修行に行ってるみたいで。まだ帰って来てないんだ」

「えぇ……」

「あの子、こんな時まで何しているのよ……」


 シーラが若干引いたような声をだし、マリナが呆れたように顔を覆う。感心しているのはルークだけだ。


「修行か。リリアらしいな」

「らしいなじゃないわ。こんな時に修行だなんて……あの子大丈夫なのかしら」

「リリアなら大丈夫さ。俺達の娘なんだからな。ハルトもそう思うだろ」

「うん、姉さんだからね」

「ねぇハルト、リリアさんのことはわかったんだけど、その子はだれ? その子も教会の人?」


 ユナが指さしたのはハルトの隣に立つリオンだった。


「ん? 妾のことか? そういえば自己紹介しておらんかったの。妾は主様の従者にして——」

「あーー! 教会、教会の子なんだ。今はボクの手伝いをしてくれてて」

「ふぅーん、小さいのに偉いわね」

「む、小さいじゃと! 妾はこれでもお主たちよりずっと——もがっ」

「お、大人ぶりたい年頃なんだよリオンも」

「ふぅーん、まぁ気持ちはわかるけどね」


 いらないことを口走りそうになるリオンの口をハルトは塞ぐ。ハルトはできればリオンはどういう存在であるのかということについては両親にも、ユナ達にも秘密にしておきたかった。理由は単純で、リオンのようなこを使役していると伝えたらなんて言われるかわからないからだ。


「むーっ、むーっ!」


 口を塞がれたリオンは非難がましい目でハルトのことを見るが、ハルトは申し訳なくおもいつつもそれを無視する。


「ごめんね、リオン。またちゃんと折りを見て話すから。今はちょっと……」

「ぷはっ、まったく毎度のことながら。主様は隠そうとしすぎなのじゃ。しかし主様の我儘に付き合うのも妾の務め、広い心で許してやるのじゃ」

「ありがとねリオン」

「えーと、王都に向かうのはこの四人様だけですか?」

「あぁ。そうだな。とりあえず王都に行くのは俺とマリナ、ユナちゃんとシーラちゃんだけだ」

「あれシュウさんはこないの?」

「シュウも行きたがってたけど、仕事が休めなかったんだって。フブキに会いたいーって叫んでたけど」

「あはは、シュウさんらしいね」

「いい気味だけどね。まぁとにかくそういうわけだから、今回はアタシ達だけだよ」

「なるほど、了解です。それじゃあさっそくですけど行きましょうか」


 そしてハルト達は再び門をくぐり、王都へと戻るのだった。


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